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セイクリッド・マテリアル編
134. ゼフィーリアの不思議な反応
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「うそ……。勇悟?」
「え?」
ゼフィーリアの呟きに、全員が驚いた。
さもありなん。未だベレッタからの紹介の途中で、ベレッタはユーゴの名を告げていない。
それにもかかわらず、知らないはずのユーゴの名を知っていたのだから。
何なら呼ばれたユーゴが一番驚いたまであるのだ。
「ゼ、ゼフィ。彼のことを知っているのかい?」
何故か少し焦ったような様子で、ロイがゼフィーリアに尋ねた。
「え?……あ! いや、そうじゃなくて……」
ゼフィーリアは自分の失言に気づいて言い淀んでいる。
そこに、思わぬ助け舟が入った。
「もしやユーゴ・タカトーとは、闘技場のグランド・チャンピオンではないのか?」
未だ名を知らぬ、浅黒い肌の青年が呟いた。
ユーゴは何処かで彼を見たよう気がしたが、気のせいだろう。
「あ、ボクも知ってるよ! 黄色い悪魔ズァーニカルを秒殺して、さらに戦斧王とメイド王を子供扱いして圧勝したっていう、バケモノみたいに強いってチャンピオンだよね」
今度は青年……というよりは少年と言ったほうがしっくりくる、緑色の髪をした人物が明るく言った。
「なるほど。彼はそんなに有名人だったのか。だから彼のことを知っていたのかい、ゼフィ?」
ロイに問われ、ゼフィーリアはこくこくと頷く。
「そ、そうなの! その名前を小耳に挟んだことがあって!」
焦った様子で何度も頷くゼフィーリア。
ちょっと胡散臭いが、さりとてユーゴにもそれを問い詰める論拠が無いので、ひとまず信じるよりない。
「初めまして、レディ。ただいまご紹介に預かりました、テッタ・サクマと申します。以後お見知り置きを」
「俺はユーゴ・タカトーだ。いま聞いたと思うが、闘技場で戦ったり、普段はこのサクマ類爵の経営する店に世話になっている。今日はサクマ卿の護衛として同行している。育ちが悪いから、無礼は見逃してくれ」
ユーゴと鉄太の名乗りを受け、令嬢二人も前に進み出た。
「初めましてサクマ卿、タカトー様。ワタクシ、マルガレーテ・ベッチと申しますわ」
まずはマルガレーテがスカートの裾を摘み、恭しく挨拶した。輝く金色の髪を何本もの縦ロールにしている華やかな美女だ。
「ベッチ閣爵のご令嬢ですね。先日は、お父様にお世話になりました」
「あら、そうですの? 妙なところでご縁がありましたのね。ホホホ」
鉄太の言葉を受け、マルガレーテは「ホホホ」と高飛車っぽく笑った。
こんな漫画みたいな高笑いをナチュラルにする人間が本当に居たんだなと、鉄太もユーゴも妙な感動を覚えた。
そして、もう一人の少女もスカートを摘んで、ちょこんとお辞儀をする。その拍子に、彼女からふわりとバニラのような甘い香りがユーゴ達の鼻孔をくすぐった。
「初めましてサクマ卿。そして先程は失礼いたしました、高遠様。有名な方に思いがけずお会いできたので、はしたなくもお名前を呼んでしまいました。私はゼフィーリア・バーグマンと申します。以後お見知りおきを」
口上を述べたゼフィーリアは、アメジストのような紫色の髪をサイドで縦ロールにした、マルガレーテやベレッタとはまた違うタイプの美少女だ。
喩えるならば、マルガレーテが薔薇のような見るものを圧倒する華やかさ、ベレッタがマリーゴールドのような微笑ましい可憐さ、そしてゼフィーリアがスミレのような、目立たないけれど気付くものには判る神秘的な美しさである。しかし───
「高遠様。貴方の無礼は一向にかまわないわ。その代わり、私も貴方と同じ態度でいかせてもらうわ。いいわよね? お互い様ってことで」
急に打って変わって、砕けた態度を表した。おまけのウインク付きで。
