この結婚に、恋だの愛など要りません!! ~必要なのはアナタの子種だけです。

若松だんご

文字の大きさ
14 / 27

第14話 夜明けの悲喜こもごも。2 (侍女の視点)

しおりを挟む
 「さ、これで大丈夫でございますよ」

 湯の入った桶を脇にどけて言った。新しい肌着を着せ、月のもののときと同じように海綿をつめてやる。脚の間をキレイに拭ったおかげで、いくらか落ち着いたのだろう。姫さまが小さく「うん」と頷いた。

 「で? 子種とは、どういうことなのですか?」

 なにもないまま、あれがあふれるなんてことはない。
 まさか、そういう一夜のあやまち的なことを!?
 昨日は、ついうっかり、あのままルシアンさまと一夜を過ごしてしまい、控えの間に戻らなかった。四阿での情事は、一回では終わらず、ちょっと汚れてしまったから、一緒に湯あみでもしようか。的なことになって、そのままルシアンさまの部屋で、その……。

 エヘン。ゴホン。

 まあ、私のことは置いといて。
 もしかして、その、私が不在の間に、この部屋に忍び込んだ男がいたのだろうか。
 いや、でも、廊下には衛士がいるし。そんな心配は……。あ、でも、その衛士が忍び込んだのなら、どうしようもないし……。
 主に狼藉を働かれたのなら、大問題だ。控えにいなかった自分も責任を問われるだろう。
 ただではすまない。

 「あの……、あの、ね……」

 モジモジと、姫さまが話し始めた。

 「わたくし、アナタとルシアンの……、その閨事を見てしまったの」

 「………………は?」

 今、なんて言った?
 見た? 私の? 閨事をっ?
 なななな、なにを言い出すの? この主はっ!

 「そっ、それは、姫さま、どっ、どういうことでっ……?」

 一気にブワッと汗が噴き出す。

 「庭にアナタがいると言われて外に出たのだけど、そこで見てしまったのよ」

 ごめんなさいと、頭を下げられたけど、脳内いっぱいいっぱい。

 見た? 見たの? 見られたのっ?

 「でね、なんかこう落ち着かなくなって庭で、アナタに教えられた『濡れ方』を試していたら、その……陛下がいらっしゃって」

 は? 陛下? なんでそこに陛下?

 庭で自慰行為に及んでいたことよりも、脳はそっちに驚いた。いや。両方に驚いていたのかもしれないけど、そのあたりの冷静な分析ができる状態じゃなかった。

 「でね、陛下もなぜか興奮していらして。そのまま情交に及んだのよ」

 てことは。もしかして陛下も私たちの情事をご覧になってた……とか!?
 ありえる。おおいにありえる。
 なんとなくだけど、ピンときた。
 あの時、ルシアンさまが動くのを止めたけど。もしかすると、あれは、それに気づいて……。

 グッハアァッ!!

 天から星が落ちてきたかのような衝撃。
 知らなかったのは私だけ? 知らずにアンアン喘いでまぐわっていたの?
 あまりの衝撃的な事実に、爆死寸前。目の前真っ暗。
 そしてなにかね。お外で、きみたちはあられもない姿になって、そういうことをいたしたと。王と王妃なんて立場も忘れて、人のまぐわいを見た興奮そのままに、しっぽりぬっぽりお楽しみだったと。

 ――獣かよ。

 自分たちのことを棚に上げてツッコむ。
 よく見れば、寝台の片隅に、ボロ布のように引き裂かれた夜着が転がっている。あれは、欲望のままに陛下が引き裂いたなれの果て? ……うわあ。

 「でも、不思議ね。濡れたからかしら。それほど痛いと思わなかったのよ。それどころか、気持ちいいと思ってしまったわ」

 そうですか、そうですか。もう、どうでもいいわ、そんなこと。

 「部屋に戻ってからも、子種を注いでいただいたのだけど……、流れてしまったわ」

 そんな恨めしそうに、桶を眺められても。

 「まあ、それほど気持ちよかったのであれば、また注いでいただいたらよろしいのでは?」

 「そうね。でも、子がデキやすい日でもないのに、そんなこと求めてもいいのかしら」

 「よろしいのではないですか? 結婚されたばかりなのですし。気が合ったのであれば、何度でも愛し合えばよろしいかと存じますわ」

 もう好きにして。

 人が何を言おうが、またまぐわいたんでしょ、アンタは。
 だったら、もう思うがままにヤレばいいじゃん。性に目覚めたばかりのメスって、ホント、めんどくさいほどさかってるわ。オスもそうなのかもしれないけど。
 半眼になって、頬を赤く染めた主を見る。もう、ヤケのやっぱち気分。

