機姫想杼織相愛 ~機織り姫は、想いを杼に、相愛を織る~

若松だんご

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巻の二、陰陽の乙女、瑠璃妃になりました?

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 ――陰陽の乙女。

 皇族は、その血筋により、代々五行の術が操れる。
 得意な行はそれぞれ違うが、皇帝の座に就く者は、五行全ての術を扱えなくてはならない。
 沈んだ太陽を呼び戻す、夏を冬に変えるなどの余の摂理に反することは無理だが、川の氾濫を止める、干魃地に雨を降らせるぐらいの術は操れる。
 ただし、それらの術を操るには、自身に宿る力だけでは足りないので、補う存在として、陰陽の乙女が必要となる。
 男性の持つ〝陽の気〟と、乙女の持つ〝陰の気〟を混ぜ合わせることで均衡が保たれ、皇族の持つ力が増大する。
 ゆえに、国を治める皇帝になる者は、自身の乙女を得なくてはならない。――んだそうだけど。

 「まさか、あのようにして、我が乙女に出会うことができようとは」

 ニッコニコの皇太子、如飛ルーフェイが説明してくれた。
 彼は、自身の乙女を探して、ああして城下にお忍びで出歩いてたんだってさ。
 そこにいる女が自身の乙女かどうか。それは、匂いでわかるんだそうで。
 そして、自身に絡まり残ってた糸から、わたしの匂いを嗅いで確信し、宦官に命じて、わたしを皇宮に呼び出したってわけ。
 あの家にいる女は、乙女の匂いがした――って。アンタは犬か! 犬の探し方じゃん、それ。クンクン、乙女はこの女で間違いないですぜ、ワンワン。
 
 「里珠リジュ、余の乙女として、ここで暮らせ」

 「――は?」

 なんで、わたしが?

 「お前は、余の陰陽の乙女だ」

 「だからって!」

 「はい、そうですか」で、皇宮で暮らせるわけないじゃない!
 アンタのさっきの説明だと、わたし、アンタに男女の……、ニョニョニョってこと、されるんでしょ? こっちの同意ナシに「国のためだ!」で、「乙女だから!」で!
 それでなくても、機織り女は乙女でなければいけないの! 最高の布を織るためには、男を知らない娘でないと!
 いくら皇子の命令だからって、「はい、そうですか」で操を捧げるつもりはない!
 動いた如飛ルーフェイ。思わず反射的に身構えたわたしを見て笑う。

 「安心せよ。お主にその気がないうちは、そういうことはしない」

 「――へ?」

 いいの? さっきの説明だと、術使うために、わたしにあれやこれやのそれやどれやしなきゃいけないみたいなんだけど。

 「今のところ、術を使うような災害も起きてないしな。ただ、父上の跡を継ぐためには、乙女の存在が必要。だから、お主を探した。お主が余の乙女なことに変わりないからな」

 「あの……」

 「ん?」

 「どうして、わたしがその……〝乙女〟なんですか?」

 男性の陽の気と女性の陰の気。その二つを混ぜることで、陰陽の均衡を保つっていうのなら、別にわたしじゃなくても、他の女性でもいいんじゃないの?
 くわしくは知らないけど、おしなべて女性ってもんは、みんな陰気の存在なんだし。そういうことする相手は、別にわたしじゃなくても……。

 「それがな。上手く説明できないのだが。陰陽の気を最も良い状態に整えるには、己に合った伴侶というのが必要なのだ。そして、その伴侶というのは、理屈でも感情でもない。天啓のように、コイツだという衝動のようなものが探し当てる」

