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第三章 妹
第24話
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わかる! すっごくわかる! と雪海は怜奈に頷き掛けた。
急速に仲を深めた二人は、ただいま絶賛兄への愚痴大会となっている。
「今じゃないでしょ? ってね」「そう。あと、センスがずれてるって言うのか、」「あー、わかる。それに、私が昔好きだったものを今でも好きだと思ってたり」「あー、あるある」
と二人が会話に花を咲かせる度に、冬鷹の心に棘がちくちくと刺さる。痛みに耐えられなくなり、何度かトイレやジュースの買い出しを理由に席を外さなければ、再びショックでおかしくなっていたかもしれない。
少し子供っぽい雪海と少し大人っぽい怜奈――かと思っていたが、こうして並んでいると、どちらも歳相応にかしましく思えてきた。
日暮れ近くになっても熱は冷めず、二人は再会を約束して、別れる事となった。
「すごい盛り上がってたな」
「うん。なんか結構気が合うところ多くて。昔は『気が強そうな感じのコだなあ』って印象だったと思ったんだけど、小さい時の記憶なんてアテにならないね。話してみたら全然そんな事なかった」
雪海は無邪気な微笑む。楽しさの名残を噛み締めているようだ。
しかしその顔に、ふと薄らともの悲しげな影が差すのが見て取れた。
「どうかしたか?」
「その、ね。怜奈ちゃんすごいな、って思ったんだ。お父さんもお母さんいなくて、お兄さんも離れ離れで、それなのに元気ですごくしっかりしてる。お兄ちゃんが優しくする理由がよくわかったよ。私でもそうするもん」
自分たちも両親を失った。しかし互いに兄妹がそばにいる。新しく家族になってくれた人たちもいる。そういった意味では怜奈よりずっと幸せなのかもしれない。
「そっか……雪海と同じ気持ちで良かった」
「……ねえ、お兄ちゃん。今度はいつ怜奈ちゃんと会うの?」
「確か、土曜日のお昼だったはずだけど?」
「私も一緒にいちゃダメかな?」
「え? うーん……いや、ダメだろうな。こっちは仕事だから」
冬鷹が兄らしくきっぱりと止めると、雪海は頬を膨らませた。
「んーッ! ……あ! じゃあ、怜奈ちゃんが友達を連れてくるのはアリ?」
「あのなー。だからこれは仕事なんだぞ? そんなのダメだ」
「なんでよ! 友達連れてくんのは怜奈ちゃんの自由でしょ?」
「それが雪海だから、ダメなんだ。聞き取り担当の妹がその場にいるのはおかしいだろ?」
「その時の私は『怜奈ちゃんの友達』枠だから、別におかしくないし」
「だから、あのなー」
二人の問答は、結局軍施設にある郡司家の住宅区画に着いても決着しなかった。
翌日のパトロール任務中、冬鷹は相談に乗ってもらっていた根本に、妹と仲直りした事を伝えた。そして、怜奈と街でばったり会った事と、雪海と怜奈が仲良くなり、雪海が聞き取り調査に来たがっていた事も、半ば愚痴を吐くように話した。
「まぁ、別にいいんじゃない? 冬鷹君より、妹ちゃんの方がより親密になれそうだし、僕らとじゃしないような雑談をしてる最中にポッと何か思い出すかもしれないしぃ」
例によって瞼を重そうにしながら根本は言った。
「で、でも関係者以外を巻き込んでいいんですか?」
「市民に協力してもらうのの何がイケないのぉ?」
眠たげながらズバリと放たれた疑問に、冬鷹は言葉を失った。
「まぁ、もし不味かったとしてもぉ、バレなきゃイイでしょぉ」
気が進まなかった部分はある――というか、そちらの方が大部分だ。
だが、しっかりと『ダメ』な理由を用意できなかった。ならば、闇雲に認めないわけにはいかないのかもしれない――そう考えた。
次の土曜日、冬鷹と根本は雪海を連れて、怜奈との待ち合わせ場所へと向かった。
怜奈は雪海の存在に首を傾げていたが、カクガクシカジカこういう事だから、と雪海の説明にすぐに笑顔で納得してくれた。
例のように、近況の異変と思い出した事の有無を尋ねる。だが答えもやはり例のごとく。
早々に聞き取りが終わったと見るや否や、雪海は怜奈に話しかけ始めた。
学校でのこと、趣味、好き嫌い、ファッション、互いの兄のこと、休みの日の過ごし方、などなど。話は尽きないし、終わらせるつもりも当然ないだろう。
いつの間にか根本は座ったまま静かに寝ていたし、冬鷹も正直、途中眠ってしまいたくなった。だが、根本の考えていた通りで、確かに雪海とする怜奈の雑談は、冬鷹たちとしたものより内容が濃く、また情報量が多かった。
有益なものがあったかはわからない。正直、無い確率の方が圧倒的に高そうだ。
しかし、何が有益になるか分からないし、何より個人的な事を言えば、怜奈を密かに心配する身としては彼女の事が多く知れる事自体が有益と言えた。
特筆すべきは、愚痴を零しながらも怜奈は兄の事が大好きなのだろう、とわかった事だ。
怜奈のお下げについた赤いリボン。あれは小学三年の時に、兄からプレゼントされたものらしい。それを毎日身に付けて、不安な事や緊張した時など、落ち着いて冷静さを取り戻したい時にはニギニギとするのが癖なのだとか。
