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英雄と聖女 編
015. 必中の銀銃
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ユーゴが敵の一翼を打ち崩したのだろう。
それは判った。
だがそれだけだ。
ネルもスウィンもピアも、ゼストが瞬く間に同数の敵を一撃のうちに薙ぎ払った光景は目撃したことも、一人ずつ目にも止まらぬ早技で倒していったのも目撃したことはある。
だが ”敵を攻撃している” という過程どころか、”移動している” という動きすらすっ飛ばしている光景はお目にかかったことがない。
ワイバーンも翼を動かすのを一瞬忘れるくらい驚いたようで、墜落しかけていた。
「ゼスト。そっちは片付きそうか?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
問われて逸れていた意識を、ゼストは戦闘に引き戻した。
さすがユーゴだ。女神の贔屓は伊達じゃない。
「ボクも負けていられないな。しかし、どうするか───」
小出しに迫ってくる敵の群れを律儀に相手していては埒が明かない。
ゼストは三角跳びの要領で上方へ跳ぶと同時に、祝詞を唱えて風の神聖術の塊を地面に叩きつける。
その風圧で頭上高く舞い上がったゼストは、同時に待機させておいた攻撃用の神聖術を発動。威力を抑えるかわりに細かく分散し正確性を増した火の玉を数十個、眼下からゼストを見上げている盗賊たちに向けて放った。
火球を顔や腕に受け戦闘不能に陥る男達。火傷も構わず向かってくる根性のある者もいたが、ゼストがあっさりと打倒した。
ネル達の状況を確認しようとしたところ、
「ああっ‼︎」
鋭い悲鳴が聞こえてきた。
ネルの防護壁が破られ、スウィンに竜騎兵たちの神聖術が命中したのだ。
「スウィン!」
スウィンは左腕を負傷した。ピアは被弾の衝撃により尻餅をつき、ネルは術の疲労から両膝をついて項垂れていた。
まずい───。
隙だらけの彼女たちを、竜騎兵達が追撃しようと祝詞を唱えている。
「風よ!」
ゼストは牽制のために祝詞を短縮して撃ち出した。
しかし、ただでさえ魔法適性が高く風を操ることに長けたワイバーン。しかもよく訓練されているため、ゼストの神聖術を難なく回避した。
だがひとまず竜騎兵達の神聖術は中断することはできた。
この際にネルの代わりに防衛に回る。
しかし竜騎兵達は神聖術を手分けして放ってくる。時間差で間断なく。
対して今のゼストには外向きの神聖術を同時に二種使えない。
防戦一方である。
ピアはまだ幼く戦闘力がまだ低いうえ、そもそも人間体では遠距離攻撃の手段を持たない。
手詰まりかと思った時、
「もしかしてピンチか?」
軽い挨拶でもするように、のんびりとユーゴが歩いてきた。
「まぁね。ユーゴ、なんとか出来ないか?」
「あのデカい羽トカゲを撃ち落とせば良いんだろ? 出来るぞ」
安請け合いしたユーゴに、痛みに顔を歪めながらスウィンが食って掛かる。
「貴方ねぇ。あの動きを見ていたわよね。ゼストさんの神聖術でも避けられたのよ。そもそも貴方、神聖術は使えないのよね。投石したとしても、何の役にも立たないのよ」
「ああ。その神聖術? ってのはよく判んねーけど、使えねぇな。その代わり、俺にはこれがある」
そう言って【無限のおもちゃ箱】に片手を突っ込み、ある物を引き出した。
それは元日本人のゼストですら見たことがない物。
もちろん、存在自体は知っている。
しかし、トレーラーハウス以上に日本の一般市民ではまず目にすることがない物。
ユーゴの手に握られていたのは凶器の代名詞───拳銃だった。
白銀に輝くそれは、中型のセミオートハンドガン。
ユーゴが日本にいた時に愛用していたピストルだった。
Pezzoli Neo-Alpha G-custom というのがその銃の銘である。
通称、ネオアルファ。
異世界へユーゴが転送された際、日本からは持ってこれずにいた愛用品で、そのことに当時はがっかりしていたものだが、とある異世界を救ったご褒美としてユーゴの許に届けられたのだった。
ただし、ある神によってとんでもない改造が為されていたが。
ユーゴが徐ろに銃口を向けた時、パン、と乾いた破裂音がした。
いきなりの大きな音にびっくりする少女たち。しかしそれ以上のびっくりは、ワイバーンの一体の動きが止まり、重力という視えざる手によって地に叩きつけられたことだ。
この時、竜騎兵達の小隊長は、ユーゴの手に握られた道具が撃ち出した何かが原因だと直感した。
おそらく、はるか南のヨウゲン国で最近開発された銃という兵器だろう。そう察した小隊長は部下たちに「散れ!」と号令をかけた。
噂では、鉛の弾を筒から目にも止まらぬ速さで遠くへと撃ち出すという。
しかし弾の軌道は直線的であるとも聞く。であれば、動き回れば中たりはしない。
そのはずだった。
