4 / 49
第4話
しおりを挟む
「はぁ……」
酒場を出てから数時間。
僕は広場のベンチに座ってずっと通りを過ぎる人たちの姿を眺めていた。
結界越しに覗ける空は、いつの間にかオレンジに染まり始めている。
いつもなら、ノエルの顔を見たくてすぐにアパートへ帰るところだけど、今日はどうしても合わせる顔がなくて帰れずにいた。
「これからどうしよう……」
ダンジョンの攻略が終わったらアイテムはすべてセシリアに渡していたから、僕の持ち物といえば、首にぶら下げたビーナスのしずくくらいだ。
このビーナスのしずくっていうのは、冒険者育成学校を卒業すると貰える記念品みたいな物で、しずくが入ったエンドパーツの部分に触れると、水晶ディスプレイが目の前に立ち上がる仕組みになっている。
水晶ディスプレイは、自分のステータスを確認する以外にも、魔法やスキルを習得するのに使ったりする。
まあ僕にとっては、ステータスを確認する以外に使い道はないけど。
-----------------
[ナード]
LP1
HP26/50
MP1/1
攻1
防1(+5)
魔攻1
魔防1
素早さ1
幸運1
-----------------
改めてそこに表示されたステータスを見て絶望する。
もう一度大きなため息が漏れた。
「なんでこんなひどいステータスなんだよ。こんなのあんまりだ……」
本当にごく稀に、LP1のステータスを授与される人がいるって授業で習ったことがある。
そういう人は悪魔の子って呼ばれて、周りから忌み嫌われるようになる。
理由は単純だ。LP1だと、冒険者として何もできないから。
魔法やスキルを覚えることはおろか、ソロで入れるダンジョンもE級に限られてしまう。
LPとはライフポイントのことで、人族と魔族に課せられた生命の源って言われている。
HPが0になっても蘇生魔法で蘇ることは可能だけど、LPが0になった場合、蘇生することはできない。
人の場合、生まれながらにしてLP1を持った状態で生まれてくるんだけど、15歳になって成人の儀式を迎えると、エデンの神様からステータスを授与されて、新たなLPが追加される。
僕の場合はまったく増えなかったわけだけど、平均してLPは100くらいが与えられるもの。この値に冒険者を目指す者たちは一喜一憂するんだ。
なぜなら、このLPは1ヶ月に1ポイントずつ減っていくから。
増えることは絶対にあり得ない。
歳を重ねるごとにLPは減っていくもの。それがこの世界の掟だ。
だから、成人の儀式で授与されるLPの値にみんな躍起になっていたりする。
何もせずにLPをそのまま放置しておくと、20代の前半頃にはほとんどの人がLP1になっている。
でも、それ以上は寿命を迎えるまで下がることはない。
人がLP0になる状態っていうのは、寿命を迎えるか、肉体を粉々に破損されて再生不可能な状態となるかのどちらかだ。
このLPは、魔法やスキルを習得するのに使えて、ステータスの数値を上昇させることも可能だったりする。
だから、LPをそのまま放置しておくなんて、そんな勿体ないことはみんなしない。
どうせ減るものなのだから、その前にある程度使おうって思うのが普通だよね。
成人の儀式を終えた冒険者は、すぐに魔法やスキルを習得して、ダンジョンに入って魔光石を採取し、それを換金してお金を稼ぐ。
若いうちにどれだけ財産を築くことができるか、それによって今後の人生が決まると言ってもいいかもしれない。
なぜかというと、LPの値によって入れるダンジョンが制限されてしまうからだ。
LP1の場合、ソロで入れるダンジョンはE級のみって決められてしまっている。
ちなみに、習得できる魔法は、火・雷・風・水の四属性を司る【属性魔法】と、回復魔法や付与魔法が使える【無属性魔法】の2種類が存在する。
一方、スキルは【攻撃系スキル】と【補助系スキル】の2種類に分かれる。
【攻撃系スキル】は、<体術><片手剣術><両手剣術><槍術><爪術><斧術><弓術>の7種類に分類されて、武器を使用するには、まずはじめにこれらの基本スキルを習得する必要がある。
【補助系スキル】は、魔獣の防御力や魔法防御力を下げたりするいわゆるデバフ系のスキルや、そのほかにも《分析》や《投紋》などのスキルも存在する。
ユニークスキルだけは特別で、LPを使っても手に入らなかったりする。
成人の儀式で1人1つだけ受け取れる決まりになっていて、これはその人だけが所持できるスキルだから他の者が習得することはできない。
ただ、成人の儀式当日、お互いがお互いのユニークスキルの交換を望む場合は、大司祭様に頼んで一度だけ交換してもらうことは可能みたい。
けど、その費用は数千万アローするって言われていて、滅多なことがない限り行う人はいないみたいだけど。
