オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご

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19.うまい話にゃ、愛がある?

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 (う、ん……)

 まぶたに明るさを感じて、少し眉を動かす。なんだろ。頭が重い。
 頭だけじゃない。体も重い。動かない。というか動かせない。
 ――なにかが乗っかってる?
 胸のあたり、すごく重い……って。

 (かっ、かかっ、かっ、課長ぉっ!?)

 一気に目が覚めた。ってか、目が覚めたどころの騒ぎじゃない。
 開いたまぶたの先、ドアップで見えた課長の寝顔。そして、あたしの上には、のしっと課長の腕。
 驚きすぎて、目ン玉スッポーンって飛んできそう。それか、心臓が驚きでボガンと破裂する。

 (なな、なんで課長があたしの隣にっ!?)

 窓から差し込む白っぽい日差し。スヤスヤ眠る課長の髪が少し光に透けてキレイ――じゃなくて!

 (なんで、どうして、こうなってるのっ!?)

 昨日の記憶、カムバック! あたし、課長を待って、ノンアル飲んでただけのハズ!
 窓の外では、チュンチュンとスズメの鳴き声。少し乱れたシーツの上。あたしはスッポリ課長の腕のなか。
 完璧なる「朝チュン」シチュエーション。

 (ということは、あたし、課長とそういうことを致しちゃったの?)

 目の前、あたしを抱いたまま眠る課長は、少しボタンも外したワイシャツ姿。

 (漫画とかだと、全裸にならなくても、そういうことをしちゃってるけど)
 
 でもあの場合、男性は着衣のままでも、女性は裸だし? 
 男性は、アレさえポロンと出せればいいから、シャツとか着たままだけど。キスとか胸とかアソコとか。男性に愛撫されるためなのか、ヒロインは素っ裸にされるのが常。

 (あ、でもあたし脱いでない――よね?)

 体を動かした感じ、昨日と同じルームウェアを着てるみたい。脱がされたかんじはない。(行為のあとに着せられたのだとしたら――知らん)

 「ン……、起きたか」

 「……はい」

 眠たげな問いかけに、小さく返す。それが精一杯。

 「どうした?」

 「いえ」

 (あたし、課長とそういうこと致しちゃったんですかー!)

 訊きたいけど訊けない。知りたいけど、口が裂けても訊けない。

 「真白……」

 ほへ?

 「ンッ……」

 突然重なった唇――って、ナニ?

 「ンっ、んウッ……」

 ついばむように、押し付けるように。何度もくり返すキス。
 いつの間にか、両頬を押さえられ、キスから逃げられなくなってる。

 「真白、聴け」

 課長の目が、あたしを捉える。

 「俺は、お前が好きだ。お前を愛している。どんなに卑怯な手を使ってでも、お前を手に入れたいと思うぐらいに好きだ」

 課長の目に映ったあたしの顔。どうしよう。心臓がギュッと縮こまって、そのまま止まりそう。

 「手に入れて。そのまま自分のものにしたかった。キスだけじゃない。その先のことも。お前の体に俺を刻みつけたかった」

 「課長……」

 「お前を俺のものにして。誰にも奪われないよう俺の腕のなかに閉じ込めて。お前を壊すぐらい、メチャクチャに愛してみたい。俺の愛だけを注ぎたい」

 止まりかけてた心臓が、今度は胸から飛び出しそうなほど暴れ出す。

 「だが、それでは本当にお前を愛してることにはならない。怖がってるお前を、情動のままに抱くのは、お前を愛してる証にはならない。それはただのエゴだ。愛情じゃない」

 だからあの時、キスだけで踏みとどまったの?
 あたしが怖がってたから? あたしが怯えてたから?