上級貴族の令嬢らしからぬ対応に呆気にとられたユーゴだったが、やがてニヤリと笑った。
「いいぜ。俺もそっちのほうが話しやすい。それにしてもアンタ、貴族のお嬢さんにしちゃなかなか面白い性格してるな」
どうやらこのゼフィーリアという少女、内面にはタンポポのような親しみやすさも持ち合わせているらしい。
「ええ。ゼフィは昔から本当に破天荒でお転婆で、困ったものですわ」
「でも、そこがゼフィの魅力でもありますよ。いつでも明るくて、みんなの中心で」
親友二人の苦言と称賛を受けて、ゼフィーリアは「いやぁ、それほどでも」と照れている。
「ところで、俺たちも名乗らせてもらって構わないか?」
銀色短髪の青年が申し出た。
「お初にお目にかかる、サクマ卿、タカトー殿。俺の名はカイト・テンピル。ロイと同様、彼女たちの級友です。俺の父親は閣爵位を授かっているが、俺は未だ修行中の身。気兼ねせずカイトと呼んでくれ」
鉄太には敬語で、ユーゴにはため口で挨拶した。
これは当然のことで、いくら格上の閣爵家とは言え、カイト自身に爵位はない。この場合、爵位を持つ鉄太のほうが立場が上だからだ。
「次は僕だね。僕はクリス。よろしく」
緑色の髪の少年が短く挨拶した。
「ぼ、ぼくはマロン。みんなからマリィって呼ばれています」
もじもじと名乗ったのは、赤いくせ毛の人物だった。
線が細いので少女かと思ったが、どうやら男性だったらしい。なのになぜスカートを履いているのか怪訝に思ったユーゴだったが、そこを追求すると何かの闇を覗くことになりかねないので、賢明にスルーした。
「俺はシュンだ」
浅黒い肌の青年がぶっきらぼうに名乗った。
どうやら何かの武術を嗜んでいるようだと、ユーゴは彼の筋肉の発達具合から読み取った。とはいえ、ユーゴの足元にも及ばないだろうということも。
「それでゼフィ。今日、僕たちを集めた目的はなんだい? ベレッタの元気な姿が見れた事は嬉しいけれど、まさかそれだけの為にってわけではないだろう? ここまで危険な橋を渡っているからには、キミはなにか情報を掴んで、それを僕たちに伝えようとしているんじゃないのかい?」
「ご名答よ、ロイ。それを今から話すわ」
「待ってくれよゼフィ。昔から付き合いのある俺達はともかく、失礼だが彼らは信用できるのか?」
「カイトさん。サクマ卿の事は私が昔から知っています。一生懸命で真面目で正義感が強くて……信用できます」
カイトの疑念に対し、ベレッタが静かに、だが強く断言した。
「ベレッタが信用する人なら私も信用するわ。それに高遠様……もう勇悟でいいわよね? 彼も何となく頼りになりそうな感じがするじゃない。しかも、何となく信用できそうだわ。私の勘だけど。何よりベレッタが信用するサクマ卿が連れてきたんでしょ? なら大丈夫よ」
根拠があるようでない太鼓判を押したゼフィーリア。
彼女が言うならと皆が納得したのが、印象的だった。
ゼフィーリアの人望に鉄太が舌を巻いた時、ユーゴが何かの気配を感じた。窓の外だ。
「それで───どうしたの、勇悟?」
話を続けようとしたゼフィーリアだったが、窓の外に気が向いたユーゴに気づいた。
「いや、気にせず続けてくれ」
そう言ってユーゴはひとっ飛びで窓の傍まで移動した。
部屋の端から端。しかも着地の際に微かな物音さえ立てないその離れ業に、部屋に居た全員が息を呑んだ。
ユーゴはすかさず【電光石火】で自分以外の時の流れを遅らせ、窓を開けた。
そこには御者服を着た男が、外壁に張り付くようにして立っていた。室内に聞き耳を立てていたのだ。
ユーゴは男を確認した時点で能力を解除した。
「え? ───えっ!?」
御者服の男が悲鳴を上げた。
男がユーゴに気付く前に襟首を掴み、そのまま一気に室内へ引き摺り込んだからだ。
「こいつが聞き耳を立てていたぞ」
男を床に組み伏せながら、ユーゴは言った。
突然の事態に、ユーゴ以外の全員がぽかんとしている。
