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第二章 外堀はこうして埋められる
様々な報告がありました
しおりを挟む「そんな便利なもんギムレットはん作ってはんの?僕も欲しいわぁ、僕の奥さんの記憶でいっぱいに出来たら幸せそう!」
変態チックな発言きましたけど、純粋に愛らしい姿を残したいんですよね?
リュート様も若干頬が引きつってます……まあ、キュステさんはこうやって色々誤解を招いて行くタイプだと理解しました。
やっぱり、残念枠ですね。
「チェリシュも、いっぱーい!とるの!リューとルーといっしょなの」
「良いですにゃ!いっぱい撮ったら見せてほしいのにゃ!」
「見たら幸せになれそうにゃ!」
「いいですねぇ」
「みたいみたいー!」
カフェとラテだけではなく、クロとマロもチェリシュが撮る記憶に興味津々です。
私もチェリシュが何を残すのか気になりますもの。
その気持ち、よくわかりますよ。
「こんど、3人でとりたいの、とってほしいの」
「はいはい、任せとき。ちゃーんと残したるさかいな」
「あいっ!」
チェリシュが嬉しそうに頷き、コンパクトに入れられている記憶の水晶をキュステさんに差し出しました。
え、い、今ですか?
「今日お願いしますなの!」
「きょ……今日?あー、まぁ、はい、できる限り頑張りますわ」
この後、仕事なんやけどなぁ……と、ボヤきながらも「任せろ」と言った手前、それ以上言えずに、大事そうに預かった記憶の水晶を眺めて微笑んだ。
「そうやんな。残しておきたいもんなぁ」
ちゃーんと撮らなアカンな!と微笑むキュステさんの表情に一瞬だけ見えた哀愁は、いずれ訪れるだろう死別を考えたのでしょう。
だけど、こうして笑えるのだから、きっと大丈夫。
「そうだにゃ、奥様……ハーブソルトのレシピ、習得できたのに作れなかったにゃ」
「そうだったにゃ!作れなかったのにゃ」
カフェが思い出したように報告してきた言葉に、ラテがカフェと同じくシュンッと落ち込み、揃って「ごめんにゃさい」というので大いに慌ててしまいました。
「習得はできたのですか?ということは、二人はやっぱりマスタークラスの実力があるのですね、良かったです」
「へ?マスタークラスって……まさか奥様……まさか、あのレシピ……レジェンド級とか言わんやろね……」
「そのまさかだ」
リュート様がそう言うと、キュステさんは天を仰いだ後、慌ててリュート様の方を見ます。
「レジェンド級レシピ保持者は、この国やと届け出が必要やったはず。登録せずに秘匿しようとしてへんやろうな」
「……さてな」
「アカンって!さすがにマズイやろ。護衛の件やったら、だんさんがやる言うて突っぱねたらええやろう?だんさん以上の実力者なんて、そうはおらんのやから」
キュステさんの話を聞いて、この国ではそういうシステムがあるのかと初めて知り、驚いてリュート様を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしていらっしゃいました。
あ……これは、知ってたけどやりたくないということなのですね?
「届け出しなきゃか……」
「当たり前やん」
「めんどくせーな」
「城へ行くのが嫌なだけやろ?」
「それに、ルナの髪飾りがまだ出来てねーからな……」
「あー、そっか、そういうルールがあったんやったね」
家紋の入った髪飾りが必要になるのですよね……確か。
しかし、それを言い訳にして少しでも遅くしたいという気持ちが現れているような?
リュート様にとって登城は面倒なことなのですか。
まあ、私も登城でいい思い出などありません。
城では、いつもイベントが起こるように面倒事に巻き込まれていました。
全てセルフィス殿下とミュリア様のしでかしたことに対しての尻拭いであったわけですし、いい思い出のはずがありません。
城内だからこそ、婚約者がいるのに他の女性と懇意になさっている姿を、人の目のつくところで見せてほしくありませんでした。
私は彼の母親ではないのですが、本人たちに苦言を呈しても暖簾に腕押しだったのでしょう、腹に据えかねてこちらに文句を言ってくる方も少なくありませんでしたもの。
ですが、「女としての魅力に乏しいからだ」というのは、違う気がしますよ?
そんなの、自分が一番わかっておりますが、さすがにそこでそうおっしゃるのは失礼すぎませんか?
……と、今ならそう思えるわけです。
当時は「こんな、魅力の欠片もない私だからいけないんだわ」と、落ち込んでしまいましたね。
何だか思い出したら、一言物申したい気持ちになりました。
今だったら何というのでしょう。
「……ルナ?」
はっ!
いつの間にかみんなの視線が集まっていましたけど、私……随分と険しい表情でもしていたのでしょうか、どうした?と心配そうにリュート様が覗き込み、可愛らしいダンスをしていたチェリシュまで首を傾げて私を見上げています。
「な、なんでもありません。ただ……嫌なことを思い出していただけで……」
「そうか……ルナにとっても城はいいところじゃなかったはずだからな」
苦笑することで肯定すると、チェリシュがよじよじと私のお膝の上に登ってきてしまいました。
これだけで、嫌な思い出が霧散して、心がほっこりあたたかくなります。
「ルー、お砂糖いっぱいの紅茶飲む?チェリシュが作るの!」
ポットから紅茶をそそぎ、お砂糖をたっぷり入れて混ぜてくれていますが、そ……それは入れすぎですよ?
でも、可愛い顔で「あい!どうぞなの!」と差し出されたら……わかっています。
飲みますとも!
