正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず

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閉じ込められて4

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暗闇の中、グリーンの腕に囚われたまま、俺はひとまず落ち着こうと静かに息を整えていた。
だがその時、背後でグリーンの動きがふいに止まる。

「……残念ですが、ここまでのようですね」

「は?」

意味を問い返す間もなかった。

――ガン。

鈍く重たい衝撃音が、倉庫の奥まで響き渡る。反射的に視線を向ける。鉄扉のある方向だ。

「今の……」

「扉です」

グリーンは淡々と答えた。

直後――

――ガンッ!

今度は明らかに、力ずくでこじ開けようとする音。錆びた金属が悲鳴を上げ、床が低く唸るように震えた。

「ねぇちょっと、レヴィ?本当にここにトオルちゃんいるのぉ?」

聞き覚えのある、軽い声。

「……エリさん?」

名前を口にした瞬間、

――ガンッ!!!

今までとは比べ物にならない衝撃が走った。床が大きく揺れ、天井から埃が舞い落ちる。

「……ちっ」

次の瞬間、グリーンの短い舌打ちとともに腕が動き、俺を包み込むように抱き寄せた。
守るための動作なのだろうが、逃がさないと言われているようにも感じる。

背後から伝わる体温と、外で続く破壊音。
そのどちらもが、嫌に現実味を帯びて迫っていた。

「せぇーーーのっ!」

大きな掛け声と同時に、バキッ、と何かが砕ける音が響いた。続けざまに、重厚な鉄扉が軋みを上げながら、ゆっくりと開いていく。

え、鍵……壊した?
馬鹿力にもほどがあるだろ……。

薄暗かった倉庫内に、一気に光が流れ込む。思わず目を閉じると、白く滲む視界の向こうから、聞き慣れた声が呆れたように響いた。

「こんな使われてない倉庫の鍵なんて、誰が持ってるのよ。まったく」

一拍置いて、声の温度が変わる。

「……まさか、本当にトオルちゃんがいるなんて」

視線が、俺へ――そして、その背後へと向けられる気配。

「しかも、余計な人物まで。ね」

グリーンとエリさんの視線が、静かに交差した。

「そちらの部下の不手際で、トオルさんがこんな場所に閉じ込められたのですが?」

低く抑えた声。その奥に、はっきりとした牽制の色が滲む。

「……なに?」

エリさんの声音が、わずかに硬質さを帯びた。

その瞬間、背後から回された腕にぐっと力がこもった。抱き寄せられ、逃げ道を塞がれる感覚。守るためなのか、それとも囲い込むためなのか。判断がつかないほどの圧が、はっきりと伝わってくる。

「こんなことすら把握できていないのなら――」

グリーンの声が、低く沈んだ。

「トオルさんを、このまま働かせるわけにはいきませんね」

刹那、空気が張り詰める。

「……あなたに、そんな制限を課す権利はないわ」

エリさんの声は静かだが、揺るぎがない。

「こちらの不手際なら、こちらで責任は取る。落とし前も、きっちりつけるわ」

言い切る口調に、交渉の余地はなかった。

「まずは何があったのか、トオルちゃん本人から”しっかり”と話を聞くわ。だからご心配なく」

エリさんの視線が、まっすぐ俺を捉える。

……とはいえ、怪我をしたわけでもない。
閉じ込められただけで、大事にするほどのことでもないし、俺自身、何かを求めているわけでもなかった。

だが、ここで口を挟めば、ろくなことにならない気がして、俺は黙って唇を噤んだ。

「それに、いくらあんたが厄介でも――」

エリさんは一歩踏み出し、視線を逸らさないまま言い放つ。

「ここは私たちのテリトリーよ。分が悪いんじゃなくて?」

その言葉と同時に、今にも火花が散りそうな戦闘態勢へと移る。
空気が、さらに一段張り詰めた。

「それは……どうでしょう?」

それでもグリーンは焦る素振りすら見せない。
低く返しながら、俺を抱えたまま微動だにしなかった。

――こいつ、本当にどうなってるんだ。

状況も立場も理解したうえで、なお余裕を崩さない。

「トオルさん、危ないですから。少し下がっていてください」

そう告げると、グリーンはようやく俺を解放した。そして、庇うように一歩前へ出る。

……え。
まさか、本気でやるつもりか?

「いい度胸ね!!」

エリさんがそう叫ぶと同時に、床を蹴って駆け出した。迷いのない動きで、一直線にグリーンへと攻撃を仕掛ける。

次の瞬間――

衝撃とともに、倉庫内に砂埃が一気に舞い上がった。視界が白く曇り、何も見えなくなる。

「……っ」

思わず息を呑む。

どうなった?
今、どっちが――。

答えが出る前に、埃の向こうから何かが動く気配だけが伝わってきた。
次の瞬間、倉庫内に激しい衝撃音が響き渡る。
何かがぶつかり合い、弾かれ、飛び交う音が連続して耳を打った。

「……っ!」

反射的に身をすくめる。
直後、ごうっという風切り音とともに、鉄の塊のようなものが真横をかすめて飛んでいった。
床に叩きつけられる音が、遅れて響く。

――待て待て。
俺、ディヴァイアンでバイトしてるとはいえ、ただの一般人。ヒーローと、敵組織の幹部クラスがやり合ってる場所に、無防備で放り込まれたら――

「……普通に、死ぬだろ」

喉がひくりと鳴る。砂埃の向こうで続く攻防の気配が、やけに遠く、そして現実味を帯びていた。

扉は開いているし、このままあいつらを放っておいて出ていってもいいだろうか。いや、ダメかさすがに。

そのとき――
埃の切れ間に、ひときわ動かない影が見えた。あれは……。

考えるより先に、体が動いていた。
その影は動かない。ならば、と俺は迷わずレヴィの背後へ滑り込む。

――要するに、盾にした。

だが盾にされたレヴィは何も言わなかった。
戦闘の只中だというのに、その背中は不思議なほど大きく、揺るぎがない。

……あれ?

ほんの一瞬、レヴィの立ち位置がわずかに変わった気がした。俺を隠すように、無意識にでも守る位置へ収まるような――そんな錯覚。

盾にしたはずなのに、振り払われることもない。嫌そうな気配すらない。
むしろ「そこにいろ」と言われているみたいで……しかも、なぜか少し嬉しそうにさえ感じるのは気のせいだろうか。

戦闘音が鳴り響く中――

「……あれ?」

間の抜けた声が、入口の方から響いた。

「なんで、扉壊れてんだ?」

その場違いな一言が、張り詰めていた空気を無遠慮に切り裂く。

視線を向けると――
入口に立っていたのは、見覚えのある三人。

俺を、この倉庫に閉じ込めた張本人たちだった。
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