正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず

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深夜のコンビニ

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──甘いものが無性に食べたくなった。

それだけの理由で、深夜二時。
ゆるんだスウェット姿のまま、ひとりコンビニへ向かう。

髪も整えず、スリッパの音をぱたぱた響かせながら歩く。
店内はしんと静まり返っていて、冷蔵棚には“いつものやつ”──固めのプリン──が、ちゃんと並んでいた。

「……よし」

プリンを二つ、ついでにロールケーキとカフェオレ。
無意識に手が動く、いつもの深夜セット。

デザートコーナーに手を伸ばしかけたそのとき。
隣に、ふと気配。

(……でけぇな)

ちらと横を見ると、190近い長身の男が立っていた。
がっしりとした体格にうっすら伸びた無精髭。
黒シャツに黒のジャケットをラフに羽織っているだけなのに、不思議と隙がない。
何でもない立ち姿が、妙に場を引き締めている。

そんな男が手にしていたのは、見たことのないスイーツのパッケージだった。

「……新作?」

つい口をついて出た独り言に、男がこちらを一瞥。
少し意外そうに眉を動かし、すぐにふっと口元を緩める。

「ああ。昨日発売されたばかりの、期間限定クリームブリュレだ」

「……うまそっすね」

パッケージを確認して、俺もひとつ取る。
すると今度は、男の視線が俺の手元に落ちた。

「そのプリン……美味いのか?」

「固め好きなら、ハマりますよ。ちょっと懐かしい系の味です」

「そうか。じゃあ、それも買ってみよう。……今日は部下を怒鳴った帰りでな。甘いものが食べたかったんだ。助かった」

ぼそっと呟くように言って、男はプリンをカゴに入れる。

「大変っすね」

「ああ……香水撒いた奴がいてな。香りの統一感がどうこうって。おかげで“香りが不快”っていうクレーム処理するこっちの身にもなってほしいものだ」

「へぇ……」

どこかで聞いた気がする内容に、少しだけ引っかかりながらも深追いしない。
思い出しても、きっといい気分にはならない。

「ちなみにこのシフォンケーキもおすすめだ。甘さがしっかりしているが、くどくはない」

「あー、それ、わかります。俺も好きです」

「ほう……君とは、味覚が合いそうだ」

ぽつりと落とされたその言葉に、一瞬だけ間が空く。
その目がどこか深く、こちらを見透かすようで、俺はつい視線を逸らした。

「……じゃ、レジ行くんで」

「ああ」

軽く頭を下げて、カゴを持ち直す。
不思議と気の合う相手に出会ったような感覚を、ほんの少しだけ引きずりながら。

会計を済ませて外に出ると、自動ドアの向こうから夜風がふっと頬をなでた。

スウェットのポケットに手を突っ込んで歩き出したそのとき――

「トオルさん、夜中に出歩くのは危ないですよ」

……来たな、と思った。

振り返らなくても、声でわかる。わざわざ確認する必要もない。

「……またお前か」

グリーンだった。
私服で、コンビニの明かりの下に立って、いつものように穏やかに笑ってる。

「偶然ですよ」

「偶然、ね」

「まさかトオルさんがこんな時間に出歩くとは思っていなかったので……驚きましたよ」

「こんな時間でも“来る”ことのが驚きなんだけど」

歩き出すと、当然みたいに隣に並んでくる。
距離感バグってるし、足音ひとつ立てずについてくるの、地味に怖い。

「……さっき、誰かと話してましたね?」

「は?」

「黒い服の、大柄な男。……知り合いですか?」

「知らねぇけど」

「……そうですか」

グリーンは相変わらず笑ったまま。
でも、目の奥が一瞬だけ沈んだような気がした。

「まさか、あの人がこんな場所に現れるのは想定外でしたけど…。少し手を回したほうが良さそうですね」

「ん?」

ぼそっと呟かれた声は、ほとんど聞き取れなかった。

「なんか言った?」

「いえ、独り言です」

間髪入れずに微笑んだグリーンは、
いつも通り丁寧で、柔らかく笑っていた。
けれどその笑みは、不思議と、背筋にひやりとしたものを残す。

「ちなみに、トオルさんの家の反対側に、静かなコンビニがあるんです。
深夜は人が来ないし、防犯カメラも少ない。……あ、品揃えもいいですよ」

「……」

最後の“品揃え”だけが、妙に取ってつけたように聞こえる。
内容が完全に誘拐犯の下見レベルなのに、さらっと言ってくるのが怖い。

「私としては、そういう静かな場所の方が……“連れて行きやすい”ですし」

「………………お前、まさかとは思うけど、本気でやるつもりじゃないよな?」

「ふふ、どうでしょうか」

グリーンはいつものように笑っていた。
声も仕草も柔らかい。だがその目の奥には、底知れないものが静かに沈んでいる。

何を考えているのか、本当にわからない。
……けれど、直感でこれだけははっきりわかる。

――やるな。こいつ。

「……それに、私の家ならもっと静かですよ。誰も来ませんし、トオルさんが何日いても、誰にも見つかりません」

「いやそれ監禁…」

「大丈夫ですよ。働かなくても、一生分はちゃんと用意してありますから。食費も生活費も、トオルさんが困らない程度には。貯金も、運用も順調です」

「……」

一方的に人生設計を組まれてるみたいで、背筋がすっと冷え、思わず沈黙した。
冗談に聞こえないところがいちばん怖い。

「それに、部屋もきちんと整えました。
ベッドは好みに合わせて、硬さの違うマットレスを二種類。
照明は目に優しい暖色系で、夜も落ち着いて眠れると思います。
冷暖房は、アレルギー対策フィルター付きの空調に替えておきました。」

快適にお過ごしいただけると思います、と、笑いながら言う。
それは“親切”の形をしてるけど、どう考えても逃げ場をなくす準備でしかなかった。

「……お前、ヒーローじゃなかったけ?」

問いかけると、グリーンはふっと目を細めて、静かに言った。

「ヒーローですね。ええ。
でも――ヒーローだって、一人の人間ですよ」

一拍の沈黙。

「トオルさんを、ドロドロになるまで甘やかしたいんです。
何も考えられなくなるくらいに、ぐちゃぐちゃにして……
気づいたら僕にしか依存できなくなってたら、最高です」

その声は静かで、穏やかで。
けれど確かに、何かを壊す覚悟を含んでいた。

「……開き直ってんじゃねぇよ」

トオルは呆れたように言いながらも、目をそらせなかった。

「ふふ。ヒーローは身勝手なんですよ」

それを聞いて、トオルは少しだけ息を吐いた。
そして、短く、突き放すように言った。

「……お前、絶対ヒーローじゃなくて、敵だろ」

 *

結局、コンビニから家まで5分と言う短い距離だったが、家の前まで送られた。

「それでは、おやすみなさい。また明日」

玄関先であっさりそう言って、グリーンは背を向ける。
こちらの返事なんか待たないまま、まるで“当然の約束”みたいに。

その背中を見送りながら、トオルはぼそりと呟いた。

「……いや、また明日って何だよ」

鍵を回す手に、わずかに力が入る。

ついてこられたのは慣れてきた気もするけど、ここまで来て家に入らないのは、それはそれでこわい。

ドアが閉まる直前、もう一度ため息がこぼれた。
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