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コンプレックス
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教室は室内が一定以上になったら冷房を入れるようになっている。だから教室は涼しいが、廊下はそうはいかない。窓は開いているがじりじりと日差しが降り注ぎ、吹いてくる風は生ぬるくて汗がでて化粧が落ちそうだ。
眉毛が消えたらきっと教室で笑われる。そう思っていたのに、目の前の体育教師の話は終わりそうにない。うんざりする。
「……なので高宮、いいな?」
しょっちゅう体育の時間をさぼっていたのを、突っ込まれているのだ。単位が足りないので、夏休みの間補講に来るようにと言うことらしい。せっかくの夏休みなのにどうして学校になど来ないといけないのだろう。身から出た錆とは言え、不服だ。
「何日来ればいいんですか?」
「お前は他の教科でも補習があるだろう?五日、プールに来なさい。」
確かに他の教科の補習もある。ため息がでそうだ。
「それから……。」
他の生徒に聞こえないように、彼は言う。
「今日の放課後、体育教官室に来なさい。」
「何でですか?」
「他の教師も他の教科ではちゃんと出ているのに、何で体育の時間だけこないのかって気になるらしい。」
本当は違うんだろう。自分の体をまた味わいたいと思っているに違いない。体育教師というのは、体力だけはあるので無駄に求めてくる。あんなに何度も射精をするのを久し振りに見た気がする。
「あー。放課後は担任に呼ばれてて、進路の話するんです。」
「それが終わってから来なさい。」
下心が見え見えだ。だが自分もそれを楽しんでいるところはある。それに担任だって、二人っきりになれば軽いスキンシップをきっとしてくるのだ。おそらく噂を知っていて、彼女を抱きたいと思っているのかもしれない。
「わかりました。でも先生、自分で用意してくださいよ。」
別の所で別の相手と、セックスをするのだろう。
たまに自分が病気ではないかと思う。こんなにセックスばかりしているのが、中毒になっているようだと思うのだ。
教師が離れて、やっと涼しい教室に戻ってきた。そして自分の席に着くと鏡を見る。良かった。眉毛はちゃんとあるようだ。
「梅子。」
珍しく菊子が彼女に話しかけてきた。
「何?どうしたの?」
「相談したいことがあって。」
「相談?どうしたの?あたしに相談するなんて、珍しくない?」
するとチャイムが鳴り、教師がやってきた。それを見て菊子はため息を付く。
「昼、一緒に食べよう。」
「いいよ。」
担任は数学の教師。一瞬梅子の方を見たが、すぐに授業に入る。
教室の片隅で、菊子は梅子と食事をする。菊子の弁当は、割烹の娘とは思えないほどありふれたおかずで、ウィンナーや卵焼きが入っている。
梅子はそれでもそれが手作りなのに羨ましいと思っていた。彼女はいつも自分で用意をしなければ誰もしてくれない。ミートボールも、ポテトサラダも出来合いのモノだった。ご飯だけは炊いていたが、それでも味気ないと思う。
「いっつも思うけど、卵焼きおいしそうね。今日じゃこはいってる?」
「うん。食べる?」
「いいの?」
そう言って一つもらって食べたが、味もありふれた家庭料理だった。菊子のために祖母が特別に作ったものではないのだから。
「で、相談って何?」
「うん。まぁ……昨日ね。」
昨日の雨で、ずぶ濡れになっていたところを知り合いの方が、お店に連れてきてくれて、シャワーを貸してもらい、服まで貸してもらったことを彼女に話す。
「へぇ……。なんていうか、下心あるのかしら。そんなに親切に男の人がするなんて。」
優しくされたことはない。セックスをしていても、みんな梅子を都合のいい穴としか思っていないようだと思っていたから。だから菊子が昨日受けたその親切が、素直に受け取れない。
「あるわけないじゃん。だって私だよ?」
「へ?」
思わずミートボールを落としそうになった。菊子がそんなことをいうと思っていなかったから。
「梅子は知ってるでしょ?ずっと背が伸びてて、小六の時百六十センチあったのよ。電信柱って呼ばれてたの。」
「身長の問題じゃないでしょ?その人に会った訳じゃないからわからないけど、気に入られてるじゃん。いいね。初々しくて。」
