悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第八章 海の覇者

お披露目・キッチンカー!

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 その後、身支度を調えた私たちは、朝の鍛錬用の服装に着替えたリュート様に導かれ、未だ足を踏み入れたことが無かった隣の部屋へ向かいました。
 かなりの広さを誇る作業部屋は元々空き部屋だったらしく、好きに使ったらいいと言ったお父様が呆れるくらい原形をとどめることなく、魔改造を施されてしまったようです。
 廊下から入る扉と、リュート様の部屋に繋がる扉があり、出入りしやすいようになっておりました。
 商会の人だけでは無く、様々な方が来訪するのでしょう。
 簡単ですが、シンプルだけれど見る人が見ればわかる程度に、さりげない高級感のある応接セットも装備されておりました。
 しかし、それよりも私の目を引いたのは、広い作業スペースと、様々な術式が織り込まれているだろう周囲の壁や床です。
 私の目に入ってくるだけでも、数十という数の術式が施されていて、妙に気になりました。

「ここの作業は、基本的にうるさいことが多いし、外に会話を漏らしたくは無いからな。音の遮断はもちろんだが、熱や氷や電流耐性だけではなく、まあ、母さんと実験がてら、いろいろ試してみた結果、こうなったって感じだな」

 私が術式を気にしているようだと気づいたリュート様の言葉でしたが、親子して悪ノリした結果、どこの防衛施設かわからないくらい強固な部屋ができあがったということでしょうか。
 ラングレイ家が外敵からの襲撃を受けた際には、ここに避難してくればいいのでは無いかと思えるくらい、すごいお部屋になっておりますもの。

 さすがのチェリシュも、ぽかーんとした表情で周りを見渡しておりました。

「で、さっき話していたキッチンカーがこれだな」

 ついたての奥、ひっそりと……というには大きすぎる物体は、ベオルフ様の夢の中で見た、綺麗な装飾が施されたキッチンカーでした。
 車の中で不自由なく動き料理ができるようなスペースを確保しているので、かなり車高は高いですし、幅もそれなりにあります。
 車体の色は、落ち着いたモスグリーンで、森の中でも悪目立ちはしないでしょう。
 魔物の目を引く色だと、集中攻撃を受けそうですものね。

 運転席は至って普通のように見えますが、それだって日本の車を知っているから、そう感じているだけなのかもしれません。
 スライム車がある此方の世界でも、これはあり得ないくらい座り心地の良さそうな運転席だと考えられているかも……?
 路線バスのような役割をしているスライム車を知っていたとしても、まさか、料理ができて宿泊もできる車なんて、誰も考えていなかったはずです。
 その域に達するには、あと数年は必要だったでしょうが、リュート様が存在したことにより、一気に進んでしまいました。
 恐るべし、リュート様。
 恐るべし、日本の知識。

「車体のカラータイプは、3つ。森の中用のモスグリーン。通常用の白と天色。闇に溶け込む黒だな」

 いろいろと場面にあわせてカラーリングできるようになっているのですか……す、すごいですね。
 普通に目立つ色では危険な場合を想定して作っているということを考えても、このキッチンカーは、命を守る最後の砦と言ったところでしょうか。
 チェリシュが狙われた場合は、この車の中に逃げ込みましょう。
 それが、一番、リュート様のためになる行動になるはず……
 本当は心配ですが、チェリシュにもしものことがあったら大変ですもの!

「チェリシュがルーをつれて、逃げ込むの!」
「いや、お前も逃げろよ? いいか? 神力を使わずに逃げるんだぞ?」
「……んー、んとぉ……あいっ!」
「本当にわかってんのかな……頼んだぞ、ルナ」
「お任せください」

 チェリシュはやることがわかっちゃったの! と、目をキラキラさせて守ろうとしてくれるのは嬉しいのですが、この場合、チェリシュを守ることを最優先にした方が良さそうです。
 小さくて軽いチェリシュなら、抱えて走ることもできますし、転けなければ大丈夫っ!……って、何故このタイミングで、ベオルフ様が呆れた様子で溜め息をついている様子が脳裏に浮かぶのでしょう。
 走ったら転けるだけだと言われているようではありませんか。
 お願いですから、変なフラグは立てないでくださいっ!

「バックドアを開けて逃げ込めば大丈夫だとは思うが……不安だったら、中の扉を開いて、部屋へ逃げ込んでいてくれ。そこなら、俺以外入れないだろうし、俺やルナの許しが無く他の誰かが入ってくることも無いだろう」
「そこが一番安心できますね」
「まあ、車体が壊される心配もないはずだ。そこに重点を置いて強化しておいた。大型の魔物が放つ魔法だって、ある程度弾いてくれるし、押しつぶされることも無い」
「……う、動く要塞ではありませんか」
「それくらいしないと、安心できねーだろ?」

 ここで、リュート様の過保護っぷりが大爆発です。
 みんなが危なくなったら、この車を盾にして戦えば良いのでは?
 そう考えてしまうくらい、強固な作りのキッチンカーに安心したら良いのか、それを作り上げてしまうリュート様とギムレットさんに感謝したらいいのかわかりません。
 ガラスだって、特殊素材だと時空神様がおっしゃっておりましたし、きっと車体に使われている金属だって、普通ではないのでしょう。
 これを作るのに、いったい……どれだけの費用がかかっているのか───
 考えるだけで頭痛がしてきます。

