迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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6章

第5話

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「その言葉、そっくりそのまま貴女にお返ししましょう」

「な、なんだって……?」

「私も同じ貴族として……実に恥ずかしい! アーシャ嬢は、父上の本当の姿を知らないのかね? ゴンザーガ伯爵は、連日連夜、裏社交界で高級娼婦を漁っているのだよ!」

「!?」

「一時期、私もゴンザーガ伯爵とは親しくさせてもらっていたのだがね。そのことを恥ずかしげもなくペラペラと、まるで武勇伝のように自慢するから、私は距離を置いたのだ」

「と……父様が、んなことするわけねーだろが……ッ!」

「おやァ? しらばっくれるのかね? マスクスでは有名な話なんだろう? 伯爵夫人にはバレて大変なのだと、彼は反省する様子もなく口にしていたと記憶しているが?」

「……くっ」

「家族間では、いろいろと揉めごとがあったようじゃないか。娘の君がこのことを知らないはずがあるまい! 女王陛下ッ! この者こそ、父親同様に平気で嘘をつきます! 戯言を言っているのがどちらか、簡単に見抜けるのではないでしょうか?」

「ふむ……」

 アーシャがそれっきり何も言わなくなったのをいいことに、ウガンはまるで水を得た魚のようにさらに口汚く罵る。

「大体、このような連中は、褒美を目当てにルイスにたかっている寄生虫のようなものです。見てください。あの者はたしかに、格式高い装いをしておりますが、シスターの服を着ています。きっと、南方教会の回し者でしょう。あの者たちは、王国の足を引っ張ることしか考えていないような連中です。即刻、この場から追い出すのが賢明なご判断かと」

「ち、違います……! わたしは今、南方教会とは何の関係も……」 

 そうモニカが反論するも、ウガンは構わずに罵り続ける。

「それと、そこのみすぼらしいエルフは、絵に描いたような害虫です。高価な服で誤魔化されてはなりません。奴隷身分に戻すのが相応でしょう。というより、このように高貴な場所へ足を踏み入れさせてはいけませんぞ。陛下に代わって、私がこの娘を追い出して差し上げましょう……!」

 ウガンはそのままベルに近付くと、彼女の細い腕を強引に掴み取る。

「っ、い、いやぁ……!」

 その光景を見た瞬間――。

(!!)

 ゼノの中で、何かが弾け飛んだ。



 バゴオォォーーンッ!!

 気付けば、ゼノはウガンの顔面を力の限り殴りつけていた。

「ぶっぉおお゛おッ~~~~~~!?」 

 ゼノが拳を思いっきり振り抜くと、ウガンの体は激しく吹き飛んだ。

「お……お兄ちゃん……!?」 

 ドスン!

