この結婚に、恋だの愛など要りません!! ~必要なのはアナタの子種だけです。

若松だんご

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第26話 二人だけの誓い。 ♡ (侍女の視点)

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 「これで、よしっと」

 キュッと腕に結ばれた包帯。その強さに少しだけ痛みに顔をしかめる。

 「まったく、無茶なことをするよな、お前は」

 手当の道具を片づけながら、ルシアンが言った。
 焼け残った王宮の一角。小さな部屋に連れてこられたわたしは、彼から手当てを受けていた。切り傷は、右腕に負った刀傷だけ。あとは打ち身で、ところどころで青くなっている。

 「俺が行かなければ、お前、舌を噛み切るつもりだっただろ」

 グイッと顎を持ち上げられ、指で、口を開かされる。

 「……舌、少しの間、痛むかもな」

 見つめたルシアンが眉根を寄せる。わたしの傷を痛ましく思ってる。そんな顔だ。

 「ごめんなさい……」

 彼にこんな表情をさせたかったわけじゃない。

 「もうこんな無茶なことするなよ」

 「うん……」

 包み込むように腕を回され、素直に彼にしなだれかかる。
 今もまだ、こうして再会できたことが信じられない。
 あの時、私は姫さまのために命を捨てる覚悟でいたから。ルシアンには、二度と会えないと思っていたから。
 彼の胸に頬を寄せれば、トクントクンと速い鼓動が温もりとともに肌に伝わる。

 「――お前を失うんじゃないかって、気が狂いそうだった」

 「ルシアンさま……」

 絞り出すような言葉。抱きしめる腕が微かに震えている。
 その震えは、私の心を満たしてゆく。

 「わたし、あの時、死のうと思った時に、真っ先に思い浮かんだのは、誰でもない、アナタだったの」

 彼の腕にそっと触れる。

 「最期に一目会いたい。会って抱きしめられたい。そう思ったの」

 以前の私なら、姫さまのことを思いながら死んでいっただろう。でも今は違う。誰よりもルシアンのことを思っていた。

 「オルガ……」

 「会えて……、よかった」

 本音とともに、涙がこぼれた。涙が、ルシアンの袖に染みこんでゆく。
 私、いつの間にか、身体だけじゃなく心でもルシアンと繋がりたかったんだ。彼のこと、愛していたんだ。
 そのことをあの死の淵で実感した。

 「オルガ。俺はお前に、女としての普通の幸せを与えてやれない。陛下の従者として、この身は国家、陛下のために捧げると決めているからだ」

 うん。わかっているわ。それは、私も同じ。私の命も姫さまに捧げられている。

 「俺の一番は陛下だ。だから、お前を大事にしてやれない事態におちいるかもしれないし、裏切るようなことが起きるかもしれない」

 「ええ。承知してます」

 今は、子も出来てお幸せな主たちだけど、未来にどんなことが起こるかわからない。考えたくもないが、もし、不幸な別れ方、お二人の間に諍いが起きて争うことになれば、私たちも、それに殉じて離れることになる。

 「俺たちは結婚や子を成すことは出来ない。……だがな」

 抱きしめる腕に力がこもる。

 「俺が生涯をかけて愛するのは、お前だけだ。オルガ、お前だけを変わらず愛してゆく」

 「ルシアン……」

 「陛下のために、この命を失うことになっても、その最期の一息で呟くのはお前の名前だ。思い浮かべるのは、お前のことだけだ」

 「私も、です……、ルシアン。アナタだけを想うわ」

 どれだけ主に忠誠を誓っていても、最期に想うのは愛しい人のことだけ。この鼓動が止まるまで、愛しい人を想っていたい。
 涙の張った目で彼を見上げる。
 しっとりとした唇が、ゆっくりと重ねられる。

 「この口づけに誓って」

 「ええ、口づけに誓って」

 教会でもなければ、神の前でもない。立会人もいない、二人だけの誓い。
 だけど、それはとても神聖な誓い。

 「オルガ……」

 「ルシアンさま……」

 寝台はおろか、長椅子すらない小さな部屋の床に二人で転がる。
 どちらからともなく口づけを交わし、その身を抱き寄せ合う。

 「痛くないか?」

 「平気よ、これぐらい」

 傷を気遣ってくれる、その優しさがうれしい。
 ゆっくりと互いの衣類を脱ぎ捨て、生まれたままの姿で抱き合う。
 肌と肌を重ね合わせ、深く繋がる。
 いつものような情欲はない。そこにあるのは、愛し愛されているという幸せ。

 「まるで初夜みたいね」

 「そうだな」

 互いに愛を誓いあい、身体を重ねる。

 ――健やかなるときも、病めるときも、常にこれを愛し、これを敬い、これを慰め、これを重んじ、これを守り、死が二人を分かつまで、愛することを誓いますか?

 夫婦になれなくても、心は繋がっている。
 この身のすべてを捧げることは出来なくても、心はすべて相手のものだ。

 ――神と子と精霊の御名において。神があわせられたものを、人は離してはなりません。アーメン。
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