まるで百戦錬磨のような口調だ。いや、実際、百戦錬磨なのだろう。まさか体育教師にまで股を開いていると思っていないのだろうから。
「でも……このまま洋服を返すだけじゃ、ちょっと味気ないっていうか……。何かこう……気持ちが収まらないというか。」
そんな菊子を初めて見た。なんだか恋でもしているのだろうかと思うようなそんな感じだった。それは都合がいい。これで菊子が他の男とつき合えば、武生だってこっちを見てくれるかもしれないのだ。
「だったらキスの一つでもしてあげれば?」
「勘弁してよ。真面目に考えてるのに。」
「だったら何でさ、その人にお礼をすることばかり考えてるの?」
「え?」
「今の話の流れじゃ、お世話になったのはその人かもしれないけど、本当はお店にお世話になったんじゃない?」
「……あ……そうか……。そうだったわ。」
服も百合が貸してくれたもの。シャワーだって店のモノだ。制服を乾かしているのも、お店に置いてくれているから。
「だったらお店にお礼するべきよ。」
「確かにそうね。」
だったら何をあげればいいか、自ずと出てくる。
「そうね。ありがとう。何にしようかな。お菓子は夕べ女将さんが渡したのよね。」
「だったらアイスがいいんじゃない?今日も暑いよ。小分けになってるのだったら店の人と食べれるだろうし。」
「そうだね。そうする。」
そう言って菊子はまた弁当に箸をつけた。それを見て梅子は少し笑う。
たぶん、その男というのが好きなのだろう。だからこんなに悩んでいるのだ。それがどんな相手でもかまわない。菊子がその男に入れ込めば、武生はきっとそれを追えないのだ。
チャンスはいくらでもあったはずなのに、武生は菊子に手を出さない。その理由はわからないが、これで武生に近づくチャンスが出来る。
「菊子。」
「何?」
「うまくいくといいね。」
「何か、夕べからずっと女将さんや大将から言われてる。そんなんじゃないのに。」
それにどうにももやっとしているところがあるのだ。蓮のことはまだ何も知らない。もしかしたら彼はもう恋人がいるのかもしれないし、売ろうとして彼女に優しくしているだけかもしれない。
大人なのだから。
こんなに男性経験もなく、すれていない女の気を引かせるのはたぶん簡単なのだろう。騙されたくはない。だから皐月の言ったように、彼に会うのは最後にしよう。
それに音楽に携わりたくなかった。両親の顔がちらつくから。
眉毛が消えたらきっと教室で笑われる。そう思っていたのに、目の前の体育教師の話は終わりそうにない。うんざりする。
「……なので高宮、いいな?」
しょっちゅう体育の時間をさぼっていたのを、突っ込まれているのだ。単位が足りないので、夏休みの間補講に来るようにと言うことらしい。せっかくの夏休みなのにどうして学校になど来ないといけないのだろう。身から出た錆とは言え、不服だ。
「何日来ればいいんですか?」
「お前は他の教科でも補習があるだろう?五日、プールに来なさい。」
確かに他の教科の補習もある。ため息がでそうだ。
「それから……。」
他の生徒に聞こえないように、彼は言う。
「今日の放課後、体育教官室に来なさい。」
「何でですか?」
「他の教師も他の教科ではちゃんと出ているのに、何で体育の時間だけこないのかって気になるらしい。」
本当は違うんだろう。自分の体をまた味わいたいと思っているに違いない。体育教師というのは、体力だけはあるので無駄に求めてくる。あんなに何度も射精をするのを久し振りに見た気がする。
「あー。放課後は担任に呼ばれてて、進路の話するんです。」
「それが終わってから来なさい。」
下心が見え見えだ。だが自分もそれを楽しんでいるところはある。それに担任だって、二人っきりになれば軽いスキンシップをきっとしてくるのだ。おそらく噂を知っていて、彼女を抱きたいと思っているのかもしれない。
「わかりました。でも先生、自分で用意してくださいよ。」
別の所で別の相手と、セックスをするのだろう。
たまに自分が病気ではないかと思う。こんなにセックスばかりしているのが、中毒になっているようだと思うのだ。
教師が離れて、やっと涼しい教室に戻ってきた。そして自分の席に着くと鏡を見る。良かった。眉毛はちゃんとあるようだ。
「梅子。」
珍しく菊子が彼女に話しかけてきた。
「何?どうしたの?」
「相談したいことがあって。」