 「真白。俺はお前を待つつもりだ。キスだけで体を強張らせてるお前が、いつか俺を受けられるまで。ゆっくりでいい。焦るな」

 「は、い……」

 ポンッと軽く頭をなでてくれた課長。
 あたしを見る目が、急に柔らかく、甘く、優しくなる。
 心臓が、キュッとなって、フワッと軽くなった。

 「さて。起きるぞ」

 言って、課長が身を起こす。
 さっきまでの甘いカレシモードから、怖いオオカミ課長モードに変わった。
 ものすごくテキパキと、脱ぎ散らかしてあったジャケットとネクタイを拾い上げ始める。

 「課長」

 「なんだ?」

 「ハグください」

 「――は?」

 「あたし、一日も早く、そういうことに慣れたいんです。課長が怖くないってこと、体に覚えさせたいので」

 はい。
 ベッドの上、座ったまま課長に向けて両手を広げる。

 「……お前、俺を殺す気か?」

 あたしが? 課長を殺す?
 あたし、そんな大層な牙は持ち合わせておりませんが? ウサギですし。
 課長の小さなつぶやきに、首を傾げた。

*     *     *     *

 こうして。
 こうして、あたしは課長と両思いなことを確認しあった。
 恋愛超初心者、なんなら「つい最近までアレルギーだと勘違いしてました」なあたしを、課長は待っていてくれる。あたしがキス以上のことを受け入れられるまで。あたしが、「大丈夫」と、安心して前に進めるようになるまで。

 (課長、優しい……)

 あんなに目つきは鋭いのに。オオカミみたいに怖いのに。
 その心遣いは、とてもとても染み入るように優しい。

 (だから、あたしもがんばるべ!)

 と思うんだけど。
 キスだけじゃない。いっしょに寝るだけじゃない。
 その先へ。少しでも前に進めるように。待っててくれる課長のもとに進めるように。
 けどさ。

 (その対象と会えなきゃ、進みようがないんだってば!)

 課長との生活。
 先日社長に言われた通り、課長は仕事が多忙となった。
 朝は、あたしより早く出社するし、帰りはあたしが寝た後。(これでも精一杯起きて待ってるんだけど、帰ってこないのよ)
 会社に行けば会えるし、(業務連絡)だけど会話はできる。
 でも。でもね。

 (普通、恋愛始まったばっかりのカップルって、もうちょっとイチャイチャするもんじゃないのぉぉっ!)

 ほら、帰り道にいっしょに買い食いしたりとか。どこかで、意味もないくだらないこと喋ったり。休日には映画を観に行ったり、買い物に出かけたり。「次の休みはどこに行こうか?」「水族館行きたいなあ」みたいな予定立ててみたり!(課長に「次の休み~」を言わせる妄想をして、「違うな」と思った。課長なら「(水族館に)行くぞ」だな)
 そりゃあ、会社に行けば、それなりに目は合うし、合えば、ちょっとだけ(ほんの一瞬)目を細めて笑ってくれるし。「愛してる」って言葉はウソじゃないんだなってわかるけど。

 (業務連絡じゃなくて、もっと別のことを話したいのよ!)

 「書類確認お願いします」じゃなくて、「この書類を必要分コピーしておいてくれ」でもなくて! もっと、こう、甘~い胸キュン会話をしたいの!
 そしてあわよくば、その手とか、ちょっと触れてみたい。その長くキレイな指で触ってもらいたい。
 ゔゔ。

 (社長のバカ)

 課長がそこまで忙しくなってるのって、全部社長のせいだもん。社長、あらかじめ「ゴメンね」って謝ってくれたけど、くれたけど……っ!

 ――さみしいよ。
 ――会いたいです。

 そんなメール送ってみたい。
 けど。

 (課長なら、「会社で会ってるだろう?」で終わるんだろうな)

 たぶん、きっとそう。
 毎日会ってるじゃないか。それのどこが不満なんだ。不満を言うヒマがあるなら仕事しろ。
 だって、一度もさみしそうな顔しないし。仕事の鬼だから、きっとそのへんは割り切ってるんだろう。

 (大判焼き、買って帰ろ)

 恋の甘さを感じられないのなら、食べ物の甘味で甘さを補給。
 でないとあたし、甘さ不足で干からびちゃいそう。
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