犬猿の仲だったはずの婚約者が何故だか溺愛してきます【完結済み】

皇 翼

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「――ハ、ァ……いっ、た、いなあ……もう」

崖から落ちたことで地面から突き出すように折れた馬車の柱に、仰向けになった自身の身体が突き刺さっている。
心臓はドクドクと脈打ち、急速に体温が低下していることが分かる。心臓の音がうるさい。瞬時に身体が魔法での再生を試みたが、どうやら治すことは出来ないようだ。魔法で中途半端に治ったせいで、意識があるのがただただ苦しい。
どれだけの距離落ちたのだろうか、強制的に見上げさせられている空は手を伸ばしても遠く、何も掴むことの出来ない掌がただただ虚しかった。
虚しい。まるで私の人生みたいだ。結局好きだった人――婚約者であったあの人に女として見られていないどころか嫌われていることを知っている故に、何の想いを告げることも出来ずにこうして想いを殺して一人死んでいく。

『アイツは女としてあり得ない選択肢だから』

貴方は私がその言葉にどれだけ傷つき、涙を流したのかということは、きっと一生知ることがないのでしょう。

でも私も彼に対して最悪な言葉を残してしまった。

「貴方なんて大嫌い!!」
「ああ、そうか。俺もだよ!お前なんて嫌いだ!!」

これがかつての私達に亀裂を生む決定的な言葉となってしまったのだ。
ここから私達は会う度に喧嘩をし、連れ立った夜会でも厭味の応酬となってしまう最悪な仲となってしまった。
本当は大嫌いなんかじゃなかった。私はただ、貴方に『あり得ない』なんて思われていることが悲しくて、悲しくて、思わず口にしてしまっただけなのだ。それを同じ言葉で返されて――。
私は死ぬ間際になっても、この言葉を言ったことを後悔し続けている。

どこで間違えてしまったのだろうか。
あの『大嫌い』という言葉を言ってしまった事?貴方の放った『あり得ない選択肢』という言葉を聞いた時?それとも貴方と出会ってしまったことが間違いだったのだろうか。
そんなことを考えていると、痛みと失血から意識が朦朧としてくる。きっと私はもう助かる事もなく、惨めにこの場で死んで、死体も孤独に朽ち果てるのだろう。金に縁取られた公爵家の家紋が、目の端でキラキラと輝いているのが憎らしい。共に落ちた馬の苦しそうな呻き声が聞こえる。ここは地獄と化していた。

こんな場所で死ぬだなんて、本当に惨めで虚しい人生だ。

貴方と出会わなければ……婚約なんてしなければよかった。
私が最後にしたのは、やはり後悔だった。
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