1 / 7
0.プロローグ
しおりを挟む
「――ハ、ァ……いっ、た、いなあ……もう」
崖から落ちたことで地面から突き出すように折れた馬車の柱に、仰向けになった自身の身体が突き刺さっている。
心臓はドクドクと脈打ち、急速に体温が低下していることが分かる。心臓の音がうるさい。瞬時に身体が魔法での再生を試みたが、どうやら治すことは出来ないようだ。魔法で中途半端に治ったせいで、意識があるのがただただ苦しい。
どれだけの距離落ちたのだろうか、強制的に見上げさせられている空は手を伸ばしても遠く、何も掴むことの出来ない掌がただただ虚しかった。
虚しい。まるで私の人生みたいだ。結局好きだった人――婚約者であったあの人に女として見られていないどころか嫌われていることを知っている故に、何の想いを告げることも出来ずにこうして想いを殺して一人死んでいく。
『アイツは女としてあり得ない選択肢だから』
貴方は私がその言葉にどれだけ傷つき、涙を流したのかということは、きっと一生知ることがないのでしょう。
でも私も彼に対して最悪な言葉を残してしまった。
「貴方なんて大嫌い!!」
「ああ、そうか。俺もだよ!お前なんて嫌いだ!!」
これがかつての私達に亀裂を生む決定的な言葉となってしまったのだ。
ここから私達は会う度に喧嘩をし、連れ立った夜会でも厭味の応酬となってしまう最悪な仲となってしまった。
本当は大嫌いなんかじゃなかった。私はただ、貴方に『あり得ない』なんて思われていることが悲しくて、悲しくて、思わず口にしてしまっただけなのだ。それを同じ言葉で返されて――。
私は死ぬ間際になっても、この言葉を言ったことを後悔し続けている。
どこで間違えてしまったのだろうか。
あの『大嫌い』という言葉を言ってしまった事?貴方の放った『あり得ない選択肢』という言葉を聞いた時?それとも貴方と出会ってしまったことが間違いだったのだろうか。
そんなことを考えていると、痛みと失血から意識が朦朧としてくる。きっと私はもう助かる事もなく、惨めにこの場で死んで、死体も孤独に朽ち果てるのだろう。金に縁取られた公爵家の家紋が、目の端でキラキラと輝いているのが憎らしい。共に落ちた馬の苦しそうな呻き声が聞こえる。ここは地獄と化していた。
こんな場所で死ぬだなんて、本当に惨めで虚しい人生だ。
貴方と出会わなければ……婚約なんてしなければよかった。
私が最後にしたのは、やはり後悔だった。
崖から落ちたことで地面から突き出すように折れた馬車の柱に、仰向けになった自身の身体が突き刺さっている。
心臓はドクドクと脈打ち、急速に体温が低下していることが分かる。心臓の音がうるさい。瞬時に身体が魔法での再生を試みたが、どうやら治すことは出来ないようだ。魔法で中途半端に治ったせいで、意識があるのがただただ苦しい。
どれだけの距離落ちたのだろうか、強制的に見上げさせられている空は手を伸ばしても遠く、何も掴むことの出来ない掌がただただ虚しかった。
虚しい。まるで私の人生みたいだ。結局好きだった人――婚約者であったあの人に女として見られていないどころか嫌われていることを知っている故に、何の想いを告げることも出来ずにこうして想いを殺して一人死んでいく。
『アイツは女としてあり得ない選択肢だから』
貴方は私がその言葉にどれだけ傷つき、涙を流したのかということは、きっと一生知ることがないのでしょう。
でも私も彼に対して最悪な言葉を残してしまった。
「貴方なんて大嫌い!!」
「ああ、そうか。俺もだよ!お前なんて嫌いだ!!」
これがかつての私達に亀裂を生む決定的な言葉となってしまったのだ。
ここから私達は会う度に喧嘩をし、連れ立った夜会でも厭味の応酬となってしまう最悪な仲となってしまった。
本当は大嫌いなんかじゃなかった。私はただ、貴方に『あり得ない』なんて思われていることが悲しくて、悲しくて、思わず口にしてしまっただけなのだ。それを同じ言葉で返されて――。
私は死ぬ間際になっても、この言葉を言ったことを後悔し続けている。
どこで間違えてしまったのだろうか。
あの『大嫌い』という言葉を言ってしまった事?貴方の放った『あり得ない選択肢』という言葉を聞いた時?それとも貴方と出会ってしまったことが間違いだったのだろうか。
そんなことを考えていると、痛みと失血から意識が朦朧としてくる。きっと私はもう助かる事もなく、惨めにこの場で死んで、死体も孤独に朽ち果てるのだろう。金に縁取られた公爵家の家紋が、目の端でキラキラと輝いているのが憎らしい。共に落ちた馬の苦しそうな呻き声が聞こえる。ここは地獄と化していた。
こんな場所で死ぬだなんて、本当に惨めで虚しい人生だ。
貴方と出会わなければ……婚約なんてしなければよかった。
私が最後にしたのは、やはり後悔だった。
198
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない
有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。
魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。
「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。
三度裏切られたので堪忍袋の緒が切れました
蒼黒せい
恋愛
ユーニスはブチ切れていた。外で婚外子ばかり作る夫に呆れ、怒り、もうその顔も見たくないと離縁状を突き付ける。泣いてすがる夫に三行半を付け、晴れて自由の身となったユーニスは、酒場で思いっきり羽目を外した。そこに、婚約解消をして落ちこむ紫の瞳の男が。ユーニスは、その辛気臭い男に絡み、酔っぱらい、勢いのままその男と宿で一晩を明かしてしまった。
互いにそれを無かったことにして宿を出るが、ユーニスはその見知らぬ男の子どもを宿してしまう…
※なろう・カクヨムにて同名アカウントで投稿しています
【完結】オネェ伯爵令息に狙われています
ふじの
恋愛
うまくいかない。
なんでこんなにうまくいかないのだろうか。
セレスティアは考えた。
ルノアール子爵家の第一子である私、御歳21歳。
自分で言うのもなんだけど、金色の柔らかな髪に黒色のつぶらな目。結構可愛いはずなのに、残念ながら行き遅れ。
せっかく婚約にこぎつけそうな恋人を妹に奪われ、幼馴染でオネェ口調のフランにやけ酒と愚痴に付き合わせていたら、目が覚めたのは、なぜか彼の部屋。
しかも彼は昔から私を想い続けていたらしく、あれよあれよという間に…!?
うまくいかないはずの人生が、彼と一緒ならもしかして変わるのかもしれない―
【全四話完結】
愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。
石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。
七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。
しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。
実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。
愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。
【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる