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七
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「エーリク。お前の瞳は、この世のどの宝石よりも美しい」
ディーデリックはエーリクと重なるようにしてカウチに仰向けになっていた。彼は間近になったエーリクの瞳を凝視し、その美しさに嘆息を漏らした。
「はは、お前だけだな。私の顔よりも先に瞳を褒めるのは。――けれどディーデリック。まやかしの美に何の価値があるだろう」
エーリクは触れているディーデリックの手の平に頬を摺り寄せた。それは普段アブドゥルマリクがエーリクにしている仕草とそっくりで、ディーデリックはその愛らしさに笑みを浮かべた。
「お前の美しさは、まがい物ではない。本物の美だ」
「――そうでもないさ。よく覚えておくがいい、ディーデリック。外見など所詮は張りぼてだ」
本当の美はここにあると、エーリクはディーデリックの左胸に手を当て、どこか寂しそうな表情で微笑んだ。
「あ、あの」
これは一体どういう状況だろうかとラウは戸惑った。アブドゥルマリクと下らない口論を繰り広げた事までは覚えているのだが、何故見知らぬ男の腕の中にいるのだろうか。ラウの視界にチラリと真っ赤に染まった布袋が映り、それを見た彼は、ああポポタが潰れてしまった怒りから我を忘れてしまったのだなと即座に理解をした。それから実が潰れて食べられなくなったくらいで、我を忘れて怒るほど熱烈にポポタが好きな訳ではなかったはずだというのに、これもエーリクの影響なのだろうかと彼は首を傾げた。
「よくぞ私の許へ来た」
ラウを抱きしめていた男はラウの頬に両手を当て、涙を零し宝石のような紫の瞳を凝視した。
ああ、この男を知っている。彼はディーデリックだ。エーリクの記憶にある彼は十四の少年で、目の前の男よりも随分と線が細く、また背も低かったけれど。その光を反射した様が星空のように美しい黒髪。宵闇の空のような濃紺の瞳。それは紛れもなく夢で見たディーデリックのものだった。
目鼻立ちは元々整っていたけれど随分と精悍な顔立ちになった。けれど目じりに少しばかり小皺が寄っているのは歳を重ねたからだろうか。ああ、そうだ。あれから十五年の時が経ったのだ。もうディーデリックは二十九になるのだから、皺の一つや二つ刻まれていてもおかしくはない。
ラウは自分の中のエーリクが喜び、そして目の前の成長した彼の姿に感慨深い思いを抱いている事を感じた。
それにしてもなんだ。思ったよりも拍子抜けした結果だったな。あってもなんて事はなかった。特にラウが消えるだとか、そんなことはない。ただ、彼の中のエーリクの存在が強まったように感じるだけだ。けれどそれも不快ではない。収まるところに収まったと言えばいいのだろうか。
「ディーデリック。エーリクが喜んでいるよ。随分と男前になったなって。それから」
ラウは自身の中に沸き起る衝動に従ってついつい言葉を紡いでしまい、ふと我に返ったラウはしまったと言葉を途中で飲み込み慌ててディーデリックから視線を外した。ラウは自分がエーリクの生まれ変わりだと理解しているけれど、ディーデリックははそうではないのだから、絶対に彼は変に思ってしまったに違いない。
恐る恐るラウはディーデリックへ視線を戻すと想像とは違い、彼は花が綻ぶ様な笑みを浮かべていた。その表情に驚いたラウは、目を見開き喉の奥に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
「――それからどうした」
「そ、それから。ディーデリックが記憶にある姿よりも歳を重ねているから。もうあの日から随分と時が経ったんだって感慨深そうにしているかな」
ディーデリックに言葉の続きを促されたラウは、訳も分からず泣きたくなるのをぐっと堪え、先ほど言おうとした言葉の続きを彼に伝えた。