僕も<アイテムプール>なんてハズレスキル、できれば交換したかった。
でも、そんな高額な費用とてもじゃないけど払えないし、そもそも僕のユニークスキルと交換したがる人なんていないだろうし……。
それほど僕のユニークスキルはハズレもいいところだった。
「……はぁ。<アイテムプール>か……」
なんでこんなハズレスキルを授与されちゃったんだろう。
こんなもの、魔法ポーチと全然性能は変わらないよ……。
そう心の中で愚痴りながら、ほとんど無意識のうちに水晶ディスプレイを下へスクロールさせていた。
「……ん?」
その時、水晶ディスプレイに見たことのないアナウンス画面が表示されていることに気付く。
『【鉄血の戦姫】を抜けました。<バフトリガー>がONのままです。OFFにしてよろしいですか(Y/N)?』
「<バフトリガー>?」
初めて見るその文字に僕は首をかしげる。まったく初めて見るスキルの名前だった。
え……てか、ちょっと待って……! なにこれ!?
ユニークスキルの項目に表示されている内容に、僕は目を見開く。
-----------------
ユニークスキル:
<アイテムプール>
<バフトリガー【ON】>
属性魔法:
無属性魔法:
攻撃系スキル:
補助系スキル:
武器:
防具:毛皮の服
アイテム:
貴重品:ビーナスのしずく×1
所持金:9,900アロー
所属パーティー:無所属
討伐数:
状態:
-----------------
「ユニークスキルが……増えてる!?」
これまでユニークスキルは<アイテムプール>の1つだけだった。
それが2つになってる……?
いやいやいや、こんなのっておかしいでしょ!
ユニークスキルは、1人1つしか所持できないっていう絶対的な決まりがある。
2つ持つことができるなんて話は聞いたことがない……!
僕は、おそるおそる<バフトリガー>の項目をタップしてみた。
すると、その性能が表示される。
-----------------
◆バフトリガー
・タイクーンのステータスを上昇させる
・【状態】をランダムに上昇させる(1日/1回)
-----------------
「【状態】をランダムに上昇させる?」
気になるのは下段に表示された内容だ。
その言葉を見て、思い浮かぶことが1つあった。
ダンジョンに入る際、よくセシリアが口にしていたんだ。今日も【状態】が変わっている、って。
それをセシリアは<豪傑>の性能だって考えていたみたいだけど……。もしかして違った?
(このユニークスキルが影響を与えていたのかな?)
ただ、その効果は微々たるものだったはず。
セシリアのステータスを直接見たことはないけど、ほとんどは<豪傑>の性能だったに違いない。
だって、<豪傑>は超がつくほどのレアスキルって言われているから。
補足すると、このタイクーンっていうのは、パーティーのリーダーのことを指す。
基本的に、換金した報酬の6割と初回クリア報酬はタイクーンが持っていき、余りを残りのメンバーで分け合うというのが冒険者の掟だ。
だから、パーティーメンバーは少ない方がその取り分は大きくなったりする。
それで、これほどまでにタイクーンが優遇されるのには理由がある。
入れるダンジョンは、タイクーンのLP値によって左右されるからだ。
ダンジョンに入れるLP値は、冒険者ギルドによって以下のように決められている。
-----------------
・A級ダンジョン(世界に24箇所)=LP200以上
・B級ダンジョン(世界に240箇所)=LP50以上
・C級ダンジョン(世界に400箇所)=LP10以上
・D級ダンジョン(世界に800箇所)=LP5以上
・E級ダンジョン(世界に2,400箇所)=LP1以上
-----------------
世界にはこの他にも、S級ダンジョン、SS級ダンジョンと最上級のダンジョンが存在するみたいだけど、その詳細は謎に包まれている。
というのも、シルワ王国が管理下に置くダンジョンはA級までしかなくて、国を出て他の土地のダンジョンに挑むには、一流冒険者の証が必要で、これを手に入れるのは容易じゃないからだ。
シルワでは、ここ20年くらい一流冒険者の証を手に入れた者は現れていない。
ダンジョンはすべてタイクーンのLP値によって入れるか決まるから、LP値の高いタイクーンは自然と人気になり、組みたがる冒険者は後を絶たない。
20代以降になると、LP1でほとんど固定されちゃうから、高レベルのダンジョンに挑むとなると、必然的にこうなってしまう。
成人になりたての若い冒険者がタイクーンで、ベテランのおっさんが下っ端としてパーティーに加わるなんてことはよくある光景だったりする。
