70 / 163
からくり奇譚 編
070. 神妙にお縄につけ
しおりを挟む「もうそろそろかな」
ユーゴが立ち上がると、ピィー、ピィーと警笛が遠くで鳴り響いた。
「よし。来たみたいだな。ほら、行くぞ」
「よ、よせ。離せ!」
ユーゴは錦兵衛を小脇に抱えると、常人離れした脚力で、元の蔵があった位置まで跳躍した。
少し遅れてフィールエルも、ユーゴの隣に綿毛のようにふわりと着地した。
同時に大勢の人間が飛田屋の庭に駆け込んできた。
袴の帯紐に刀と脇差しを差した、奉行所の侍達である。
「某は松風奉行所の琴吹左門である。飛田屋、これは如何にしたことか」
「お、お侍様、これは……」
しどろもどろになる錦兵衛に代わり、ユーゴが答える。
「やぁやぁ皆さんお初にお目に掛かる。東に不正あればこれを正し、西に邪悪あればこれを討つ。天網恢恢疎にして漏らさず。義を見てせざるは勇無きなり。我らは正義の忍者、我が名は黒風!」
「同じく青風よ!」
「同じく桃風だ!」
「またこれをやるんですかぁ……白風ですぅ………」
再び声高らかに名乗った黒風はまたもアゲアゲポーズ、青風も魔法少女ポーズ、桃風はタカラジェンヌのように凛々しいポーズと、それぞれがポーズを決める中、白風だけは羞恥に耐えるように手で顔を隠していた。
「桃風は凄いですね。恥ずかしくないんですか?」
「恥ずかしいな。でもなんか、ドキドキして気持ちが良いんだ」
「そ、そうですか……」
ネルは、同じ聖女であるフィールエルがどこか遠くへ行ってしまったような気がした。
「正義の忍者だと? 戯けたことを吐かしおって。そのような珍妙な格好をした忍びがいるものか。ちんどん屋か、さもなくば気が触れた賊か」
厳しい顔でユーゴたちに吐き捨てた琴吹という侍に、ユーゴは肩を竦めてみせる。
「おいおいおい。賊は賊でも義賊って言ってくれよ」
「義賊だと? どういうことだ?」
「実はな、この飛田屋の錦兵衛くんが、人魚の子供を大陸から攫ってきたんだよ。正確には人を雇って攫ってこさせたんだけど。で、自分でそれを食ったり売ろうとしてたみたいなんだよな。悪いだろ、このジジイ」
ユーゴの言葉に琴吹は気色ばむ。
「何ぃ!? 飛田屋、それは真か!?」
「そ、それは……」
狼狽しきりで答えられない錦兵衛。
「その証拠はここにあるぜ。なぁ青風?」
「そうよ。それ!」
パレアが片手を上げると、庭池の水が吹き上がり、大きな塊となって五個の樽を呑み込んだ。
その樽から、するすると五人の人魚の子供が泳いで出てくる。みなあどけない顔に、不安を浮かべて。
「陸ではほとんど力のないアタシだけど、そこに水があれば話は別。これくらいはお茶の子さいさいよ」
それを目の当たりにした侍たちはどよめき、驚きと戸惑いが、小波のように彼らの中に広がっていく。
「本当に人魚ではないか‼︎」
「あのくノ一、水遁の術を使ったぞ!?」
「しかもあれだけの規模、乙賀の上忍と同等だぞ……っ!」
パレアの水操魔術に、驚愕の声が上がっていった。
「それじゃあこのガキどもは返してもらうぜ」
ユーゴは地面に手を付き、【幽世の渡航者】を発動した。
「行けよ、パレア」
「うん、ありがとう。じゃあ行ってくるわね」
まず水ごと子供たちをゲートに通し、パレアは自らもゲートを潜った。
「消えた!? 面妖な術を使う。……話は理解った。だが飛田屋錦兵衛には奉行所にて尋問を行わねばならん。その者をこちらに引き渡してもらおう」
苦々しい表情を浮かべた琴吹にユーゴは一定の理解を示したが、キリッとした顔で言い放つ。
「まぁお前らの立場は理解る。だが断る!」
「なっ……何故だ?」
「事件はこいつを裁いただけじゃ終わらねぇと思うぜ。それにあんたらに引き渡したら、お偉いさんに揉み消されかねないしな。こいつには、俺が訊きたいことがある」
「ならば致し方ない。賊め、飛田屋もろともひっ捕らえてくれる。神妙にお縄につけ!」
「やーなこった。実力行使上等だ! 白風、このおっさんを頼む」
「はい!」
ネルは祝詞を唱え、自身と錦兵衛を防護壁で包み込んだ。
「皆の者、かかれ!」
琴吹の号令で侍たちがユーゴたちへと掴みかかるが、
「よ。ほ。はっ」
ユーゴは迫りくる侍の手を躱し、相手の勢いと重心を利用して次々と投げ飛ばしていき、フィールエルは少威力の神聖術で弾幕を張り、侍たちを寄せ付けない。
「ぬぅ……我が松風奉行所の精鋭たちがまるで赤子扱いではないか。……待て、止めろ!」
ユーゴ達の実力に端倪すべからずものを感じ、琴吹は呻いた。そして頭に血が上ってユーゴの背後から刀で斬りかかろうとする部下を制した。
しかしその声が届く前に、部下は大上段から一刀両断しようと振り降ろした。
ユーゴの真後ろから脳天めがけて凄まじい速さで迫る刀。
黒装束の賊の脳天が叩き割られる姿を、松風奉行所の侍や飛田屋の面々は想像した。
だが、
「な、なんと……っ! 片手白刃取りだと!? しかも振り向きもせずとは……心眼か」
確かにユーゴは後ろを見ずに、人差し指と中指で白刃をキャッチしていたが、もちろん心眼などではない。種明かしをすれば【千里眼】で周囲の状況を確認していただけである。
ユーゴの芸達者ぶりにたじろぎ、侍たちは攻めあぐねる。
「こんなもんか。桃風、白風、そろそろ次の段階に進むぞ!」
「了解だ!」
「はい!」
ネルが防護壁を解除し、ユーゴが錦兵衛を肩に担ぐと、フィールエルは神聖術で身体強化を施してネルをお姫様抱っこした。
「よっ!」
ユーゴは軽々と高い塀の上に跳び、フィールエルは光の翼を広げて空へと舞い上がる。
その動きに、侍たちのどよめきはさらに増していった。
「飛田屋錦兵衛の身柄は頂いていく。返して欲しくば石彦山の廃寺まで来い! ではさらばだ! んなーはっはっはっは!」
高笑いしながらユーゴは村の家屋の屋根を渡って走り、フィールエルは天高く飛翔して消えた。
「なんと軽捷な、動き……」
「あの桃色のくノ一、天狗か……!?」
