悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

文字の大きさ
20 / 558
記念小話

2020年 年始特別話 前編

しおりを挟む
 
<ご注意くださいっ!>

 この話は、現状の設定で書かれていることであり、未来の話とは異なります。
 確実に同じになると言えない設定がいくつかありますので、現状のみで楽しめるという方のみ、このままお進みください。


───────────────
 
「年末年始……か」

 この世界においての年末年始は、日本と似たような感覚だ。
 ただ大きく違うところがあるとすれば、その年の最後となる夜に、人々は一斉に空を見上げる。
 寒空の中、小さな村や町でも、その時を待ちわびるように、体が冷えないよう大きな焚き火を用意したりして、今年一年あったことなどの話に花を咲かせ、俺たち上位称号持ちは登城し、それぞれの家と交流を深めるのが一般的であった。
 日付が変わる30分前になると、東からは太陽が、西からは月が昇り、天空で交錯するという、日本では……いや、地球では考えられないような光景を目の当たりにする。
 それは、この世界が新しい年を迎えるための儀式であった。
 まあ、俺は三男坊だしジュストの件もあることから、登城せずに家で過ごすことが多い。
 このときばかりは、レオやイーダたちも城へ行くので、俺はというと一人気楽に過ごすか、最近だとキュステたち商会メンバーと過ごしている事が多かった。

 しかし、今年は少し様子が違う。
 商会メンバーと過ごしているのは変わらないのだが、テキパキと指示を飛ばしながら、酒や料理の補充を行う天色の髪の彼女が忙しそうに動いていた。
 しかも……だ、何故か俺の元同級生である黒騎士たち全員が集まり、家族や恋人を連れて店に集まっているという状況だ。
 俺が寂しくないようにと考えたルナとキュステが計画し、アイツラに声をかけて、このパーティーがはじまったようである。
 賑やかではあるが、これってさ……ルナ、お前が休む暇ねーだろ……
 大丈夫かと心配になったが、ルナを始めとしたメンバーは忙しそうなのだが楽しそうに笑顔でパタパタ走り回っている。
 昨年までは家の部屋か、寮の部屋に閉じこもったままでしたからと苦笑していたルナであったから、この状況が嬉しくて仕方ないのかもしれない。

 俺としては……ルナを独り占めして、ゆっくり語り合いたかった……かな?

 でも、楽しそうにしているルナを見ていたら、そんなことも言えないし、何より楽しんでいるのならば良い。
 今年も世話になったギムレットたちフライハイト工房で働く者の中には、聖都では美味だと評判になっているルナの料理を心ゆくまで味わい、家族サービスも出来たようでホッとしている様子も見受けられる。
 ヤベェ……もう少し休みを増やさないと、一家離散なんてことにならねーだろうな。
 俺の工房に集まる連中は、職人気質のやつが多い。
 そんな夫や息子に呆れ諦めている人も多いのだろうが、こういうサービスも必要だな……と、改めて感じた。

 ただ、そうなるとルナやキュステたちの負担が増えるし……困ったものだ。
 ゴーレムを増やすか……

 酒や料理を堪能している中、太陽と月が星だけしか無かった空に昇り始める。
 新しい年の始まりが、そこまできていた。

 さすがにこの光景を目にすると、人々は黙って空を見上げるしか無い。
 圧倒的な力を目の当たりにして、十神を畏怖する。
 神は尊く、力強く、我々の近くにあり、共に歩んでいけることに感謝する瞬間でもあるのだと、国王陛下が城では語っているだろう。

 アイツラ……そんなに尊ぶものではないけどな……

「うわぁ……すごい光景ですね……神秘的と言うか、圧倒的と言うか……」

 初めて見るルナは、目を輝かせて俺の隣に立っていた。
 こういう時には必ず俺のそばに戻ってきてくれるのが嬉しくて、彼女の冷たくなっている手を握る。

「冷てーな。冷えてんだろ」
「大丈夫です、いまからホカホカになりますから」
「しょーがねーな。あっためてやるよ」

 嬉しいですと抱きついてくる彼女を抱きしめ返し、みんなと同じように空を見上げた。
 年末年始だけは、神々の制約の中でも場所縛りのモノだけは解除されるらしく、山や海の神も今は神界に戻り、親兄弟と仲良くやっていることだろう。