 そして、床に倒れたウガンを見下ろしながら口にする。

「俺の大切な仲間に……それ以上、何か言ったら許さないです」

 そこには、幼い頃からずっと父親の呪いに苦しめられ続けてきた男の姿はなかった。

「……う゛ぐぉぉっ……ッ……ル、ルイスゥゥッ…………!!」

 ゼノは振り返ると、3人の少女たちに頭を下げた。

「ごめん、みんな……。ずっと何も言えなくて」

「ゼノ様っ!! 本当に大丈夫ですか!?」

「ああ、もう平気だ。やっと目が覚めたよ」

 ゼノは、笑顔でそう口にした。

「それとベル。怖い思いをさせてすまなかったね」

「お兄ちゃん……っ!」
 
 がばっと、ベルがゼノに抱きつく。 
 そのままゼノは、アーシャにも優しく声をかけた。

「アーシャ。俺を庇ってくれてありがとう」

「ッ」

「それと、俺はマスクスの町が大好きだ。だから、そんな町を平和に治めてくれているゴンザーガ伯爵に、俺は心から感謝してる」

「……っ、ゼノ……」

「事実がどうであっても、アーシャとゴンザーガ伯爵の関係が変わるわけじゃないって、俺はそう信じているから」

「……ああ……。そう、だよな……」

 そこまで口にすると、ゼノはギュスターヴにまっすぐに目を向けながら、ウガンを指さしてはっきりと宣言した。

「女王陛下。俺は……この人のことを知りません」

「……ほう」

「俺の名前は、ゼノ・ウィンザーです。ルイスという名前でもないし、ハワード家なんてものも知りません。俺の家族は……」 

 ゼノは、モニカとアーシャとベルの方を見ながら続けた。

「ここにいる3人です」

「つまり……。そなたは、ルイス・ハワードではないのだな?」

「はい」

 そうしてゼノがしっかりと頷くと、ウガンは顔を押さえながら立ち上がった。

「ふ、ふ……ふざけるなぁぁルイスゥゥッ……!! 貴様は、私が育てたではないか……ッ!!」

 ウガンは、そのままゼノに掴みかかろうとする。
 
 が。

 その手をゼノは軽く振り払った。

「俺は、あなたのことなんて知りません。悪いですけど、もう俺たちに絡まないでください」

「……き、貴様ッ……! 育ての親に向かって、なんだその口の聞き方はッ!!」

「俺の育ての親は……エメラルド・ウィンザー、お師匠様ただ1人だけです」

「誰だァ、そいつはぁぁッ!! 親はこの私だろうがァァーーーッ!!」

 2人のやり取りを見て、傍で控えている侍従たちもさすがにざわざわとし始める。

 一体どちらが本当のことを言っているのか、と。
 玉座の間は、混乱に包まれつつあった。



 そんな中。
 ギュスターヴの鋭い一言が大広間に降りる。

「……ゼノよ、改めて問うぞ。本当にこの者を、そなたは知らないと申すか?」

「はい。会ったこともありません」

「う……嘘です……ッ!! 陛下、こいつは嘘をついていますッ!!」

「ふむ。お互いが別々のことを主張している、と。この場合は……」

 そこで、ギュスターヴは美貌を潜ませ、スッと目を据わらせる。
 それは、これまで覗かせてきた友好的な一面が切り替わる瞬間でもあった。

「余の信頼できる方を選び、独断ですべてを決めることとする」

「ま、待ってください、陛下ッ……! 本当に、こいつは私の息子なんですッ!」 

 そうウガンが主張を続けるも、ギュスターヴは聞く耳を持たない。
 
 そして。
 改めてゼノに目を向けると、今度はこんな風に訊ねる。

「ならば、ゼノよ。ハワード卿がどうなろうとも、構わないということか?」

「……」

 それに対して、暫しの間を置いた後、ゼノはこくんと小さく頷いた。

「ルイスッ!?」

「そうか、分かった」

 ギュスターヴはウガンに向き直ると、高々と手を挙げてこう宣告した。

「気が変わったぞ、ハワード卿! 先程の話は取りやめだ」

「えぇぇッ……」

「嘘をついているのは、そなただ。よって、この場でそなたの爵位を剥奪することにする」

「剥奪っ!? ち……ちょっと待ってくださいッ……陛下ッ!!」

「以前にも一度話したな? ドミナリアの領民からは、そなたの悪政を指摘する声が数多く届いている。これもちょうど良い機会だ。余は代わりに……ゼノに伯爵の爵位を与えることにしたい」

「そ、そんな……こいつの言うことを、本気で信じているのですか!? 長年、王国へ忠義を尽くしてきたこの私を……陛下はお見捨てになるのですかぁ!!?」

「数々の偉大な戦果を挙げたゼノと、そなたとを天秤にかけ、それでそなたに傾くわけがなかろう?」

「っ!?」

 ギュスターヴは脚を組み替えると、冷ややかにこう言い放つ。

「ここは、余が治める国だ。余がすべてを決める。余が爵位を剥奪すると言ったのだ。ならば、大人しくそれに従え」

「ヒッ!?」

 女王が指を鳴らすと、侍従の者たちが彼女の足元へとやって来る。

「この者とその息子アーロンを、我が王国から追放せよ」

「ぐっ……! おのれぇぇぇーーーールイスゥゥゥ~~~~~ッ!!!」 

 ウガンは涙目のまま、侍従たちに引きずられる形で、玉座の間から追い出されるのだった。



 ◆



 ウガンが連れて行かれてしばらくすると、ギュスターヴはゼノたち4人に顔を向けた。

「すまなかったな。途中で無用な横やりが入った」

「いえ。ありがとうございます、その……俺のことを信じてくださって」

「なに。そもそもあの者のことなど、余はまったく信用しておらん。所詮、口先だけの男だ。わざと泳がせて、ぼろが出るのを待っておったのだ。そなたが本当のことを言ってくれて、手間が省けたというもの」

「いえ……」

 ゼノは、ウガンが追い出された入口の方へ一度目を向けて密かに思う。

(……もし、一歩間違っていたら、俺がああなっていたところだったんだ) 

 黄金の椅子に腰をかける女王を見上げて、ゼノは思う。
 この方の前ではもう嘘は通用しない、と。
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