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第3話
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舞踏会では予定通りウィラードがエスコートしてくれたが、やはりどこかぎこちない。
ずっと上の空なものだから、ウェイターから受け取ったワインに薬を数滴入れたのにも気づいていなかった。
「ウィラード。そのワイン、美味しいかしら?」
試しにそう聞いてみると、ウィラードは残りのワインを一気に煽ってしまった。
いつの間にそんなに酒に強くなったのだろうか。
「……あ、ああ。だが君には、少し早いかもしれないな」
遠回しに、ルーシャはシエンナと違って子供っぽいと言われているのだろう。
「……ウィラード。私、少し疲れてしまったようだから外の風に当たってくるわね」
「……まっ、……いや、気をつけて」
何か言いたげだったが、ルーシャは背を向けてバルコニーへ向かった。
もう薬の効果が出ているのだろうか。
なんだか彼にしては歯切れが悪かった。
薬を盛るような真似をしたのは申し訳ないが、これも二人の正しい未来のためだ。
ウィラードだってルーシャから解放されてシエンナと結婚できるようになった方が嬉しいだろう。
どうせ、もうすぐ婚約者でなくなるのだから責められても仕方がないが。
「これで良かったのよ……。愛されないのに結婚なんかしたって、辛いだけだもの」
覚悟は決まった。
シエンナとウィラードを、応援しよう。
彼の幸せのために。
会場に戻れば、美しく着飾ったシエンナと会話をしているウィラードがいた。
周囲には他の貴族たちに囲まれていて、注目の的となっている。
当然だろう。
今まで人々と線引きをしてきたウィラードが、人気者の美人なシエンナと一緒にいれば絵になるに決まっている。
「ねぇ、ウィラード様。一曲目はもちろんわたくしと踊ってくださるのよね?」
「ああ……今日の一曲目は、君と踊ろう」
会場に戻り、ゆっくり彼らの元へ歩いていけばそんな会話が聞こえてきた。
「まあっ、嬉しいわ!」
ぎゅっと密着するが、ウィラードは何故か離れようとした。
「少し、近すぎるかな。俺には君が、眩しすぎるかもしれない」
「ウィラード様ったら……!お上手なんですから」
どうやらウィラードは、シエンナが美しすぎてたまらない、ということを言っていたようだった。
一体どこであんな文句を覚えたのだろうか。
色気のあるその標所に、周りの令嬢たちもうっとりしている。
ルーシャには、なんだかウィラードが違う人に思えてきた。
「あら、ルーシャさん!お久しぶりですわね!」
「え、ええ……」
ウィラードより先に、シエンナがルーシャに気がついてそう声をかけられる。
やっぱりあの娘ではウィラードには相応しくなかったのだと言いたげな、周囲の視線が突き刺さった。
シエンナは嫌味を感じさせない華やかな笑顔だが、ルーシャにとってこの状況はあまりに辛かった。
「ごめんなさいね」
「……っ!」
駆け寄ってきたシエンナは、素敵な笑顔のまま、周囲に聞こえないくらいの声量でそう言った。
「でも、あなたよりわたくしの方がウィラード様に相応しいのだから、当然のことよねぇ」
悔しいけれど、何も言い返せない。
「今まで婚約者、お疲れ様でした。これからはわたくしがその役は引き受けますから」
「……」
その一言で崩れ落ちてしまいそうだった。
けれど、シエンナの言うことは間違っていない。
ルーシャにとってはシエンナにウィラードを略奪されたということでも、傍から見ればウィラードの愛を勝ち取ったのは他でもないシエンナなのだから。
「ルーシャ、これは違うんだ……!」
様子が変わったルーシャを見て、ウィラードが慌てる。
「いいえ、いいのよウィラード。あなたがシエンナさんを愛していることぐらい、私だって分かってるわ」
「ルーシャ!待ってくれ!」
ウィラードは弁明をしたいようだが、今更誤魔化したりなんかしなくたっていい。
ルーシャは彼の声を遮り、キッパリと顔を背けた。
「私たちの婚約は、終わりにしましょう。今まであなたに窮屈な思いをさせてしまってごめんなさい。もうあなたの前には現れないようにするから、どうか私を許してね」
うっかり泣いてしまっても、泣き顔を見られないようにと思って顔を背けたのだが、次の瞬間、ウィラードの言葉で思いっきり顔を上げることになった。
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを、世界で一番愛しているんだ……っ!?」