再び残響を含んだ破裂音が鳴り響くと、小隊長が駆るワイバーンの頭が撥ねた。
「なっ⁉︎ ……うわぁぁぁっ!」
驚きも束の間、小隊長もワイバーン諸共墜ちていった。
人一倍動体視力の優れているゼストには視えた。だが、やはりこれもまた理解できない。
何故ならば、あまりにも非常識だからだ。
ゼストの常識では、銃弾の軌道は直線的であり、決して曲線を描くものではない。しかし、ユーゴの放った弾丸は大きく曲がり、ワイバーンを直撃した。
かつてイタリアの闇の銃職人であるペッツォーリが、ユーゴのためだけに新しく作り上げた特別製の一丁。
頑丈で故障が無く、手入れもほぼ不要。それでいて正確無比という逸品。
シンプルだが、己の狙いが正確であればそこに間違いなく飛んでいくという拳銃の真髄を極めたような白眉。それがユーゴのお気に入りだったのだが───
「ひぃっ!」
「逃げろっ!」
指揮官を失い浮き足立つ竜騎兵たち。蜘蛛の子を散らすように逃走を図る。
実のところユーゴは、ここまで手を貸すつもりは無かった。
これはゼスト達の人生で、ゼスト達の物語。
あくまで一時の旅の道連れがでしゃばりすぎるのも良くない。あまり大きな影響をあたえるのも考えものだが。
俺もまだ甘いってことか。
内心で苦笑しながら、ユーゴは銃爪を引き絞った。
発砲音が響く度、いくつもの銃弾が複雑な曲線を描いてワイバーンの頭を撃ち抜いていく。
───銃口がどこを向いていようが、ユーゴの視界にあり、彼が的と認めた箇所へ弾丸を飛ばす自動追尾の銃。そんな面白くもない駄作に成り果ててしまった。
いつだったか、ユーゴはユーラウリアに言った。
『おい、なんだこりゃ。誰がこんな魔改造してくれって頼んだ』
そこに、声だけだが抗議がユーゴに届いた。
『魔改造ってなんじゃ⁉︎ どこからどうみても神改造じゃろうが‼︎』
どうやらネオアルファ を改造した神本人らしい。
以降もこの神はユーゴ所有だった物品に勝手に手を加えたり、新たにとんでもない物を作って寄越した。
とにかく、このワイバーンを撃ち落とす行為はユーゴにとって戦闘ではない。射的ですらない。
強いて言えば、殺虫スプレーで蚊を殺すようなもの。
つまり、駆除だ。
──────to be continued
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
お読みいただき誠にありがとうございます。
この作品が
「面白い」 「続きが読みたい」 「推してもいい」
と少しでも思って頂けた方は、
①お気に入り 登録
②エールを送る(アプリ版のみ)
③感想を書く
④シェアする
をして頂ければ、作者のモチベーションアップや作品の向上に繋がります。
アマチュアである作者は皆様に支えられております。
この作品を皆様で盛り上げて頂き、書籍化やコミカライズ、果てはアニメ化などに繋がればいいなと思います。
この作品を読者の皆様の手で育てて下さい。
そして「この作品は人気のない時から知ってたんだぜ?」とドヤって頂けることが夢です。
よろしくお願いいたします。
それは判った。
だがそれだけだ。
ネルもスウィンもピアも、ゼストが瞬く間に同数の敵を一撃のうちに薙ぎ払った光景は目撃したことも、一人ずつ目にも止まらぬ早技で倒していったのも目撃したことはある。
だが ”敵を攻撃している” という過程どころか、”移動している” という動きすらすっ飛ばしている光景はお目にかかったことがない。
ワイバーンも翼を動かすのを一瞬忘れるくらい驚いたようで、墜落しかけていた。
「ゼスト。そっちは片付きそうか?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
問われて逸れていた意識を、ゼストは戦闘に引き戻した。
さすがユーゴだ。女神の贔屓は伊達じゃない。
「ボクも負けていられないな。しかし、どうするか───」
小出しに迫ってくる敵の群れを律儀に相手していては埒が明かない。
ゼストは三角跳びの要領で上方へ跳ぶと同時に、祝詞を唱えて風の神聖術の塊を地面に叩きつける。
その風圧で頭上高く舞い上がったゼストは、同時に待機させておいた攻撃用の神聖術を発動。威力を抑えるかわりに細かく分散し正確性を増した火の玉を数十個、眼下からゼストを見上げている盗賊たちに向けて放った。
火球を顔や腕に受け戦闘不能に陥る男達。火傷も構わず向かってくる根性のある者もいたが、ゼストがあっさりと打倒した。
ネル達の状況を確認しようとしたところ、
「ああっ‼︎」
鋭い悲鳴が聞こえてきた。
ネルの防護壁が破られ、スウィンに竜騎兵たちの神聖術が命中したのだ。
「スウィン!」
スウィンは左腕を負傷した。ピアは被弾の衝撃により尻餅をつき、ネルは術の疲労から両膝をついて項垂れていた。
まずい───。
隙だらけの彼女たちを、竜騎兵達が追撃しようと祝詞を唱えている。
「風よ!」
ゼストは牽制のために祝詞を短縮して撃ち出した。