心温まる兄妹のエピソードに冬鷹は穏やかな気持ちにさせられた。
急速に仲を深めた二人は、ただいま絶賛兄への愚痴大会となっている。
「今じゃないでしょ? ってね」「そう。あと、センスがずれてるって言うのか、」「あー、わかる。それに、私が昔好きだったものを今でも好きだと思ってたり」「あー、あるある」
と二人が会話に花を咲かせる度に、冬鷹の心に棘がちくちくと刺さる。痛みに耐えられなくなり、何度かトイレやジュースの買い出しを理由に席を外さなければ、再びショックでおかしくなっていたかもしれない。
少し子供っぽい雪海と少し大人っぽい怜奈――かと思っていたが、こうして並んでいると、どちらも歳相応にかしましく思えてきた。
日暮れ近くになっても熱は冷めず、二人は再会を約束して、別れる事となった。
「すごい盛り上がってたな」
「うん。なんか結構気が合うところ多くて。昔は『気が強そうな感じのコだなあ』って印象だったと思ったんだけど、小さい時の記憶なんてアテにならないね。話してみたら全然そんな事なかった」
雪海は無邪気な微笑む。楽しさの名残を噛み締めているようだ。
しかしその顔に、ふと薄らともの悲しげな影が差すのが見て取れた。
「どうかしたか?」
「その、ね。怜奈ちゃんすごいな、って思ったんだ。お父さんもお母さんいなくて、お兄さんも離れ離れで、それなのに元気ですごくしっかりしてる。お兄ちゃんが優しくする理由がよくわかったよ。私でもそうするもん」
自分たちも両親を失った。しかし互いに兄妹がそばにいる。新しく家族になってくれた人たちもいる。そういった意味では怜奈よりずっと幸せなのかもしれない。
「そっか……雪海と同じ気持ちで良かった」
「……ねえ、お兄ちゃん。今度はいつ怜奈ちゃんと会うの?」
「確か、土曜日のお昼だったはずだけど?」
「私も一緒にいちゃダメかな?」
「え? うーん……いや、ダメだろうな。こっちは仕事だから」
冬鷹が兄らしくきっぱりと止めると、雪海は頬を膨らませた。
「んーッ! ……あ! じゃあ、怜奈ちゃんが友達を連れてくるのはアリ?」
「あのなー。だからこれは仕事なんだぞ? そんなのダメだ」
「なんでよ! 友達連れてくんのは怜奈ちゃんの自由でしょ?」
「それが雪海だから、ダメなんだ。聞き取り担当の妹がその場にいるのはおかしいだろ?」
「その時の私は『怜奈ちゃんの友達』枠だから、別におかしくないし」
「だから、あのなー」
二人の問答は、結局軍施設にある郡司家の住宅区画に着いても決着しなかった。
翌日のパトロール任務中、冬鷹は相談に乗ってもらっていた根本に、妹と仲直りした事を伝えた。そして、怜奈と街でばったり会った事と、雪海と怜奈が仲良くなり、雪海が聞き取り調査に来たがっていた事も、半ば愚痴を吐くように話した。
「まぁ、別にいいんじゃない? 冬鷹君より、妹ちゃんの方がより親密になれそうだし、僕らとじゃしないような雑談をしてる最中にポッと何か思い出すかもしれないしぃ」
例によって瞼を重そうにしながら根本は言った。
「で、でも関係者以外を巻き込んでいいんですか?」
「市民に協力してもらうのの何がイケないのぉ?」
眠たげながらズバリと放たれた疑問に、冬鷹は言葉を失った。
「まぁ、もし不味かったとしてもぉ、バレなきゃイイでしょぉ」
気が進まなかった部分はある――というか、そちらの方が大部分だ。
だが、しっかりと『ダメ』な理由を用意できなかった。ならば、闇雲に認めないわけにはいかないのかもしれない――そう考えた。
次の土曜日、冬鷹と根本は雪海を連れて、怜奈との待ち合わせ場所へと向かった。
怜奈は雪海の存在に首を傾げていたが、カクガクシカジカこういう事だから、と雪海の説明にすぐに笑顔で納得してくれた。
例のように、近況の異変と思い出した事の有無を尋ねる。だが答えもやはり例のごとく。
早々に聞き取りが終わったと見るや否や、雪海は怜奈に話しかけ始めた。
学校でのこと、趣味、好き嫌い、ファッション、互いの兄のこと、休みの日の過ごし方、などなど。話は尽きないし、終わらせるつもりも当然ないだろう。
いつの間にか根本は座ったまま静かに寝ていたし、冬鷹も正直、途中眠ってしまいたくなった。だが、根本の考えていた通りで、確かに雪海とする怜奈の雑談は、冬鷹たちとしたものより内容が濃く、また情報量が多かった。
有益なものがあったかはわからない。正直、無い確率の方が圧倒的に高そうだ。
しかし、何が有益になるか分からないし、何より個人的な事を言えば、怜奈を密かに心配する身としては彼女の事が多く知れる事自体が有益と言えた。
特筆すべきは、愚痴を零しながらも怜奈は兄の事が大好きなのだろう、とわかった事だ。
怜奈のお下げについた赤いリボン。あれは小学三年の時に、兄からプレゼントされたものらしい。それを毎日身に付けて、不安な事や緊張した時など、落ち着いて冷静さを取り戻したい時にはニギニギとするのが癖なのだとか。
心温まる兄妹のエピソードに冬鷹は穏やかな気持ちにさせられた。
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