「え?」
そして、冒頭に戻る。
ずっと上の空なものだから、ウェイターから受け取ったワインに薬を数滴入れたのにも気づいていなかった。
「ウィラード。そのワイン、美味しいかしら?」
試しにそう聞いてみると、ウィラードは残りのワインを一気に煽ってしまった。
いつの間にそんなに酒に強くなったのだろうか。
「……あ、ああ。だが君には、少し早いかもしれないな」
遠回しに、ルーシャはシエンナと違って子供っぽいと言われているのだろう。
「……ウィラード。私、少し疲れてしまったようだから外の風に当たってくるわね」
「……まっ、……いや、気をつけて」
何か言いたげだったが、ルーシャは背を向けてバルコニーへ向かった。
もう薬の効果が出ているのだろうか。
なんだか彼にしては歯切れが悪かった。
薬を盛るような真似をしたのは申し訳ないが、これも二人の正しい未来のためだ。
ウィラードだってルーシャから解放されてシエンナと結婚できるようになった方が嬉しいだろう。
どうせ、もうすぐ婚約者でなくなるのだから責められても仕方がないが。
「これで良かったのよ……。愛されないのに結婚なんかしたって、辛いだけだもの」
覚悟は決まった。
シエンナとウィラードを、応援しよう。
彼の幸せのために。
会場に戻れば、美しく着飾ったシエンナと会話をしているウィラードがいた。
周囲には他の貴族たちに囲まれていて、注目の的となっている。
当然だろう。
今まで人々と線引きをしてきたウィラードが、人気者の美人なシエンナと一緒にいれば絵になるに決まっている。
「ねぇ、ウィラード様。一曲目はもちろんわたくしと踊ってくださるのよね?」
「ああ……今日の一曲目は、君と踊ろう」
会場に戻り、ゆっくり彼らの元へ歩いていけばそんな会話が聞こえてきた。
「まあっ、嬉しいわ!」
ぎゅっと密着するが、ウィラードは何故か離れようとした。
「少し、近すぎるかな。俺には君が、眩しすぎるかもしれない」
「ウィラード様ったら……!お上手なんですから」
どうやらウィラードは、シエンナが美しすぎてたまらない、ということを言っていたようだった。
一体どこであんな文句を覚えたのだろうか。
色気のあるその標所に、周りの令嬢たちもうっとりしている。
ルーシャには、なんだかウィラードが違う人に思えてきた。
「あら、ルーシャさん!お久しぶりですわね!」
「え、ええ……」
ウィラードより先に、シエンナがルーシャに気がついてそう声をかけられる。
やっぱりあの娘ではウィラードには相応しくなかったのだと言いたげな、周囲の視線が突き刺さった。
シエンナは嫌味を感じさせない華やかな笑顔だが、ルーシャにとってこの状況はあまりに辛かった。
「ごめんなさいね」
「……っ!」
駆け寄ってきたシエンナは、素敵な笑顔のまま、周囲に聞こえないくらいの声量でそう言った。
「でも、あなたよりわたくしの方がウィラード様に相応しいのだから、当然のことよねぇ」
悔しいけれど、何も言い返せない。
「今まで婚約者、お疲れ様でした。これからはわたくしがその役は引き受けますから」
「……」
その一言で崩れ落ちてしまいそうだった。
けれど、シエンナの言うことは間違っていない。
ルーシャにとってはシエンナにウィラードを略奪されたということでも、傍から見ればウィラードの愛を勝ち取ったのは他でもないシエンナなのだから。
「ルーシャ、これは違うんだ……!」
様子が変わったルーシャを見て、ウィラードが慌てる。
「いいえ、いいのよウィラード。あなたがシエンナさんを愛していることぐらい、私だって分かってるわ」
「ルーシャ!待ってくれ!」
ウィラードは弁明をしたいようだが、今更誤魔化したりなんかしなくたっていい。
ルーシャは彼の声を遮り、キッパリと顔を背けた。
「私たちの婚約は、終わりにしましょう。今まであなたに窮屈な思いをさせてしまってごめんなさい。もうあなたの前には現れないようにするから、どうか私を許してね」
うっかり泣いてしまっても、泣き顔を見られないようにと思って顔を背けたのだが、次の瞬間、ウィラードの言葉で思いっきり顔を上げることになった。
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを、世界で一番愛しているんだ……っ!?」
「え?」
そして、冒頭に戻る。
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