 それ、やっぱり、犬みたいな獣の探し方な気がする。
 盛ってるメスを探してやってくる、同じく盛ったオス犬みたいな。

 「だが、余は、力を整えるためだけに、お主を抱くつもりはない。お主が、抱かれてもよいと思うまでは、何もせぬ」

 「そ、それでいいんですか?」

 「なんだ? 不満か?」

 いいえ! とんでもない!
 プルプルと、首を横に振って否定。

 「あの玉環では糸の償いにならぬ。後で気づいたのだがな。あれを市で売るのは難しかろう。下手すれば、どこで盗んだと余計な詮索を受ける」

 「えっと……」

 その通りで、あの玉環は、家の箪笥の奥にしまったままになってる。

 「だから、ここで暮らすのは、あの糸の詫びだと思え。お主が存分に機織りができるよう、最高の生糸を用意してやる。染料だって、よりすぐりの物を用意する」

 シュルっと衣擦れの音がした。
 気づけば、如飛ルーフェイの腕が、わたしの体を抱き寄せて……。

 「お主の欲しいものはなんでも揃えてやる。だから、お主は俺のそばで暮らせ」

 チュッと、額で音がした。
 如飛ルーフェイがわたしの額に口づけたのだとわかるまで、少しだけ時間かかった。

 「フフッ。よいな。お主のその力の抜けた瞳。あの時もそうだったが、このまま喰らい尽くしたくなる」

 えっ!? やっ! ちょっ!?

 慌てて彼を押し戻し、わずかだけど「拒否!」の距離を取る。
 そんな、好きでもなんでもないのに「喰らい尽くされ」たくないわよ!

 「冗談だ。お主が自ら『食べてください』とならぬ限り、手は出さぬ」

 「あ、当たり前です!」

 相手が皇太子だろうが、陰陽のナンチャラだろうが!
 女の初めては、そう簡単に「どうぞ」できないんだからね! 最高の生糸を用意したからって、「じゃあ、お返しに」とはならないんだからね!

 「お主のための宮も用意した。今日からは、そこでゆるりと過ごすがよい」

*     *     *     *

 ってことで、用意されたという「瑠璃宮るりきゅう」に案内される。宮といっても、わたしが利用するのは、居室となる一部屋だけ。後は、わたしに仕える女儒の部屋だとか、衣装とかをしまっておく納戸とか、そういう場所なんだって。
 もちろん、わたしの住まいとなる部屋は一番大きいんだけど。……大きいんだけど。

 (なにこの、デデドンっとした寝台はぁっ!)

 部屋に入るなり、一番目立つど真ん中にドドンと置かれた寝台。薄い紗のかかった、豪奢なもの。縦でも横でも自由に寝られそうな程の大きさ。落ちる心配はしなくて良さそうな広さ。
 え? いや、ちょっと。わたし、そういうことしなくていいって言ってたよね! それなのに、この寝台って! ――ヤバくない?

 「今日から、お世話をさせていただきます。鈴芳リンファンと申します」

 おおっと。
 寝台にばっか目をやってたら、その隣に、わたしより若い女官(?)が頭を下げてた。思わず、わたしも「ども!」ってかんじで頭を下げさげ。

 「姫様のことは、これより『瑠璃妃るりひ』と呼ばせていただきます」

 「瑠璃妃るりひ?」

 「はい。この瑠璃宮るりきゅうの主でございますれば」

 ああ、そういう制度なのね。
 皇帝のご寵姫の名前を呼ぶなど、「さま」とかつけても厚かましいとかなんとかで、住んでる宮殿の名前で呼ぶようになってるんだ。
 けど。

 「どう呼んでもらってもいいけどさ。二人っきりの時は名前、『里珠リジュ』でいいわよ」

 かたっ苦しいし。
 それに「瑠璃妃るりひ」なんて呼びかけられても、わたし、返事しそびれそうだし。
 そもそもわたし、まだ「妃」じゃないし!(意外と重要)

 「では、里珠リジュさま、こちらへ」

 言った通りにわたしの名前を呼んで、ニコッと笑った鈴芳リンファンが、わたしの手を取って歩き出す。向かった先は、衝立の向こう側――って。え?

 「陛下がおいでになる前に、そのお体、洗わせていただきます」

 衝立の向こうで、ホカホカと湯気を上げてたお風呂。
 「ええっ!?」と驚くヒマもなく、自分の衣をすべて引っ剥がされて、お風呂にドボン。

 「いや、ちょっ……! 陛下がおいでって……! そんなこと、きゃああっ!」

 ここで暮らすだけでいいって言ってたのにぃっ!
 うぎゃああっ! ど、どこ触ってるのぉ、鈴芳リンファン

 言いたかった文句もなにも吐き出せず、体に残っていたかもしれない垢も何もかも、鈴芳リンファンの小さな手で、容赦なくすみずみまで洗い流されてしまった。
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