ちなみに、LP1となってしまった冒険者が辿る道は3通りだって言われている。
-----------------
①LP値の高いタイクーンとパーティーを組んで、高レベルのダンジョンに挑んで大金を稼ぐ
②ソロでE級ダンジョンを周回して小銭を稼ぐ
③冒険者は諦めて、他の仕事に就いてお金を稼ぐ
-----------------
僕の場合、最初からずっとLP1なわけで、事情が少し異なるけど。
これは、魔法やスキルをいくつか習得してきた人が前提なわけで。
「……けど。僕、ユニークスキルをもう1つ持ってたんだ」
なんで2つ所持しているのかはさっぱり分からないけど、この際理由なんてなんでもいい。
魔法やスキルを1つも習得していない僕にとって、これはとんでもなく嬉しいことだった。
今は使い道がなくても、そのうち必要となる日が来るかもしれない。
「あ……。もしかして、隠れスキルってやつだったのかな?」
ユニークスキルは、成人の儀式で大司祭様がその名前を口に出すことで、ステータスに反映されるって言われている。
大司祭様がユニークスキルの宣言を忘れて、後で該当者が自分のユニークスキルに気付く(通称隠れスキル)ことも以前には何度かあったみたいだ。
1日であれだけの数の生徒に宣言を出していたわけだし、1つくらい言い漏らしがあったとしてもおかしなことじゃない。
(特に僕の場合は、2つあったわけだし……。見逃しちゃったのかな)
とにかく、<アイテムプール>以外のユニークスキルを所持していた事実は大きな収穫だ。
「ひとまず、今は必要のないものだからOFFにしておこう」
アナウンス画面に戻り、(Y)を選択して<バフトリガー>をOFFにする。
すると、ちょうどそんなタイミングで
「――あれ? キミ。もしかして、ナード君かい?」
「えっ」
大きな紙袋を抱えた30代くらいの女性に声をかけられる。
彼女は、丸ぶちメガネのフレームを少し持ち上げながら顔を近付けてきた。
「あぁ。この水色の髪はやっぱりナード君だ」
「メリアドール先生っ……!?」
とっさにビーナスのしずくから手を離すと、思わずその場から立ち上がる。
「こ、こんなところで奇遇ですねっ! お買い物ですかっ?」
「夕食の食材を買いに市場までね。ナード君こそ、こんな広場のベンチに座ってどうした? なんとなく傷心しているように見えたけど」
「い、いえっ! そんなことはないですよ?」
これといって先生に対してやましさはなかったけど、今日パーティーを追放されたっていう後ろめたさからつい早口となってしまう。
「そうかい?」
メリアドール先生は、紫色のポニーテールを払いのけながら、ちょっとだけ不思議に思っている感じだ。
この美人の女性は、僕が通っていた学校の担任だったお方。
僕も先生には色々とお世話になった。
定期的にノエルの見舞いに来てくれたのは、メリアドール先生だけだったから。
「それと聞いてるぞ、ナード君。セシリア君と組んでいるパーティーの戦績も上々なようじゃないか。私は心配してたんだよ。ナード君が、その……あまりいいステータスを受け取れなくて。冒険者として嫌になっちゃってないかってね。でも、セシリア君がそばにいてくれてよかった。ダコタ君とも、仲直りして上手くやってるんだろう?」
「……」
「ナード君?」
「え? あ、はは……。そうですね」
先生の嬉しそうな顔を見ていると、どうしても本当のことが言い出せなかった。
「それじゃ、僕はこれで……」
「うむ。またそのうちお邪魔させてもらうよ。久しぶりにノエル君の顔も見たいからね」
「は、はい」
「今後のナード君の活躍、楽しみにしてるよ」
手を振る先生に見送られながら、僕は足早に広場を後にした。
酒場を出てから数時間。
僕は広場のベンチに座ってずっと通りを過ぎる人たちの姿を眺めていた。
結界越しに覗ける空は、いつの間にかオレンジに染まり始めている。
いつもなら、ノエルの顔を見たくてすぐにアパートへ帰るところだけど、今日はどうしても合わせる顔がなくて帰れずにいた。
「これからどうしよう……」
ダンジョンの攻略が終わったらアイテムはすべてセシリアに渡していたから、僕の持ち物といえば、首にぶら下げたビーナスのしずくくらいだ。
このビーナスのしずくっていうのは、冒険者育成学校を卒業すると貰える記念品みたいな物で、しずくが入ったエンドパーツの部分に触れると、水晶ディスプレイが目の前に立ち上がる仕組みになっている。
水晶ディスプレイは、自分のステータスを確認する以外にも、魔法やスキルを習得するのに使ったりする。
まあ僕にとっては、ステータスを確認する以外に使い道はないけど。
-----------------
[ナード]
LP1
