彼の至宝

まめ

文字の大きさ
12 / 18

十二

しおりを挟む
「ねえ、エーリク。君とディーデリックと俺。皆が幸せになる方法ってあると思うんだ」

 ラウは涙が伝うエーリクのを手で拭いながら、心配をするなと言うように彼を見詰めた。
 これまでラウは悩むだけで何をするわけでもなく、ただ次々と起こる普通ではない出来事に頭がついていけず。もしかしたら自我がなくなるかもしれないという事に怯えるだけだった。
 けれどもその少ない期間でもエーリクを知り、親しく思い始めた今。彼を失うことは考えられなくなっていた。
 前世の自分と今の自分。人格は違うとはいえ、全ては自分が蒔いた種なのだから。自分のしてしまった事は、自分で責任を持たなくてはならない。責任はラウとエーリクで半分にしよう。だから犠牲も半分ずつだ。ラウは勝手にそのように結論を見出すと、不思議と心が晴れやかになるのを感じた。

「――――そんな事」

 あるのだろうか。甘えていいのだろうか。ああ、でもディーデリックと離れたくはない。いいや、でもラウに甘えていいはずがない。エーリクの心は嵐のように荒れ狂った。
 ラウの為に消えてもいいだなんて偉そうなことを言っておきながら。もしも、もしも、いざ消えてくれと言われてしまえば、怖くて怖くて仕方がなかった。もう一度、死を経験しなければならない恐怖というのは、何とも言い表し難い底なし沼のように暗く冷たいものだった。
 もう一度ディーデリックに会えたというのに、また離れなければならないというのか。こんなにも後悔するのならば、なぜ生前にしっかりと向き合わなかったのだろうか。
 しかし生前のエーリクでは、きっと誰も心から信用だなんて出来なかったに違いない。皆が皆、類稀な容姿を誉めそやし、彼の内面など気にもしなかった。それもそうだ。愛玩動物や所有物に対する愛はくれたが、誰も彼を人として愛していなかったのだから。ただ神に愛されたと形容される美貌を自分のものだけにし、そしてそれを自分だけが汚すことが出来るという優越感に浸りたいだけ。決してエーリクの事だなんて考やしない。
 ただ一人。ディーデリックだけはエーリクの事を愛してくれてはいたが、それもこの容姿でなければ愛してくれなかったのではないかと、人間不信に陥っていたエーリクは心の底から彼を信じることが出来なかった。
 顔がなんだ。目の色がなんだ。そんなものは肌をめくればただの肉でしかない。肉も削げばただの骨でしかない。それに何の価値がある。
 この顔が羨ましいか。妬ましいか。ならばなってみるがいい。実の父から欲望を向けられ、好きでもない人間から、欲望を隠しもしない気持ち悪い視線を送られる。狂ったように愛を囁かれる事もある。かと思えば嫉妬から、見ず知らずの人間にまで嫌われ蔑まれる。そのような状態で何を誰を信じることが出来ただろうか。

「出来るよ。そりゃあ全員が満足いく結果には、ならないかもしれない。それぞれが少なからず犠牲を払うことになる」

 荒れ狂うエーリクの心中を、ラウは分かっているとでもいうように頷き、彼を力強く抱きしめた。

「――でもさ、それでも。折角の奇跡が起きて、こうして二人が再び出会えたんだから。幸せにならなくちゃ意味がないと思う」

 きっとこの奇跡は必然だったんだ。エーリクがその容姿で生まれてきたことも、ディーデリックがエーリクを愛したことも。二人が前世で結ばれなかったことも。ラウが生まれてきたことも。全てが必然だった。

「――――ラウ、本当にそれで」

 いいのかと問いかけるエーリクに、ラウは黙って大きく頷いた。

「エーリクは俺に感謝しなきゃならないよね。こんな普通の顔に生まれてきてくれてありがとうってさ」

 そう茶化すラウに、エーリクは何だそれはと思わず吹き出してしまった。確かにそうなのだけれども。けれどもなんだか可笑しくて、あれだけ悲しんでいたというのに、エーリクは笑いを止めることが出来なかった。