そこでいち早く我に返ったゼフィーリアが、にこりと笑った。
「ね? やっぱり頼りになるでしょ」
「え?」
ゼフィーリアの呟きに、全員が驚いた。
さもありなん。未だベレッタからの紹介の途中で、ベレッタはユーゴの名を告げていない。
それにもかかわらず、知らないはずのユーゴの名を知っていたのだから。
何なら呼ばれたユーゴが一番驚いたまであるのだ。
「ゼ、ゼフィ。彼のことを知っているのかい?」
何故か少し焦ったような様子で、ロイがゼフィーリアに尋ねた。
「え?……あ! いや、そうじゃなくて……」
ゼフィーリアは自分の失言に気づいて言い淀んでいる。
そこに、思わぬ助け舟が入った。
「もしやユーゴ・タカトーとは、闘技場のグランド・チャンピオンではないのか?」
未だ名を知らぬ、浅黒い肌の青年が呟いた。
ユーゴは何処かで彼を見たよう気がしたが、気のせいだろう。
「あ、ボクも知ってるよ! 黄色い悪魔ズァーニカルを秒殺して、さらに戦斧王とメイド王を子供扱いして圧勝したっていう、バケモノみたいに強いってチャンピオンだよね」
今度は青年……というよりは少年と言ったほうがしっくりくる、緑色の髪をした人物が明るく言った。
「なるほど。彼はそんなに有名人だったのか。だから彼のことを知っていたのかい、ゼフィ?」
ロイに問われ、ゼフィーリアはこくこくと頷く。
「そ、そうなの! その名前を小耳に挟んだことがあって!」
焦った様子で何度も頷くゼフィーリア。
ちょっと胡散臭いが、さりとてユーゴにもそれを問い詰める論拠が無いので、ひとまず信じるよりない。
「初めまして、レディ。ただいまご紹介に預かりました、テッタ・サクマと申します。以後お見知り置きを」
「俺はユーゴ・タカトーだ。いま聞いたと思うが、闘技場で戦ったり、普段はこのサクマ類爵の経営する店に世話になっている。今日はサクマ卿の護衛として同行している。育ちが悪いから、無礼は見逃してくれ」
ユーゴと鉄太の名乗りを受け、令嬢二人も前に進み出た。
「初めましてサクマ卿、タカトー様。ワタクシ、マルガレーテ・ベッチと申しますわ」
まずはマルガレーテがスカートの裾を摘み、恭しく挨拶した。輝く金色の髪を何本もの縦ロールにしている華やかな美女だ。
「ベッチ閣爵のご令嬢ですね。先日は、お父様にお世話になりました」
「あら、そうですの? 妙なところでご縁がありましたのね。ホホホ」
鉄太の言葉を受け、マルガレーテは「ホホホ」と高飛車っぽく笑った。
こんな漫画みたいな高笑いをナチュラルにする人間が本当に居たんだなと、鉄太もユーゴも妙な感動を覚えた。
そして、もう一人の少女もスカートを摘んで、ちょこんとお辞儀をする。その拍子に、彼女からふわりとバニラのような甘い香りがユーゴ達の鼻孔をくすぐった。
「初めましてサクマ卿。そして先程は失礼いたしました、高遠様。有名な方に思いがけずお会いできたので、はしたなくもお名前を呼んでしまいました。私はゼフィーリア・バーグマンと申します。以後お見知りおきを」
口上を述べたゼフィーリアは、アメジストのような紫色の髪をサイドで縦ロールにした、マルガレーテやベレッタとはまた違うタイプの美少女だ。
喩えるならば、マルガレーテが薔薇のような見るものを圧倒する華やかさ、ベレッタがマリーゴールドのような微笑ましい可憐さ、そしてゼフィーリアがスミレのような、目立たないけれど気付くものには判る神秘的な美しさである。しかし───
「高遠様。貴方の無礼は一向にかまわないわ。その代わり、私も貴方と同じ態度でいかせてもらうわ。いいわよね? お互い様ってことで」
急に打って変わって、砕けた態度を表した。おまけのウインク付きで。
上級貴族の令嬢らしからぬ対応に呆気にとられたユーゴだったが、やがてニヤリと笑った。
「いいぜ。俺もそっちのほうが話しやすい。それにしてもアンタ、貴族のお嬢さんにしちゃなかなか面白い性格してるな」