HP26/50
MP1/1
攻1
防1(+5)
魔攻1
魔防1
素早さ1
幸運1
-----------------
改めてそこに表示されたステータスを見て絶望する。
もう一度大きなため息が漏れた。
「なんでこんなひどいステータスなんだよ。こんなのあんまりだ……」
本当にごく稀に、LP1のステータスを授与される人がいるって授業で習ったことがある。
そういう人は悪魔の子って呼ばれて、周りから忌み嫌われるようになる。
理由は単純だ。LP1だと、冒険者として何もできないから。
魔法やスキルを覚えることはおろか、ソロで入れるダンジョンもE級に限られてしまう。
LPとはライフポイントのことで、人族と魔族に課せられた生命の源って言われている。
HPが0になっても蘇生魔法で蘇ることは可能だけど、LPが0になった場合、蘇生することはできない。
人の場合、生まれながらにしてLP1を持った状態で生まれてくるんだけど、15歳になって成人の儀式を迎えると、エデンの神様からステータスを授与されて、新たなLPが追加される。
僕の場合はまったく増えなかったわけだけど、平均してLPは100くらいが与えられるもの。この値に冒険者を目指す者たちは一喜一憂するんだ。
なぜなら、このLPは1ヶ月に1ポイントずつ減っていくから。
増えることは絶対にあり得ない。
歳を重ねるごとにLPは減っていくもの。それがこの世界の掟だ。
だから、成人の儀式で授与されるLPの値にみんな躍起になっていたりする。
何もせずにLPをそのまま放置しておくと、20代の前半頃にはほとんどの人がLP1になっている。
でも、それ以上は寿命を迎えるまで下がることはない。
人がLP0になる状態っていうのは、寿命を迎えるか、肉体を粉々に破損されて再生不可能な状態となるかのどちらかだ。
このLPは、魔法やスキルを習得するのに使えて、ステータスの数値を上昇させることも可能だったりする。
だから、LPをそのまま放置しておくなんて、そんな勿体ないことはみんなしない。
どうせ減るものなのだから、その前にある程度使おうって思うのが普通だよね。
成人の儀式を終えた冒険者は、すぐに魔法やスキルを習得して、ダンジョンに入って魔光石を採取し、それを換金してお金を稼ぐ。
若いうちにどれだけ財産を築くことができるか、それによって今後の人生が決まると言ってもいいかもしれない。
なぜかというと、LPの値によって入れるダンジョンが制限されてしまうからだ。
LP1の場合、ソロで入れるダンジョンはE級のみって決められてしまっている。
ちなみに、習得できる魔法は、火・雷・風・水の四属性を司る【属性魔法】と、回復魔法や付与魔法が使える【無属性魔法】の2種類が存在する。
一方、スキルは【攻撃系スキル】と【補助系スキル】の2種類に分かれる。
【攻撃系スキル】は、<体術><片手剣術><両手剣術><槍術><爪術><斧術><弓術>の7種類に分類されて、武器を使用するには、まずはじめにこれらの基本スキルを習得する必要がある。
【補助系スキル】は、魔獣の防御力や魔法防御力を下げたりするいわゆるデバフ系のスキルや、そのほかにも《分析》や《投紋》などのスキルも存在する。
ユニークスキルだけは特別で、LPを使っても手に入らなかったりする。
成人の儀式で1人1つだけ受け取れる決まりになっていて、これはその人だけが所持できるスキルだから他の者が習得することはできない。
ただ、成人の儀式当日、お互いがお互いのユニークスキルの交換を望む場合は、大司祭様に頼んで一度だけ交換してもらうことは可能みたい。
けど、その費用は数千万アローするって言われていて、滅多なことがない限り行う人はいないみたいだけど。
僕も<アイテムプール>なんてハズレスキル、できれば交換したかった。
でも、そんな高額な費用とてもじゃないけど払えないし、そもそも僕のユニークスキルと交換したがる人なんていないだろうし……。
それほど僕のユニークスキルはハズレもいいところだった。
「……はぁ。<アイテムプール>か……」
なんでこんなハズレスキルを授与されちゃったんだろう。
こんなもの、魔法ポーチと全然性能は変わらないよ……。
そう心の中で愚痴りながら、ほとんど無意識のうちに水晶ディスプレイを下へスクロールさせていた。
「……ん?」
その時、水晶ディスプレイに見たことのないアナウンス画面が表示されていることに気付く。
『【鉄血の戦姫】を抜けました。<バフトリガー>がONのままです。OFFにしてよろしいですか(Y/N)?』
「<バフトリガー>?」
初めて見るその文字に僕は首をかしげる。まったく初めて見るスキルの名前だった。
え……てか、ちょっと待って……! なにこれ!?