すごく甘いですが、何だかチェリシュらしくて笑みが浮かんでしまいました。
全て飲み干してしまおうとした私のカップを横から伸びてきた手が奪い取り、どこからともなく取り出したマグカップに中身を移すと、さらに紅茶を注ぎ手渡してくださいます。
「よし、合作な」
「すごいの!これ、リューと一緒に作ったの!」
「さっきよりも効果がありそうだろ?」
「あいっ!」
さり気なく甘さを緩和させてくれたリュート様に、心から感謝しつつ口をつけると、甘みが随分と柔らかくなっていました。
チェリシュの気遣いを大事にしつつ、私が飲めるようにしてくださるなんて……リュート様のこの気遣いが嬉しいです。
「ホンマに親子やなぁ」
キュステさんにしみじみと言われましたが、そう見えることが嬉しいと感じました。
いいですねぇとクロに言われて微笑み返している中、カフェとラテはレシピを眺めながら真剣な表情です。
「作れるようになるかにゃ」
「頑張るにゃ!」
「そうです。レジェンド級レシピは、本来秘匿される物なのです。それを知らなかったとは言え、いただいたのですから、二人はもっと頑張らないとなのです」
「頑張るんだよぉ」
「がんばれー」
シロにそう言われて、俄然やる気が湧いてきたのか、カフェとラテは耳と尻尾をピーンッ!と立てて「やってやるにゃ!」と大はしゃぎである。
新しいレシピ1つで、ここまで喜んでもらえるのは嬉しいです。
「しかし、レジェンド級のレシピ譲渡って、確か……これも届け出が必要やったんとちがう?知識の女神様管轄やろ?」
「え……マジか!」
「レジェンド級レシピは取り扱いが難しゅうて面倒やから、知識の女神様が全て絡んでくるはずやねん。一族に受け継ぐことはあっても、他人やから……前例があらへんやろうなぁ」
高位レシピって、そこまで秘匿されてしまうものなのですか?
でも、それでは困ってしまうのです。
「では、ハーブソルトをカフェとラテが習得したら、新たにレシピをおこしてもらって、ギルドに登録していただこうと考えていたのですが……難しいことなのですか?」
「アホなこと言いな!そんなんアリえへんわっ!」
「でも、調味料レシピを他の方々にも広めるには、ゴーレム工場だけでまかなえるかどうか……」
「……は?何その工場って……ゴーレム?だんさん、どういうこと」
「ああ、それも話さないとな」
リュート様は、まだ手付かずで整地だけしてある広い敷地内に、レジェンド級レシピ関連のゴーレム工場と、その調味料販売のための小さな店と神々専用の別棟を建築することを考えていると、みんなに告げた。
なんですか?その別棟って!
そして、どうして神々専用の別棟が必要になるのかという話になり、私のスキル説明が入り、キュステさんが本格的に頭を抱え、カフェとラテは初めて知ったと驚き、長老に教えてあげなくっちゃなのにゃ!と大はしゃぎです。
シロとクロとマロは、目をキラキラさせて「すごいです、奥様!」と褒め称えてくれますが……そ、そんなに凄いことではないのですよ。
……多分?
「まさか、マナを壊さんように料理するなんて……アリえへん。そんなことを、昔のキャットシーはやっとったんかいな」
「そういうことだ」
「新事実だにゃ!みんな知らないはずだにゃ!」
「教えてあげないとだにゃ!」
耳をピーンッと立てて喜んでいるカフェとラテに、慌ててキュステさんが「待った!」と声を張り上げる。
「アカンアカン!もしそれで万が一奥様が『神々の晩餐』スキル持ちやってわかったら大事や。こっちで万全の体制が整うまでは言うたらアカン。奥様の安全第一やで」
そこで、二人は「それは大事だにゃ!」「時が来るまで温存だにゃ!」と拳に力を入れて力強くうなずいてくれましたが……安全第一って……すごく危険なスキル扱いされてませんか?
「わかってるじゃねーか」
「当たり前やろ。だんさん……ほんまに勘弁してやぁ」
「それがわかってくれるからこそ言うんだろ?むしろ、俺の商会の信頼出来るやつらには話すんだよ。そのうえで対策を練る」
「わかった……僕もその1人なんやね」
「お前だけじゃねーよ。サラとギムレットにも話すから、3人と俺でやるぞ」
「サラって誰よ」
「サラ・サラス姐さんだよ」
その名を聞いたキュステさんの顔に、一見してわかるほど喜びの色が宿ります。
「うそん……あの姐さん、うちの商会来てくれるん!?マジでだんさん良くやった!うわー、これでうちの商会、安泰やん!」
「だろ?」
サラ様は皆さんに有名な方なのですね。
仕事がとてもできそうな方でしたし、キュステさんに「安泰」と言ってもらえるほどの実力の持ち主なら、安心ですね。
……私に対して、頭を抱えてばかりだったことを、根に持っているわけではありません。
違いますからね?
キュステさんから半分ロールケーキを分けてもらったチェリシュがもぐもぐしながら私を見上げてきますけど、どうかしましたか?
「ルーがタコさんなの」
あ、唇を尖らせてましたか。
慌てて笑顔に戻しましたけど、リュート様が横で低く「ククッ」と魅力的な声で笑われています。
み……見られてしまいました!
恥ずかしい……!
「なに可愛い顔して拗ねてんの?」
リュート様が、先程のチェリシュが作ってくれた紅茶ほど甘く、脳がとろりと溶けてしまいそうな声を、私だけに聴こえるように耳に流し込んでくださって、慌てて手で塞ぎ何をするのかと見れば、魅惑的な笑みを深められました。
も、もう、リュート様の微笑み1つで気分が浮上するとか、私も大概ですよっ!?
だけど、人間そういうものかもしれませんね。
シロに「頼りにしていただいているのですから、頑張るのです」と言われて相好を崩し「可愛い奥さんのために頑張るね!」と、先ほどと打って変わった様子で言っているキュステさんを見て……アレと同じというのは解せませんでした。
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