どうやらこのゼフィーリアという少女、内面にはタンポポのような親しみやすさも持ち合わせているらしい。
「ええ。ゼフィは昔から本当に破天荒でお転婆で、困ったものですわ」
「でも、そこがゼフィの魅力でもありますよ。いつでも明るくて、みんなの中心で」
親友二人の苦言と称賛を受けて、ゼフィーリアは「いやぁ、それほどでも」と照れている。
「ところで、俺たちも名乗らせてもらって構わないか?」
銀色短髪の青年が申し出た。
「お初にお目にかかる、サクマ卿、タカトー殿。俺の名はカイト・テンピル。ロイと同様、彼女たちの級友です。俺の父親は閣爵位を授かっているが、俺は未だ修行中の身。気兼ねせずカイトと呼んでくれ」
鉄太には敬語で、ユーゴにはため口で挨拶した。
これは当然のことで、いくら格上の閣爵家とは言え、カイト自身に爵位はない。この場合、爵位を持つ鉄太のほうが立場が上だからだ。
「次は僕だね。僕はクリス。よろしく」
緑色の髪の少年が短く挨拶した。
「ぼ、ぼくはマロン。みんなからマリィって呼ばれています」
もじもじと名乗ったのは、赤いくせ毛の人物だった。
線が細いので少女かと思ったが、どうやら男性だったらしい。なのになぜスカートを履いているのか怪訝に思ったユーゴだったが、そこを追求すると何かの闇を覗くことになりかねないので、賢明にスルーした。
「俺はシュンだ」
浅黒い肌の青年がぶっきらぼうに名乗った。
どうやら何かの武術を嗜んでいるようだと、ユーゴは彼の筋肉の発達具合から読み取った。とはいえ、ユーゴの足元にも及ばないだろうということも。
「それでゼフィ。今日、僕たちを集めた目的はなんだい? ベレッタの元気な姿が見れた事は嬉しいけれど、まさかそれだけの為にってわけではないだろう? ここまで危険な橋を渡っているからには、キミはなにか情報を掴んで、それを僕たちに伝えようとしているんじゃないのかい?」
「ご名答よ、ロイ。それを今から話すわ」
「待ってくれよゼフィ。昔から付き合いのある俺達はともかく、失礼だが彼らは信用できるのか?」
「カイトさん。サクマ卿の事は私が昔から知っています。一生懸命で真面目で正義感が強くて……信用できます」
カイトの疑念に対し、ベレッタが静かに、だが強く断言した。
「ベレッタが信用する人なら私も信用するわ。それに高遠様……もう勇悟でいいわよね? 彼も何となく頼りになりそうな感じがするじゃない。しかも、何となく信用できそうだわ。私の勘だけど。何よりベレッタが信用するサクマ卿が連れてきたんでしょ? なら大丈夫よ」
根拠があるようでない太鼓判を押したゼフィーリア。
彼女が言うならと皆が納得したのが、印象的だった。
ゼフィーリアの人望に鉄太が舌を巻いた時、ユーゴが何かの気配を感じた。窓の外だ。
「それで───どうしたの、勇悟?」
話を続けようとしたゼフィーリアだったが、窓の外に気が向いたユーゴに気づいた。
「いや、気にせず続けてくれ」
そう言ってユーゴはひとっ飛びで窓の傍まで移動した。
部屋の端から端。しかも着地の際に微かな物音さえ立てないその離れ業に、部屋に居た全員が息を呑んだ。
ユーゴはすかさず【電光石火】で自分以外の時の流れを遅らせ、窓を開けた。
そこには御者服を着た男が、外壁に張り付くようにして立っていた。室内に聞き耳を立てていたのだ。
ユーゴは男を確認した時点で能力を解除した。
「え? ───えっ!?」
御者服の男が悲鳴を上げた。
男がユーゴに気付く前に襟首を掴み、そのまま一気に室内へ引き摺り込んだからだ。
「こいつが聞き耳を立てていたぞ」
男を床に組み伏せながら、ユーゴは言った。
突然の事態に、ユーゴ以外の全員がぽかんとしている。
そこでいち早く我に返ったゼフィーリアが、にこりと笑った。
「ね? やっぱり頼りになるでしょ」
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