ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神

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セイクリッド・マテリアル編

142. 歌姫救出

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「おい、ゼフィーリア。いまどこにいる?」

 呼びかけるユーゴは、のんびりとしたゼフィーリアの返答を予想してた。
 しかしスペリオールウォッチから聞こえてきたのは、

『───ユーゴ、救けて! 馬車よ!!』

 ゼフィーリアの切迫した声だった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 時は舞台が終わった瞬間まで遡る。
 万雷の拍手が鳴り止まぬ中、緞帳が降りていく。
 ゼフィーリアは幕が下りきったステージで胸を撫で下ろした。
 なんとか無事に終えることができた、と。
 今日の公演はいつも以上に緊張した。ユーゴが観に来ているはずだから、下手な演技を見せられないからだ。
 ユーゴと鉄太の招待状には、ゼフィーリアの楽屋に来るように示してある。
 彼らが来るまでに少しメイクを整えたいと思ったゼフィーリアは、舞台袖にいたスタッフに、今日はこのまま楽屋に直行すると共演者たちへの言付けを頼み、そのまま楽屋へ向かった。
 ゼフィーリアが一番乗りだから、楽屋には誰もいないはずだった。
 ところが楽屋の扉を開けた瞬間、四人の男たちに体中を縛られ、猿ぐつわを噛まされた。

「きゃっ……!? え、え、むぐっ……!?」

 何が起きているのか理解できないまま体をまるごと包むほどの袋に入れられ、荷物のようにゼフィーリアは抱えられた。
 男達は予め用意していた大きな籠にゼフィーリアを入れた袋を積み込んで、ひまわり座の外へと運び出した。
 馬車の中へ押し込んで、急いで発車させた。

「おい、ちゃんと呼吸しているか確認しろ」

 男達のリーダー格の命令で、ゼフィーリアは袋から顔だけ出され、猿ぐつわを外された。
 もし恐怖や混乱で嘔吐してしまった場合、口を塞がれたままだと窒息してしまう恐れがあるからだ。

「ぷはっ! ちょ……貴方達、いったい何なの!? どういうつもりっ!? いきなりこんなことして、馬鹿じゃないのっ!?」

 口を開いた瞬間、伯爵令嬢や歌姫の仮面をかなぐり捨てて、ゼフィーリアは悪態をついた。
 このような狼藉者どもに猫をかぶる必要はないのだ。
 その時、ピロピロピロとこの世界で聞くことがなかった電子音が鳴った。

「何だこの音は? どこから鳴っている?」

 男達が戸惑う。
 だがその音源が何なのか、ゼフィーリアには理解できた。左手首の振動が教えてくれている。

「電話に出て!」

 ユーゴの説明でスマートウォッチのように音声アシスタント機能があることを知っていたゼフィーリアは、スペリオールウォッチに届くよう叫んだ。

「ユーゴ、救けて! 馬車よ!!」

 繋がったと確信して、ゼフィーリアはユーゴに救けを求めた。

「おい、口を塞げ!」

 不測の事態に焦る男達に再び猿ぐつわを噛まされたゼフィーリアは、涙を堪えて祈った。
 ユーゴが自分の窮地に気づいてくれることを。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「鉄太。先に寮に帰っていてくれ。俺はゼフィーリアを探して追いかける」

「───っ! 了解」

 鉄太と別れてひまわり座をでたユーゴは周囲を見渡したが、馬車の姿はない。
 舞台の幕が下りてから今までの経過時間が約十分。
 この世界の馬車は地球の馬車よりも速く、急いだ時は時速二十キロメートルほどの速度を出せる。
 つまり、最大でも三キロメートル強ほどの移動距離である。
 この世界が地球と同じ曲率ならば、立っていれば充分に見渡せる距離である。
 しかしひまわり座は繁華街の中にあるため、障害物が多い。地上から三キロメートル先の目標を見つけるのは至難の業である。
 とはいえ、【千里眼ワールドゲイザー】は実は精密さを要する探し物には向いていない。
 視界が二分割されるため、集中力に欠けるからだ。
 大きな建物や静止している物体ならまだしも、移動している馬車などはすぐには見つけづらい。
 舌打ちして周囲を見回したユーゴは、近隣で一番高い建物を見つけた。
 四階建てほどの高さの時計塔だ。
 重力を操作して適当な建屋の屋上に飛び乗ったユーゴは、そのまま屋根伝いに移動し、時計塔の壁へ飛びついた。
 ぶつかる寸前に重力の作用方向を壁側へ向け、時計塔の壁を
 時計塔の頂上へ到達し、再び地面方向へ重力の作用をもとに戻したユーゴは、地上を三百六十度見渡した。
 これだけの高さがあれば、充分見渡せるはずである。
 視界に映る馬車は十台。
 さらにその内、ひまわり座から離れていく馬車は六台。その内訳は、北方向に二台。南方向に三台。東方向に一台。それを急いでいる馬車に絞ると、各方向に一台ずつ。
 その三台に見当をつけ、【千里眼ワールドゲイザー】を発動させる。
 北───違う。
 東───違う。
 南───これだ!
 【千里眼ワールドゲイザー】で覗いた車内には、先刻の男三人と、猿ぐつわをされて瞳を涙で濡らしているゼフィーリアが居た。
 馬車までの距離は三キロメートル強。ユーゴの通常武装の射程範囲外だ。
 【無限のシークレットもちゃ箱フロンティア】からネオ・アルファを取り出したユーゴは、助走をつけて屋根が凹むほど力強く跳躍した。馬車へと向かって。
 重力を操作して滑空するように緩く放物線を描き、目標へと近づいていく。
 だが、彼我の移動速度はほぼ同等。
 その距離を縮めるため、ユーゴは【電光石火フリーウェイジャム】を発動。”世界”の流れを遅滞させたため相対的にユーゴの速度は速くなり、ぐんぐん馬車へと近づいていく。
 系統の異なる能力を同時併用した時の激しい頭痛に耐えながら、ユーゴは馬車の車輪を狙って発砲。
 大口径ではないが、飛龍の頭を撃ち抜くほどの威力を持つ弾丸は、鉄製の車輪を破壊した。

「な、何だ!? 何が起きた!?」

 車内で男達が慌てた。
 バランスを崩して走行不能となった馬車へ追いついたユーゴは、着地と同時に【電光石火フリーウェイジャム】を解除。さらに【無限のシークレットもちゃ箱フロンティア】から完全切断ナイフ【シグマ】を取り出し、ドアを切り開いた。

「な、何だキサ……ぐぉっ!?」

 一番手前の男の鼻面に拳をめり込ませ、さらに馬車から引きずり出す。
 その次の男も同様に排除し、目をまんまるに見開いているゼフィーリアを、袋ごと抱え出した。
 一瞬馬車から目を逸したユーゴを隙ありと見た御者役の男が、背後からナイフで襲いかかる。
 無論この程度は、隙にすらならないユーゴである。
 そのナイフを後ろ回し蹴りで払い落とし、そのまま踵を御者の顎へと叩き込んだ。
 流石に敵わないと悟った四人目の男は、馬車から這い出るなり打ち上げ花火のような光を上空へと打ち放った。
 光は赤く、炸裂音とともに数秒間街を包んだ。実はこれは信号弾で、赤い光は『暴徒あり』の合図であった。

「ゆ、勇悟。来てくれたの……?」

 瞳を潤ませて、ゼフィーリアはユーゴを見上げた。

「話は後だ。鬱陶しい奴らが、うじゃうじゃと虫みたいに湧いてきやがった」

 信号弾を見た憲兵たちが、街のそこかしこから馬車の方へと集まってくる。
 何事だと叫ぶ憲兵に、四人目の男が叫び返す。

「私は王家直轄諜報部【月影】の者だ。この男が重要参考人ゼフィーリア・バーグマンを強奪した! 奪還するために手を貸してくれ!」

 その言葉を受けて、憲兵全員の目が険しくなった。

「おいキサマ、動くな。動くと撃つぞ!」

 憲兵たちの総数は、ざっと二十人。
 周囲の無関係な一般人に被害を与えないよう憲兵たちを鏖殺するのは容易だが、殺してしまっては後々面倒なことになるだろう。

「以前と同じで芸が無いが、仕方ない。こいつに頼むか」

 ユーゴが嘆くように呟くと、虚空から一個のカプセルがせり出してきた。
 その片側半分が開き、一匹の小動物がぴょこんと飛び出した。

「ミュー。このあいだと同じように、奴らの銃を無力化しろ」

「ミュウッ!」

 ユーゴの左肩に登った神獣ミューはオレンジ色の霧を作り出し、憲兵たちを包み込んだ。
 彼らの身につけている金属や酸化反応を起こすものはことごとく錆びたり変色し、その用を為さなくなった。

「ミュー、そのまま乗ってろ」

 カプセルだけ虚空に収納したユーゴはゼフィーリアをお姫様抱っこし、混乱の極みにある憲兵隊を置き去りにして近くの建物の屋根へと跳び移った。

「ちょ……ええっ!?」

 ノミかバッタのように軽々と跳躍して屋根を飛び移っていくユーゴと、そんな彼に抱かれている自分。
 ゼフィーリアはそんな現実離れした光景に、やっぱりこの世界は藤本楓香の夢の中なのかもしれないと思った。
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