東京パラノーマルポリス -水都異能奇譚-

右川史也

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第一章 冬鷹

第4話

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 特別訓練が終わり、訓練室を出ようとした時だ。
「待て、冬鷹」と佐也加に呼び止められた。
「はい」と応える冬鷹の身体は、彼女の『圧』に自然と強張る。

「先の行動、アレはなんだ? どういう意図があった?」
「先の行動? ……すみません、いったい何の事でありますか?」
「模擬戦闘中の事だ。貴様は根本隊員と同時に仕掛けてきた。だがそれだけだ。策も工夫もなかったように見える。何を考えあの瞬間の攻勢に至ったのだ?」
「それは……」
「まさか、特に考えなかったとでも言うつもりはないな?」

 僅かに言いよどんだ隙を逃さず、図星を突いてくる。答えられず、冬鷹が言葉を探していると佐也加は更にこう訊いてきた。

「冬鷹、貴様、夢は諦めたのか?」
「い、いえっ! 諦めていません!」

 諦めるはずがない。それが今ここにいる理由だ。

「なら、なぜ手を抜いた」
「いえっ、手を抜いたつもりじゃっ! ただ、時間が経てば経つだけ佐也加副本部長を止める機会を失くしてしまうと思ったため……ですが、ただ正面から行っても勝てるわけがなかったので、根本先輩と同時に仕掛ける事にしました」
「つまり貴様は、考えた末に思索を放棄した訳か。その結果が、自分や味方の益にならぬ敗北を残し、戦いから消えた、と。貴様らが来るより少し前に貴様らより質も量も上の隊員たちが敗れたばかりだ。よもやそれを見ていない訳はあるまい」

 厳しい指摘に、冬鷹は黙る他なかった。

「貴様の目指す場所はその程度の意識で辿り着けるところではない。意識を改めろ」

 淡々と言い放ち佐也加は去ってゆく。
 彼女の姿が消えるまで冬鷹は動く事ができなかった。



「あーあ、怒られてやんの」

 冷やかすよう訳ではない、あっさりとした声に、冬鷹は振り返る。
 猫科を思わせる曇りのない堂々として力強い真っ直ぐな瞳と、「邪魔にならない様に」という理由で切られたさっぱりとしたショートボブヘアの女子。
 作業着用のつなぎを纏い、ポケットから軍手をはみ出させる――その姿にはもう見慣れつつあった。

「杏樹か。メンテナンスか?」
「そ。ってなわけで手伝って」

 黒川杏樹はさも当然の如く、あっさりとした口調で言った。

「またか。……見てただろ。今はそんな気分じゃないんだ。英吉に頼めよ」
「もう頼んだわよ。特別訓練だっけ? それのせいかしんないけど、今回メンテ依頼の量がすごい事になってんの。だから三人で運ぶわよ」

 有無を言わさぬ物言いだが、それだけで素直にやる程冬鷹はお人よしではない。

「俺はやるって言ってないぞ」
「どうせこのあと出かける予定なんでしょ。ついでに困ってる幼馴染の頼みを聞くぐらいしてもいいんじゃない?」

「なんで、俺が出かけるって知ってんだ?」と聞きつつも理由は一つしかない。
 案の定、杏樹は「さっき雪海に会って聞いた」と答えた。
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