*     *     *     *

 その日、朝早くから王宮内では、とあるウワサが広まっていた。

 曰く、

 「王と王妃が、庭でまぐわっていた」

 「陛下は、性急に求められたらしく、王妃の夜着を引き裂いた」

 「続きは寝所で。朝までお楽しみだったらしい」

 ルシアンとオルガのように、茂みの奥の四阿という隠れた場所でするならともかく、庭の一角、隠すものは夜の闇だけという状態では、簡単に見られてしまうのだ。
 それも、静かなはず庭園で、あれだけの声を上げてまぐわえば……、否が応でも気づいてしまう。
 それに、本人たちは気づかないかもしれないが、王宮内には、衛士をはじめ、様々な人間が夜であっても仕事に就いている。引き裂かれた夜着をまとった王妃を、半裸の国王が横抱きにして回廊を歩いていけば、目は釘付けになるだろうし、誰かに話したい一番の出来事になったに違いない。
 他人の情事、それも国王と王妃などという、この国で一番高貴な男女の睦み合いとなれば、興味を持つなというほうが、ムリな話である。

 「金のための結婚とはいえ、やはり陛下もお若いからな。ガマン出来なかったんだろう」

 「南の国の女は名器が多いと聞くぞ。王妃さまもそのたぐいではないのか?」

 「なかなか豊満なお胸をお持ちだしな。あれは悪くなさそうだぞ」

 「戦場でのウワサだと、陛下もかなりのイチモツをお持ちだとか。なら、王妃さまのようなお身体を特に喜ばれるんじゃないのか?」

 「なら、庭でことに及んでも致し方ないかもしれんな。それでなくても、あそこは、解放感とスリルが味わえ……いや、これは失言であったな」

 などなど。
 ある者は、眉をひそめつつ、ある者は身を乗り出しつつ。フフフ、まあ、と扇で顔を隠しながらも、次の誰かに話していく。
 ウワサには、憶測と希望も入り混じる。
 扇の陰で、廊下の片隅で。あることないこと、瞬く間に伝播していった。
 知らぬは本人(たち)ばかりなり、である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜

あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 第四騎士団に所属している女性騎士モニカは団長のカリッドより呼び出され、任務を言い渡される。それは「カリッドの恋人のフリをして欲しい」という任務。モニカが「新手のパワハラですか」と尋ねると「断じて違う」と言い張るカリッド。特殊任務の一つであるため、特別報酬も出すとカリッドは言う。特別報酬の魔導弓に釣られたモニカはそのカリッドの恋人役を引き受けるのだが、カリッドは恋人(役)と称して、あんなことやこんなことに手を出してくる――というお話。 ※本能赴くままにノープランで書いたギャグえろお話です。

「君と勝手に結婚させられたから愛する人に気持ちを告げることもできなかった」と旦那様がおっしゃったので「愛する方とご自由に」と言い返した

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
デュレー商会のマレクと結婚したキヴィ子爵令嬢のユリアであるが、彼との関係は冷めきっていた。初夜の日、彼はユリアを一瞥しただけで部屋を出ていき、それ以降も彼女を抱こうとはしなかった。 ある日、酒を飲んで酔っ払って帰宅したマレクは「君と勝手に結婚させられたから、愛する人に気持ちを告げることもできなかったんだ。この気持ちが君にはわかるか」とユリアに言い放つ。だからユリアも「私は身を引きますので、愛する方とご自由に」と言い返すのだが―― ※10000字前後の短いお話です。

敵将を捕虜にしたら夫になって、気づけば家族までできていました

蜂蜜あやね
恋愛
戦場で幾度も刃を交えてきた二人―― “赤い鷲”の女将軍イサナと、 “青狼”と恐れられたザンザの将軍ソウガ。 最後の戦いで、ソウガはイサナの軍に捕らえられる。 死を覚悟したその瞬間―― イサナは思わず、矢面に立っていた。 「その者は殺させない。命は……私が引き受けます」 理由などなかった。 ただ、目の前の男を失いたくなかった。 その報告を受けた皇帝エンジュは、 静かに、しかし飄々とした口調で告げる。 「庇いたいというのなら――夫として下げ渡そう」 「ただし、子を成すこと。それが条件だ」 敵国の将を“夫”として迎えるという前代未聞の処置。 拒否権はない。 こうしてソウガは、捕虜でありながら 《イサナの夫》としてアマツキ邸に下げ渡される。 武でも策でも互角に戦ってきた男が、 今は同じ屋根の下にいる。 捕虜として――そして夫として。 反発から始まった奇妙な同居生活。 だが、戦場では知り得なかった互いの素顔と静かな温度が、 じわじわと二人の距離を変えていく

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...