「そうか。私はな、エーリク。以前にお前が言っていた事を思い出していた」
どんなことを言ったのかと、ラウはディーデリックに目で問いかけた。今、これ以上言葉を発してしまうと本当に泣いてしまいそうだったから。
「外見の美しさなど所詮はまがい物だと。あの時の私はその意味がよく分からなかったが、そうだな。今ならば分かる。外見など関係ない。確かにお前の瞳の美しさはあの時のままだが、それよりも本当の美しさはここにある。どんなに姿が変わろうとも、お前がこうして私の側にいてくれさえすればそれでいい。私にとってはお前が宝玉だ」
ディーデリックはそう言うとラウの左胸に手を置いた。そこは魂があると言われている場所だ。彼のその言葉を聞いたラウは、エーリクが歓喜の涙を流しているように感じた。
ああ、いけない。涙をもう堪える事が出来ない。
ラウはエーリクの感情に引き摺られ、堪えきれなくなった涙をほろほろと零した。
どうして気付いたのだろう。ラウと私では全く違うというのに。確かに感情に任せて昔のように彼と話してしまったが、これほど容姿が違えば気のせいだと思え事など容易いだろうに。そうエーリクが言うものだから、ラウも不思議に思った。
「ねえ、ディーデリック。どうして俺がエーリクだと思うの」
正確に言えばラウがエーリクなのではなく、ラウの体のどこかにエーリクがいるこだけれど。細かい事など彼には分かるまい。
「何を言う。この美しい瞳を他に持つ者がいるか。仮にいたとしても、私の心は騙されない。あれほど色のなかった世界が、こうも鮮明に思えるのだ。お前でなければ、私がこれほど歓喜するまい。涙などとうに枯れ果てたというのに、溢れるこれはなんだ。お前がエーリクでなければなんだというのだ」
お帰り私の宝玉よ。
ディーデリックきつく抱き締められたラウは、歓喜の涙を流していた。エーリクが泣いている。嬉しくて嬉しくてまらないと。
次第にラウは泣き疲れ、徐々に瞼を下ろしていった。そして意識を失う直前に、エーリクのすまないという謝罪を確かに聞いていた。
ディーデリックはエーリクと重なるようにしてカウチに仰向けになっていた。彼は間近になったエーリクの瞳を凝視し、その美しさに嘆息を漏らした。
「はは、お前だけだな。私の顔よりも先に瞳を褒めるのは。――けれどディーデリック。まやかしの美に何の価値があるだろう」
エーリクは触れているディーデリックの手の平に頬を摺り寄せた。それは普段アブドゥルマリクがエーリクにしている仕草とそっくりで、ディーデリックはその愛らしさに笑みを浮かべた。
「お前の美しさは、まがい物ではない。本物の美だ」
「――そうでもないさ。よく覚えておくがいい、ディーデリック。外見など所詮は張りぼてだ」
本当の美はここにあると、エーリクはディーデリックの左胸に手を当て、どこか寂しそうな表情で微笑んだ。
「あ、あの」
これは一体どういう状況だろうかとラウは戸惑った。アブドゥルマリクと下らない口論を繰り広げた事までは覚えているのだが、何故見知らぬ男の腕の中にいるのだろうか。ラウの視界にチラリと真っ赤に染まった布袋が映り、それを見た彼は、ああポポタが潰れてしまった怒りから我を忘れてしまったのだなと即座に理解をした。それから実が潰れて食べられなくなったくらいで、我を忘れて怒るほど熱烈にポポタが好きな訳ではなかったはずだというのに、これもエーリクの影響なのだろうかと彼は首を傾げた。
「よくぞ私の許へ来た」
ラウを抱きしめていた男はラウの頬に両手を当て、涙を零し宝石のような紫の瞳を凝視した。
ああ、この男を知っている。彼はディーデリックだ。エーリクの記憶にある彼は十四の少年で、目の前の男よりも随分と線が細く、また背も低かったけれど。その光を反射した様が星空のように美しい黒髪。宵闇の空のような濃紺の瞳。それは紛れもなく夢で見たディーデリックのものだった。