「相談?どうしたの?あたしに相談するなんて、珍しくない?」
するとチャイムが鳴り、教師がやってきた。それを見て菊子はため息を付く。
「昼、一緒に食べよう。」
「いいよ。」
担任は数学の教師。一瞬梅子の方を見たが、すぐに授業に入る。
教室の片隅で、菊子は梅子と食事をする。菊子の弁当は、割烹の娘とは思えないほどありふれたおかずで、ウィンナーや卵焼きが入っている。
梅子はそれでもそれが手作りなのに羨ましいと思っていた。彼女はいつも自分で用意をしなければ誰もしてくれない。ミートボールも、ポテトサラダも出来合いのモノだった。ご飯だけは炊いていたが、それでも味気ないと思う。
「いっつも思うけど、卵焼きおいしそうね。今日じゃこはいってる?」
「うん。食べる?」
「いいの?」
そう言って一つもらって食べたが、味もありふれた家庭料理だった。菊子のために祖母が特別に作ったものではないのだから。
「で、相談って何?」
「うん。まぁ……昨日ね。」
昨日の雨で、ずぶ濡れになっていたところを知り合いの方が、お店に連れてきてくれて、シャワーを貸してもらい、服まで貸してもらったことを彼女に話す。
「へぇ……。なんていうか、下心あるのかしら。そんなに親切に男の人がするなんて。」
優しくされたことはない。セックスをしていても、みんな梅子を都合のいい穴としか思っていないようだと思っていたから。だから菊子が昨日受けたその親切が、素直に受け取れない。
「あるわけないじゃん。だって私だよ?」
「へ?」
思わずミートボールを落としそうになった。菊子がそんなことをいうと思っていなかったから。
「梅子は知ってるでしょ?ずっと背が伸びてて、小六の時百六十センチあったのよ。電信柱って呼ばれてたの。」
「身長の問題じゃないでしょ?その人に会った訳じゃないからわからないけど、気に入られてるじゃん。いいね。初々しくて。」
まるで百戦錬磨のような口調だ。いや、実際、百戦錬磨なのだろう。まさか体育教師にまで股を開いていると思っていないのだろうから。
「でも……このまま洋服を返すだけじゃ、ちょっと味気ないっていうか……。何かこう……気持ちが収まらないというか。」
そんな菊子を初めて見た。なんだか恋でもしているのだろうかと思うようなそんな感じだった。それは都合がいい。これで菊子が他の男とつき合えば、武生だってこっちを見てくれるかもしれないのだ。
「だったらキスの一つでもしてあげれば?」
「勘弁してよ。真面目に考えてるのに。」
「だったら何でさ、その人にお礼をすることばかり考えてるの?」
「え?」
「今の話の流れじゃ、お世話になったのはその人かもしれないけど、本当はお店にお世話になったんじゃない?」
「……あ……そうか……。そうだったわ。」
服も百合が貸してくれたもの。シャワーだって店のモノだ。制服を乾かしているのも、お店に置いてくれているから。
「だったらお店にお礼するべきよ。」
「確かにそうね。」
だったら何をあげればいいか、自ずと出てくる。
「そうね。ありがとう。何にしようかな。お菓子は夕べ女将さんが渡したのよね。」
「だったらアイスがいいんじゃない?今日も暑いよ。小分けになってるのだったら店の人と食べれるだろうし。」
「そうだね。そうする。」
そう言って菊子はまた弁当に箸をつけた。それを見て梅子は少し笑う。
たぶん、その男というのが好きなのだろう。だからこんなに悩んでいるのだ。それがどんな相手でもかまわない。菊子がその男に入れ込めば、武生はきっとそれを追えないのだ。
チャンスはいくらでもあったはずなのに、武生は菊子に手を出さない。その理由はわからないが、これで武生に近づくチャンスが出来る。
「菊子。」
「何?」
「うまくいくといいね。」
「何か、夕べからずっと女将さんや大将から言われてる。そんなんじゃないのに。」
それにどうにももやっとしているところがあるのだ。蓮のことはまだ何も知らない。もしかしたら彼はもう恋人がいるのかもしれないし、売ろうとして彼女に優しくしているだけかもしれない。
大人なのだから。
こんなに男性経験もなく、すれていない女の気を引かせるのはたぶん簡単なのだろう。騙されたくはない。だから皐月の言ったように、彼に会うのは最後にしよう。
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