「話し合おうって思ったけど。なんかごめん。俺もう勝手に決めちゃったから。でもさ、なんだかんだ俺もエーリクに振り回されたし、これくらいの我儘いいよね」

 エーリクから体を離したラウがそう言うと、笑っていた彼は再び悲しそうに表情を歪めた。なんだか今日のエーリクは忙しいったらないな。泣いたり笑ったり悲しんだり。
 でもそうだ。それって生きている証拠だな。そう思うとラウは自然と笑みを浮かべていた。
 ほら笑ってエーリク。俺は好きな人達には笑っていて欲しいんだ。
 そう言い残し、ラウは夢から覚めた。

「――お早う、アブドゥルマリク。俺、決めたよ」

 目が覚めるとラウのすぐ側に、ベッドで一緒になって寝そべっているアブドゥルマリクがいた。
 こないだの礼だと尻尾の凝りを揉み解し始めた彼を好きにさせながら、アブドゥルマリクは、人とはかくも面倒な生き物だと言わんばかりに溜息を洩らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

【完結済】夏だ!海だ!けど、僕の夏休みは異世界に奪われました。

キノア9g
BL
「海パンのまま異世界に召喚されたんですけど!?」 最高の夏を過ごすはずだった高校生・凛人は、海で友達と遊んでいた最中、突如異世界へと召喚されてしまう。 待っていたのは、“救世主”として期待される役割と、使命感の塊みたいな王子・ゼイドとの最悪の出会い。 「僕にあるのは、帰りたい気持ちだけ」 責任も使命も興味ない。ただ、元の世界で“普通の夏休み”を過ごしたかっただけなのに。 理不尽な展開に反発しながらも、王子とのぶつかり合いの中で少しずつ心が揺れていく。 ひねくれた自己否定系男子と理想主義王子のすれ違いから始まる、感情も魂も震える異世界BLファンタジー。 これは、本当は認められたい少年の、ひと夏の物語。 全8話。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

生贄が美味しく頂きました

SEKISUI
BL
迷子は生贄にされたが一目惚れする 最初老人と若者しか出てこないが ジジイ×青年ではない

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

悪役令嬢は見る専です

小森 輝
BL
 異世界に転生した私、「藤潮弥生」は婚約破棄された悪役令嬢でしたが、見事ざまあを果たし、そして、勇者パーティーから追放されてしまいましたが、自力で魔王を討伐しました。  その結果、私はウェラベルグ国を治める女王となり、名前を「藤潮弥生」から「ヤヨイ・ウェラベルグ」へと改名しました。  そんな私は、今、4人のイケメンと生活を共にしています。  庭師のルーデン  料理人のザック  門番のベート  そして、執事のセバス。  悪役令嬢として苦労をし、さらに、魔王を討伐して女王にまでなったんだから、これからは私の好きなようにしてもいいよね?  ただ、私がやりたいことは逆ハーレムを作り上げることではありません。  私の欲望。それは…………イケメン同士が組んず解れつし合っている薔薇の園を作り上げること!  お気に入り登録も多いし、毎日ポイントをいただいていて、ご好評なようで嬉しいです。本来なら、新しい話といきたいのですが、他のBL小説を執筆するため、新しい話を書くことはしません。その代わりに絵を描く練習ということで、第8回BL小説大賞の期間中1に表紙絵、そして挿絵の追加をしたいと思います。大賞の投票数によっては絵に力を入れたりしますので、応援のほど、よろしくお願いします。

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

沢田くんはおしゃべり

ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!! 【あらすじ】 空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。 友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。 【佐藤さん、マジ天使】(心の声) 無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす! めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨ エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!) エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848

処理中です...