その光景に侍も飛田屋の面々も立ち尽くし、抜刀していた刀を取り落とした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ひとまずここまでは計画通りだな。とりあえずこいつを尋問がてら休憩にするか」
紅葉色づく人気のない山寺の境内。そこでユーゴは言った。
「そうだな。今日は朝から忙しかったし、ボクも少しお腹が空いた」
ユーゴの言葉にフィールエルがお腹を押さえながら同意した。
彼女の言葉通り、今日は朝から忙しかった。
朝食を終えたユーゴ達は、それぞれの任務を果たすべく動いた。
パレアは女将から飛田屋の評判の聞き取り、フィールエルは物資の買い出しに出た。
ユーゴはパレアの情報を元に、一度メナ・ジェンドへと移動し、戻ってきた後はある物を手に入れるために歩き回った。
ネルはイリーナの潜入技術を活かして神聖術で姿を隠し、村の電気屋で買った撮影機材を持って飛田屋に潜入した。ユーゴから飛田屋が遣いを出していたという情報を得ていたので、読み通りネルは、悪巧みの一部始終を記録することが出来た。
もう一度旅館に集合し、全員、着替えた。
「着替えたほうが良いんですか?」 というネルの質問に、ユーゴは「変装して義賊という設定を作っておけば後々面倒が少ない」 と説明し。ネルをうまく丸め込んだ。
ネルは唯々諾々と従ったことを今となっては後悔している。
飛田屋の蔵を派手に吹き飛ばして注目を集めている間に、フィールエルが機器を接続するという陽動作戦だった。
子供たちを救出した後はパレアとともに海に逃し、ユーゴ達は人気のない廃寺で錦兵衛を尋問して取引先を聞き出すという段取りで、いまのところ作戦順調に進んでおり、一度休憩となったのだが、
「ん……なんだ?」
遠くから、なにか航空機のジェットエンジン音のような甲高い音が聞こえてくる。
やがて雲を突き破り、何かが地上へとゆっくり降下していく。
とても巨大な何か。それは、戦国武者のような全身甲冑を着た巨人───いや、巨大なロボットだ。
それが二機、どこか遠くの地上へと着陸した。
──────to be continued
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
お読みいただき誠にありがとうございます。
この作品が
「面白い」 「続きが読みたい」 「推してもいい」
と少しでも思って頂けた方は、
①お気に入り 登録
②エールを送る(アプリ版のみ)
③感想を書く
④シェアする
⑤いいね
をして頂ければ、作者のモチベーションアップや作品の向上に繋がります。
※お気に入り登録して頂きますと、新エピソードが投稿された際に通知が届いて便利です。
アマチュアである作者は皆様に支えられております。
この作品を皆様で盛り上げて頂き、書籍化やコミカライズ、果てはアニメ化などに繋がればいいなと思います。
この作品を読者の皆様の手で育てて下さい。
そして「この作品は人気のない時から知ってたんだぜ?」とドヤって頂けることが夢です。
よろしくお願いいたします。
52
あなたにおすすめの小説
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。
永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。
17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。
その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。
その本こそ、『真魔術式総覧』。
かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。
伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、
自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。
彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。
魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。
【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】
生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない
しめさば
ファンタジー
急遽異世界へと転生することになった九条颯馬(30)
小さな村に厄介になるも、生活の為に冒険者に。
ギルドに騙され、与えられたのは最低ランクのカッパープレート。
それに挫けることなく日々の雑務をこなしながらも、不慣れな異世界生活を送っていた。
そんな九条を優しく癒してくれるのは、ギルドの担当職員であるミア(10)と、森で助けた狐のカガリ(モフモフ)。
とは言えそんな日常も長くは続かず、ある日を境に九条は人生の転機を迎えることとなる。
ダンジョンで手に入れた魔法書。村を襲う盗賊団に、新たなる出会い。そして見直された九条の評価。
冒険者ギルドの最高ランクであるプラチナを手にし、目標であるスローライフに一歩前進したかのようにも見えたのだが、現実はそう甘くない。
今度はそれを利用しようと擦り寄って来る者達の手により、日常は非日常へと変化していく……。
「俺は田舎でモフモフに囲まれ、ミアと一緒にのんびり暮らしていたいんだ!!」
降りかかる火の粉は魔獣達と死霊術でズバッと解決!
面倒臭がりの生臭坊主は死霊術師として成り上がり、残念ながらスローライフは送れない。
これは、いずれ魔王と呼ばれる男と、勇者の少女の物語である。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる