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物語
5話 小さな噂
しおりを挟む翌朝。
宿の部屋は、明らかに手狭だった。
簡素なベッドが二つ。
椅子が一脚。
そしてメイドが二人。
「やっぱ狭いな……」
「事実です」
レイナが即答する。
セツナは無言で立っている。
昨夜召喚されたばかりだからか、動きに迷いがない。逆に人間味がない。
「セツナ、待機姿勢を少し崩していい。そんな直立不動でいなくていいから」
「了解。待機姿勢を調整します」
わずかに力が抜ける。
それだけで、少しだけ“人”に近づいた気がした。
俺は窓を開け、外の空気を吸い込む。
冒険者二日目。
まだ何者でもない。
だがギルドでの視線は、昨日とは違うはずだ。
⸻
ギルドに入った瞬間、ざわつきが起きた。
「例のメイドのやつだ」
「ゴブリンの群れを一晩で潰したって」
声は抑えているつもりだろうが、聞こえる。
俺は苦笑した。
「噂、広がってるな」
「戦果は隠蔽困難です」
「目立つのは避けたいんだけどな」
「戦力増強を選択した時点で困難です」
正論すぎる。
依頼掲示板を見る。
森周辺の依頼が減っている。
昨日の群れ壊滅で危険度が下がったらしい。
受付嬢が声をかけてきた。
「昨日はありがとうございました。実は近くの農村からも被害報告が止まっていて……助かりました」
感謝されると、悪い気はしない。
「偶然ですよ」
「偶然であの数は無理です」
はっきり言われた。
俺は話題を変える。
「今日のおすすめは?」
「西街道の護衛依頼です。商隊が人手不足で」
護衛。
集団行動。
実地経験としては悪くない。
「受けます」
レイナとセツナが同時にうなずいた。
⸻
商隊は馬車三台。
商人の男が頭を下げる。
「若いのに頼もしいねぇ。噂は聞いてるよ」
「どんな噂ですか」
「メイド二人連れてゴブリン壊滅、だろ?」
尾ひれがついている。
俺は曖昧に笑った。
街道は比較的安全だが、油断はできない。
「隊形を提案します」
レイナが言う。
「私が前衛警戒。セツナが後方監視。悠真は中央で全体指示」
「了解」
自然とそうなる。
俺は戦えない。
だが全体を見ることはできる。
しばらく進んだ頃。
AIが警告を出す。
――右側林内、反応三。
「止めてください!」
俺が叫ぶ。
次の瞬間、矢が飛んできた。
レイナが弾く。
セツナが林へ突入。
悲鳴。
盗賊だ。
装備は粗末。
だが油断すれば商人が死ぬ。
「生け捕り優先!」
「了解」
レイナが足払いで一人を転倒させる。
セツナが武器を弾く。
数十秒で制圧完了。
商人が青ざめた顔で礼を言う。
「本当に助かった……」
俺は深く息を吐いた。
ゴブリンとは違う。
相手は人間。
命の重みが違う。
「悠真」
レイナが小声で言う。
「動揺しています」
「分かる?」
「心拍上昇。視線不安定」
隠せていないらしい。
「……慣れないな」
「慣れる必要はありません。ただ判断を誤らなければ」
その言葉は冷静で、どこか優しい。
セツナが盗賊を拘束しながら言う。
「非殺傷制圧、完了」
完璧だ。
俺よりよほど人間らしい判断をしている。
⸻
王都に戻る頃には、商隊からの評価は上々だった。
報酬は想定以上。
ポイントも増える。
ギルドで盗賊を引き渡すと、周囲の視線がさらに強くなった。
「また成果かよ……」
「Eランクだろ?」
小さな嫉妬が混じる。
俺は居心地の悪さを覚えた。
冒険者は実力社会。
だが急激な台頭は反感を買う。
「悠真」
レイナが静かに言う。
「拠点の必要性が増しています」
「……目立つからか」
「はい。宿泊地が固定されると監視されやすい」
セツナも続ける。
「防御拠点があれば安全性向上」
二対一だ。
俺は苦笑する。
「分かったよ。土地を探そう」
口に出した瞬間、二人の視線がわずかに変わった。
期待。
いや、演算結果の最適解か。
⸻
その夜。
王都外れの未開拓地を見下ろす丘に立つ。
人目は少ない。
「ここなら問題ありません」
「都市から適度な距離。物資補給も可能」
俺はスキル画面を開く。
【拠点構築システム】
初期拠点:小規模施設。
必要資金、支払い可能。
深呼吸する。
「やるぞ」
「了解」
「了解」
地面に光が走る。
魔法陣が広がる。
土が盛り上がり、石が組み上がる。
数分で――
小さな建物が姿を現した。
白を基調とした、簡素だが堅牢な施設。
俺は言葉を失う。
「……本当に出来た」
「初期拠点、完成」
レイナが静かに告げる。
セツナが周囲を警戒する。
風が吹く。
王都の灯りが遠くに見える。
冒険者になったばかりのはずなのに。
もう拠点を持っている。
小さい。
だが確実な一歩。
「悠真」
「ん?」
「ここから、拡張可能です」
その言葉に、俺は苦笑した。
「まずは冒険者として稼ぐ。それが先だ」
「了解」
だが胸の奥で、何かが芽を出している。
噂は広がり。
戦力は増え。
拠点は生まれた。
これはただの冒険の準備か。
それとも――
静かに、何かが始まっているのか。
夜空の下、白い拠点が静かに佇んでいた。
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