「ほら、後ろの扉を開いて中に入ってみてくれ」
「は、はい」

 大きな扉を開こうと力を入れましたが、意外と軽くてすんなり開き、中へ入ってみると、外から見るよりも開放感のある空間が広がっておりました。
 もっと窮屈かとおもっていたのですが、意外です。

「創世神ルミナスラが、少し手を加えているようだ」

 なるほど……外からは窮屈そうに動いているように見えるけれども、実際は違うということなのですね。
 あまり、その辺りを気にする方はいらっしゃらないかもしれませんが、これは中で作業する者へ対する、優しい配慮です。
 ただ、人の手では絶対にできないことですが……そこまで、考えてくださったことに、とても感謝したい気持ちでいっぱいになりました。

「ルナが料理をするときの動線を考えて設備を配置したけど……どうだろう。使いづらそうだと感じるなら、配置換えをするから教えて欲しい」
「兄が……リュート様は、本当に私のことを見てくれているのだと言っておりました。実家のキッチンと同じ配置で、とても使い勝手が良さそうです。リュート様、ありがとうございます」

 私を……ちゃんと見ていてくれて───

 言葉にならない言葉を感じてくれたのか、リュート様は嬉しそうに目を細め、にじむような笑みを浮かべながら「ああ」と返事をしてくださいました。
 リュート様が私を見ていてくれるから、大丈夫だと思えます。
 一人では無いと感じることができます。
 だから、頑張ろうという活力が生まれ、たくさんの思いが私を突き動かします。

「私には勿体ないくらい、素敵なキッチンカーですね」
「何を言ってんだ。ルナのことを考えて作ったんだから、勿体ないなんてことはねーよ。ルナが持つに相応しい物に仕上がったかどうかのほうが心配だ」
「これ以上と無い代物ですよ」
「いや、ガラス部分のプロトクリスタルは良いとして、車体の強化はもう少し工夫できるんじゃねーかと……」

 あ、これは後々、カスタマイズしていく予定な感じですね。
 まあ、車でもカスタムする方はいらっしゃいますから……わからなくもないです。
 ただ、それを黙認した結果、小さな要塞化が進みそうで怖いとは言えませんでした。

 そ、そういえば、側面を開閉するボタンって、どこにあるのでしょう。
 外に出てガラス面になるはずの左側を調べてみると、後ろにある扉のすぐそばに、月と桜を模した飾りがあり、それを押してみるとゆっくりと上下に開閉していきます。

「支えになる棒は、ここに入っているから」

 そう言って、リュート様は後ろの扉に一番近い収納棚の側面にセットされていた棒を取り外しました。
 なるほど、そこに車の備品が入っているのですね。
 椅子なども空間を上手に使って収納されていることに感心しながら、あっという間にオープンカフェスタイルのキッチンカーが完成です。

「こうすれば、料理を提供できるだろうな。まあ、他のキッチンカーの実用はまだまだ先だろうけど、スライム車をベースにしたキャンピングカーを販売することは可能だ」

 え?
 そ、それは……どういう……

「スライム車の開発元と技術開発提携をしているから、この車体も動力部以外はすぐに完成したんだ。あちらの動力部分はフルールスライムだから、火を使わないキャンピングカーってことで落ち着いたけど、それだって野宿をすることが多い人には大助かりだろう」

 他の商会の方々が出入りしていたのは、そういう理由があったのですか。
 提携を結んでだと言いますが……本来は、簡単にできることではありません。
 つまり、それだけリュート様の技術が買われているってことですよね。
 いえ、リュート様だけではなく、ギムレットさんを中心としたフライハイト工房の技術力が高いからでしょう。

「装甲や備品関係はコスト的に難しいから、今のスライム車をベースとして改良していく感じだろうし、新たなスライム車の発展系が見えたとか言って、商会長がやる気を出していたから、近いうちに、できるだけローコストなキャンピングカーが販売されるかもな」

 軽やかに笑うリュート様は、自分がどれほど貢献しているか気づいてもいない様子です。
 リュート様にしてみれば、このキッチンカーの早期実用化を目指すための手段だったかもしれませんが、その行程で、どれだけの技術者や商会の方々を刺激しているか理解しておりません。
 刺激された方々は、様々なインスピレーションを得て、更に開発をしていくのに、それをただ「凄いよな」って言えるリュート様が本当に凄いのです。
 キュステさんやギムレットさんやサラ様は、そんなリュート様を支援しながらも守りたいのでしょう。
 今のところ、そんなリュート様の技術力に惚れ込む方々ばかりのようですが、もしかしたら、よからぬことを考える者もいたかもしれません。
 しかし、そういう手合いは、キュステさんが裏でキュッとしている可能性がありますし……黙っておきましょう。
 そういうところは信頼しているのですよ?
 シロさえ絡まなければ、実に有能ですもの。
 ただ、不憫な役回りが多く、趣味がちょっと……
 ま、まあ、それは人それぞれですものね!

 ロリコンで、リュート様に殴られたり蹴られたりすることに悦びを見いだしていても、その実力は本物ですっ!

 そう考えて頷いている私に、何故かくしゃみをしているキュステさんのイメージが浮かんでしまったのは謎でしたが、チェリシュが嬉しそうにリュート様の背中によじ登り、キャンピングカーをはしゃぎながら見ている可愛らしい父娘姿を眺めつつ、映像より実物のほうが何倍も凄かったことをベオルフ様に報告しなければっ! と思いました。



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