目鼻立ちは元々整っていたけれど随分と精悍な顔立ちになった。けれど目じりに少しばかり小皺が寄っているのは歳を重ねたからだろうか。ああ、そうだ。あれから十五年の時が経ったのだ。もうディーデリックは二十九になるのだから、皺の一つや二つ刻まれていてもおかしくはない。
ラウは自分の中のエーリクが喜び、そして目の前の成長した彼の姿に感慨深い思いを抱いている事を感じた。
それにしてもなんだ。思ったよりも拍子抜けした結果だったな。あってもなんて事はなかった。特にラウが消えるだとか、そんなことはない。ただ、彼の中のエーリクの存在が強まったように感じるだけだ。けれどそれも不快ではない。収まるところに収まったと言えばいいのだろうか。
「ディーデリック。エーリクが喜んでいるよ。随分と男前になったなって。それから」
ラウは自身の中に沸き起る衝動に従ってついつい言葉を紡いでしまい、ふと我に返ったラウはしまったと言葉を途中で飲み込み慌ててディーデリックから視線を外した。ラウは自分がエーリクの生まれ変わりだと理解しているけれど、ディーデリックははそうではないのだから、絶対に彼は変に思ってしまったに違いない。
恐る恐るラウはディーデリックへ視線を戻すと想像とは違い、彼は花が綻ぶ様な笑みを浮かべていた。その表情に驚いたラウは、目を見開き喉の奥に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
「――それからどうした」
「そ、それから。ディーデリックが記憶にある姿よりも歳を重ねているから。もうあの日から随分と時が経ったんだって感慨深そうにしているかな」
ディーデリックに言葉の続きを促されたラウは、訳も分からず泣きたくなるのをぐっと堪え、先ほど言おうとした言葉の続きを彼に伝えた。
「そうか。私はな、エーリク。以前にお前が言っていた事を思い出していた」
どんなことを言ったのかと、ラウはディーデリックに目で問いかけた。今、これ以上言葉を発してしまうと本当に泣いてしまいそうだったから。
「外見の美しさなど所詮はまがい物だと。あの時の私はその意味がよく分からなかったが、そうだな。今ならば分かる。外見など関係ない。確かにお前の瞳の美しさはあの時のままだが、それよりも本当の美しさはここにある。どんなに姿が変わろうとも、お前がこうして私の側にいてくれさえすればそれでいい。私にとってはお前が宝玉だ」
ディーデリックはそう言うとラウの左胸に手を置いた。そこは魂があると言われている場所だ。彼のその言葉を聞いたラウは、エーリクが歓喜の涙を流しているように感じた。
ああ、いけない。涙をもう堪える事が出来ない。
ラウはエーリクの感情に引き摺られ、堪えきれなくなった涙をほろほろと零した。
どうして気付いたのだろう。ラウと私では全く違うというのに。確かに感情に任せて昔のように彼と話してしまったが、これほど容姿が違えば気のせいだと思え事など容易いだろうに。そうエーリクが言うものだから、ラウも不思議に思った。
「ねえ、ディーデリック。どうして俺がエーリクだと思うの」
正確に言えばラウがエーリクなのではなく、ラウの体のどこかにエーリクがいるこだけれど。細かい事など彼には分かるまい。
「何を言う。この美しい瞳を他に持つ者がいるか。仮にいたとしても、私の心は騙されない。あれほど色のなかった世界が、こうも鮮明に思えるのだ。お前でなければ、私がこれほど歓喜するまい。涙などとうに枯れ果てたというのに、溢れるこれはなんだ。お前がエーリクでなければなんだというのだ」
お帰り私の宝玉よ。
ディーデリックきつく抱き締められたラウは、歓喜の涙を流していた。エーリクが泣いている。嬉しくて嬉しくてまらないと。
次第にラウは泣き疲れ、徐々に瞼を下ろしていった。そして意識を失う直前に、エーリクのすまないという謝罪を確かに聞いていた。
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