東京パラノーマルポリス -水都異能奇譚-

右川史也

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第六章 氷を繰る敵対者

第42話

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「冬鷹、佐也加さんに言われた通りだ」
 風に乗った声が前から届く。景色はいつの間に夜闇の中に沈んでいた。

「自分で言うのもなんだが、僕たちの行動は軍規を乱している。それが周りに余計な手間を増やして、結果雪海ちゃんを助けられなくするかもしれない」
「ああ、そんな事わかってる」

 当り前の事だった。それでも英吉が尋ねてきたのは、恐らく冬鷹の意思を確認するためだ。

「でも、誰かに任せて、自分はただ妹の帰りを待つなんて俺にはできない!」

 妹のためにと訓練して身になりつつある力。それを使う時が今なのだと思わずにはいられない。でなければ何のための力なのだと。

「わかった。……ごめん、聞くまでもなかったな」

 そっと呟くような、いつもの穏やかな声が流れてきた。
 ――が、その声音が不意にスッと沈んだ。

「……なあ、冬鷹」
「ん?」
「怜奈ちゃんのお兄さん、もう亡くなっていたんだな」
「……ああ、そうだな」
「あのコ、正真正銘『ひとり』だったんだな」
「…………まさか、俺が同情して剣を鈍らすとでも思ってんのか?」
「ごめん……だけど、冬鷹は優しいからさ」

 英吉の声は優しく、しかし何故だが悲しげに聞こえた。

「怜奈ちゃんは、お兄さんを『病気』だと偽った。『実はお兄さん想い』だって面も見せた。それが全て演技だった。僕たちの同情などを誘う為の『嘘』だったんだ――って解っていても、冬鷹は『お兄ちゃん』で、怜奈ちゃんは『妹』だから……つい」
「……大丈夫だ――ああ、大丈夫!」

 自分自身にも言い聞かせるつもりで冬鷹は強く頷く。

「ちゃんと解ってる。何を優先すべきかも、例え『敵』だとしても自分が甘くなっちまうかも知れねえって事も。……でも、それでも、俺にとって雪海はかけがえのない存在なんだ! そこだけは揺るがねえ! 絶対に間違えたりしねえッ! …………だけど、」

 ふと湧いた疑問に冬鷹の言葉は止まる。

 本当に『嘘』なのか――。

 兄の話をする時の怜奈は――あの幸せそうな表情は、とても演技には見えなかった。

 あるいは「兄」である冬鷹が、「妹」である怜奈に「そうであってほしい」と思ったが故に歪んで見えたのかもしれない。
 だがその可能性を理解していても尚、冬鷹は――冬鷹の心は、怜奈の兄への感情までもが『嘘』だったとは信じる事ができなかった。

「『だけど、』――なんだ?」
「――あ、うん。いや、なんでもねえ…………ん?」

 襟からノイズが漏れる。軍の通信が開いた。
 冷静に状況を伝えながらも焦りが漏れる声が飛びだす。

『こちら追跡班。緊急事態です。隊員に二名が敵の攻撃により負傷』

 冷や汗が噴き出す。

 四人の隊員によって足止めが出来ていた。それが二人減る――半数になっても同じ様に敵をその場に繋いでおく事が可能なのか。
 ――いや、可能性などの話ではない。状況が悪くなっている。それが重要だ。

 冬鷹の心が急く。
 すると、急にバイクが加速した。

「しっかり捕まってろ冬鷹。少し荒っぽくなる」

 英吉の声は、普段誰にも見せない様な、熱さを伴っていた。

 英吉も覚悟を決めた――それを示すかのようにバイクはぐんぐんと速度を上げた。
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