「うにゃーっ!寒いのーっ!」

 何だっ!?
 聞き覚えのある声が空から降ってきたかと思うと、俺の背中にダイブする。
 けっこうな衝撃だったが、声を聞いた瞬間にある程度察したアレンの爺さんがフォローしてくれたみたいだ。
 なるほど、逆に地上へ降りてくるパターンもアリか。

「さむさむなの。チェリシュもぬくぬくしてほしいの」

 もぞもぞと俺とルナの間に入ってくるチェリシュに、自然と笑いがこみ上げてくる。
 おいおい、お前……もうちょっと着込んでこいよ。
 しょーがねーな。

 術式を編み上げ、火と風を使い、日本の温風ヒーターのような原理を作り出す。
 まだ試作品段階だから、術式しか完成していないが……
 室内がより暖かくなり、みんなが興味津々に俺の術式を見ている。

「やっぱり違うわよね……」
「リュート様の術式のほうが緻密だって言ったろ?」
「むしろ、魔力の流れを扱う系統が違うんじゃないかしら」
「いやいや、彼の術式は緻密さと簡素化を求めた合理的なものだ」

 なんていう会話が聞こえてくる。
 術式に詳しい家族がいるのか?
 ルナとチェリシュを相手にしているので、そちらに集中することはできないが、こうして少しずつでも違いを認識していってくれたら嬉しい。

「パパ、ママ、頑張れーなのっ」

 チェリシュが手を上げてきゃーっと声援を送っている。
 その姿にみんながほっこりしていたら、ルナが少しだけ席を外しますねと離れていってしまった。
 少し……寂しいな。
 捕まえて抱きしめてしまうのは簡単だが、何か考えがあってのことなのだろうと、邪魔しないようにした。
 みんながいて寂しくないはずなのに、ルナもここにいてくれというのはワガママだろう。
 俺のためにルナは頑張ってくれているのだから……

 ほどなくして戻ってきたルナは、チェリシュと俺にマフラーを巻いてくれた。
 おそろいのマフラーに、チェリシュのテンションが一気に上る。

「一緒なの!ルーもお揃いなの!大事にするの、ありがとうなの、ルーっ!」

 ぎゅーっと抱きつくチェリシュを抱きしめ返すルナの笑顔が可愛らしくて……この可愛い二人を遠慮すること無く俺の腕の中に閉じ込めてしまった。
 いいよな?
 すげー可愛くて仕方なかったし……
 3人揃って月と太陽が交錯し、皆既月食が作るダイヤモンドリングのような光景が続き、天からルナフィルラの花びらが舞う。
 これは、神々が神界から地上に向けて、今年一年良い年であるようにという願いをこめてまいているのだと聞いた。
 神界での新年を迎える行事の1つであるらしい。
 どこにでも新年行事ってものはあるもんだ。

 暫くして、太陽と月が姿を消し、星だけの空になる。

「リュート様。新年明けましておめでとうございます」

 懐かしい言葉だった。
 随分と長い間聞いていなかった言葉がくれた懐かしさに、鼻の奥がツンッとして涙が滲みそうになったけれども、俺は笑顔で新年の挨拶を返す。

「チェリシュも知ってるの。あけおめことよろなの!」
「オイ、何故そっちを知っている……」

 時空神ゼルディアスだろ、アイツしかいねーわ。
 面白がって教えたに決まっている。

「新しい年にマナの光が満ちるよう、乾杯じゃ!」

 この世界では「新しい年にマナの光が満ちますように」……というのが新年の挨拶になるが、やっぱり俺は「明けましておめでとうございます」っていう言葉のほうがしっくり来るらしい。
 懐かしい挨拶が出来た喜びに、俺はゆっくりと口元を緩めた。

しおりを挟む
感想 4,347

あなたにおすすめの小説

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。