しかし、ただでさえ魔法適性が高く風を操ることに長けたワイバーン。しかもよく訓練されているため、ゼストの神聖術を難なく回避した。
だがひとまず竜騎兵達の神聖術は中断することはできた。
この際にネルの代わりに防衛に回る。
しかし竜騎兵達は神聖術を手分けして放ってくる。時間差で間断なく。
対して今のゼストには外向きの神聖術を同時に二種使えない。
防戦一方である。
ピアはまだ幼く戦闘力がまだ低いうえ、そもそも人間体では遠距離攻撃の手段を持たない。
手詰まりかと思った時、
「もしかしてピンチか?」
軽い挨拶でもするように、のんびりとユーゴが歩いてきた。
「まぁね。ユーゴ、なんとか出来ないか?」
「あのデカい羽トカゲを撃ち落とせば良いんだろ? 出来るぞ」
安請け合いしたユーゴに、痛みに顔を歪めながらスウィンが食って掛かる。
「貴方ねぇ。あの動きを見ていたわよね。ゼストさんの神聖術でも避けられたのよ。そもそも貴方、神聖術は使えないのよね。投石したとしても、何の役にも立たないのよ」
「ああ。その神聖術? ってのはよく判んねーけど、使えねぇな。その代わり、俺にはこれがある」
そう言って【無限のおもちゃ箱】に片手を突っ込み、ある物を引き出した。
それは元日本人のゼストですら見たことがない物。
もちろん、存在自体は知っている。
しかし、トレーラーハウス以上に日本の一般市民ではまず目にすることがない物。
ユーゴの手に握られていたのは凶器の代名詞───拳銃だった。
白銀に輝くそれは、中型のセミオートハンドガン。
ユーゴが日本にいた時に愛用していたピストルだった。
Pezzoli Neo-Alpha G-custom というのがその銃の銘である。
通称、ネオアルファ。
異世界へユーゴが転送された際、日本からは持ってこれずにいた愛用品で、そのことに当時はがっかりしていたものだが、とある異世界を救ったご褒美としてユーゴの許に届けられたのだった。
ただし、ある神によってとんでもない改造が為されていたが。
ユーゴが徐ろに銃口を向けた時、パン、と乾いた破裂音がした。
いきなりの大きな音にびっくりする少女たち。しかしそれ以上のびっくりは、ワイバーンの一体の動きが止まり、重力という視えざる手によって地に叩きつけられたことだ。
この時、竜騎兵達の小隊長は、ユーゴの手に握られた道具が撃ち出した何かが原因だと直感した。
おそらく、はるか南のヨウゲン国で最近開発された銃という兵器だろう。そう察した小隊長は部下たちに「散れ!」と号令をかけた。
噂では、鉛の弾を筒から目にも止まらぬ速さで遠くへと撃ち出すという。
しかし弾の軌道は直線的であるとも聞く。であれば、動き回れば中たりはしない。
そのはずだった。
再び残響を含んだ破裂音が鳴り響くと、小隊長が駆るワイバーンの頭が撥ねた。
「なっ⁉︎ ……うわぁぁぁっ!」
驚きも束の間、小隊長もワイバーン諸共墜ちていった。
人一倍動体視力の優れているゼストには視えた。だが、やはりこれもまた理解できない。
何故ならば、あまりにも非常識だからだ。
ゼストの常識では、銃弾の軌道は直線的であり、決して曲線を描くものではない。しかし、ユーゴの放った弾丸は大きく曲がり、ワイバーンを直撃した。
かつてイタリアの闇の銃職人であるペッツォーリが、ユーゴのためだけに新しく作り上げた特別製の一丁。
頑丈で故障が無く、手入れもほぼ不要。それでいて正確無比という逸品。
シンプルだが、己の狙いが正確であればそこに間違いなく飛んでいくという拳銃の真髄を極めたような白眉。それがユーゴのお気に入りだったのだが───
「ひぃっ!」
「逃げろっ!」
指揮官を失い浮き足立つ竜騎兵たち。蜘蛛の子を散らすように逃走を図る。
実のところユーゴは、ここまで手を貸すつもりは無かった。
これはゼスト達の人生で、ゼスト達の物語。
あくまで一時の旅の道連れがでしゃばりすぎるのも良くない。あまり大きな影響をあたえるのも考えものだが。
俺もまだ甘いってことか。
内心で苦笑しながら、ユーゴは銃爪を引き絞った。
発砲音が響く度、いくつもの銃弾が複雑な曲線を描いてワイバーンの頭を撃ち抜いていく。
───銃口がどこを向いていようが、ユーゴの視界にあり、彼が的と認めた箇所へ弾丸を飛ばす自動追尾の銃。そんな面白くもない駄作に成り果ててしまった。
いつだったか、ユーゴはユーラウリアに言った。
『おい、なんだこりゃ。誰がこんな魔改造してくれって頼んだ』
そこに、声だけだが抗議がユーゴに届いた。
『魔改造ってなんじゃ⁉︎ どこからどうみても神改造じゃろうが‼︎』
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以降もこの神はユーゴ所有だった物品に勝手に手を加えたり、新たにとんでもない物を作って寄越した。
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