ユニークスキルの項目に表示されている内容に、僕は目を見開く。
-----------------
ユニークスキル:
<アイテムプール>
<バフトリガー【ON】>
属性魔法:
無属性魔法:
攻撃系スキル:
補助系スキル:
武器:
防具:毛皮の服
アイテム:
貴重品:ビーナスのしずく×1
所持金:9,900アロー
所属パーティー:無所属
討伐数:
状態:
-----------------
「ユニークスキルが……増えてる!?」
これまでユニークスキルは<アイテムプール>の1つだけだった。
それが2つになってる……?
いやいやいや、こんなのっておかしいでしょ!
ユニークスキルは、1人1つしか所持できないっていう絶対的な決まりがある。
2つ持つことができるなんて話は聞いたことがない……!
僕は、おそるおそる<バフトリガー>の項目をタップしてみた。
すると、その性能が表示される。
-----------------
◆バフトリガー
・タイクーンのステータスを上昇させる
・【状態】をランダムに上昇させる(1日/1回)
-----------------
「【状態】をランダムに上昇させる?」
気になるのは下段に表示された内容だ。
その言葉を見て、思い浮かぶことが1つあった。
ダンジョンに入る際、よくセシリアが口にしていたんだ。今日も【状態】が変わっている、って。
それをセシリアは<豪傑>の性能だって考えていたみたいだけど……。もしかして違った?
(このユニークスキルが影響を与えていたのかな?)
ただ、その効果は微々たるものだったはず。
セシリアのステータスを直接見たことはないけど、ほとんどは<豪傑>の性能だったに違いない。
だって、<豪傑>は超がつくほどのレアスキルって言われているから。
補足すると、このタイクーンっていうのは、パーティーのリーダーのことを指す。
基本的に、換金した報酬の6割と初回クリア報酬はタイクーンが持っていき、余りを残りのメンバーで分け合うというのが冒険者の掟だ。
だから、パーティーメンバーは少ない方がその取り分は大きくなったりする。
それで、これほどまでにタイクーンが優遇されるのには理由がある。
入れるダンジョンは、タイクーンのLP値によって左右されるからだ。
ダンジョンに入れるLP値は、冒険者ギルドによって以下のように決められている。
-----------------
・A級ダンジョン(世界に24箇所)=LP200以上
・B級ダンジョン(世界に240箇所)=LP50以上
・C級ダンジョン(世界に400箇所)=LP10以上
・D級ダンジョン(世界に800箇所)=LP5以上
・E級ダンジョン(世界に2,400箇所)=LP1以上
-----------------
世界にはこの他にも、S級ダンジョン、SS級ダンジョンと最上級のダンジョンが存在するみたいだけど、その詳細は謎に包まれている。
というのも、シルワ王国が管理下に置くダンジョンはA級までしかなくて、国を出て他の土地のダンジョンに挑むには、一流冒険者の証が必要で、これを手に入れるのは容易じゃないからだ。
シルワでは、ここ20年くらい一流冒険者の証を手に入れた者は現れていない。
ダンジョンはすべてタイクーンのLP値によって入れるか決まるから、LP値の高いタイクーンは自然と人気になり、組みたがる冒険者は後を絶たない。
20代以降になると、LP1でほとんど固定されちゃうから、高レベルのダンジョンに挑むとなると、必然的にこうなってしまう。
成人になりたての若い冒険者がタイクーンで、ベテランのおっさんが下っ端としてパーティーに加わるなんてことはよくある光景だったりする。
ちなみに、LP1となってしまった冒険者が辿る道は3通りだって言われている。
-----------------
①LP値の高いタイクーンとパーティーを組んで、高レベルのダンジョンに挑んで大金を稼ぐ
②ソロでE級ダンジョンを周回して小銭を稼ぐ
③冒険者は諦めて、他の仕事に就いてお金を稼ぐ
-----------------
僕の場合、最初からずっとLP1なわけで、事情が少し異なるけど。
これは、魔法やスキルをいくつか習得してきた人が前提なわけで。
「……けど。僕、ユニークスキルをもう1つ持ってたんだ」
なんで2つ所持しているのかはさっぱり分からないけど、この際理由なんてなんでもいい。
魔法やスキルを1つも習得していない僕にとって、これはとんでもなく嬉しいことだった。
今は使い道がなくても、そのうち必要となる日が来るかもしれない。
「あ……。もしかして、隠れスキルってやつだったのかな?」
ユニークスキルは、成人の儀式で大司祭様がその名前を口に出すことで、ステータスに反映されるって言われている。
大司祭様がユニークスキルの宣言を忘れて、後で該当者が自分のユニークスキルに気付く(通称隠れスキル)ことも以前には何度かあったみたいだ。
1日であれだけの数の生徒に宣言を出していたわけだし、1つくらい言い漏らしがあったとしてもおかしなことじゃない。
(特に僕の場合は、2つあったわけだし……。見逃しちゃったのかな)
とにかく、<アイテムプール>以外のユニークスキルを所持していた事実は大きな収穫だ。
「ひとまず、今は必要のないものだからOFFにしておこう」
アナウンス画面に戻り、(Y)を選択して<バフトリガー>をOFFにする。
すると、ちょうどそんなタイミングで
「――あれ? キミ。もしかして、ナード君かい?」
「えっ」
大きな紙袋を抱えた30代くらいの女性に声をかけられる。
彼女は、丸ぶちメガネのフレームを少し持ち上げながら顔を近付けてきた。
「あぁ。この水色の髪はやっぱりナード君だ」
「メリアドール先生っ……!?」
とっさにビーナスのしずくから手を離すと、思わずその場から立ち上がる。
「こ、こんなところで奇遇ですねっ! お買い物ですかっ?」
「夕食の食材を買いに市場までね。ナード君こそ、こんな広場のベンチに座ってどうした? なんとなく傷心しているように見えたけど」
「い、いえっ! そんなことはないですよ?」
これといって先生に対してやましさはなかったけど、今日パーティーを追放されたっていう後ろめたさからつい早口となってしまう。
「そうかい?」
メリアドール先生は、紫色のポニーテールを払いのけながら、ちょっとだけ不思議に思っている感じだ。
この美人の女性は、僕が通っていた学校の担任だったお方。
僕も先生には色々とお世話になった。
定期的にノエルの見舞いに来てくれたのは、メリアドール先生だけだったから。
「それと聞いてるぞ、ナード君。セシリア君と組んでいるパーティーの戦績も上々なようじゃないか。私は心配してたんだよ。ナード君が、その……あまりいいステータスを受け取れなくて。冒険者として嫌になっちゃってないかってね。でも、セシリア君がそばにいてくれてよかった。ダコタ君とも、仲直りして上手くやってるんだろう?」
「……」
「ナード君?」
「え? あ、はは……。そうですね」
先生の嬉しそうな顔を見ていると、どうしても本当のことが言い出せなかった。
「それじゃ、僕はこれで……」
「うむ。またそのうちお邪魔させてもらうよ。久しぶりにノエル君の顔も見たいからね」
「は、はい」
「今後のナード君の活躍、楽しみにしてるよ」
手を振る先生に見送られながら、僕は足早に広場を後にした。
141
あなたにおすすめの小説
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~
名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」
「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」
「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」
「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」
「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」
「くっ……」
問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。
彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。
さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。
「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」
「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」
「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」
拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。
これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?
名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」
「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」
「それは貴様が無能だからだ!」
「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」
「黙れ、とっととここから消えるがいい!」
それは突然の出来事だった。
SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。
そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。
「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」
「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」
「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」
ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。
その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。
「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる