夏から始まる

神崎

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祭りのあと

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 夕べはひどい客が多かった。祭りの後はだいたい荒い客が多いのだが、それにしてはひどい。女の子の足を触る、胸を触るというのは日常茶飯事なのだが、アフターに無理矢理連れて行こうとしたり、あまつさえトイレで強姦しようとする輩もいた。
 さすがにつまみ出したが、黒服も今日は使い物になるのだろうか。そう思いながら、蝶子はアパートの家に帰ってきた。すると玄関に男物のスニーカーがあった。
「……ったく……。」
 気が荒れているのに、どうやら娘である梅子は男を連れ込んでいるらしい。家ではするなと言っていたのに、どうして言うことを聞かないのだろう。
 失恋したばかりなのだから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが、それにしては立ち直りが早すぎる。
 そう思っていたときだった。梅子の部屋から声が聞こえた。
「あっ……。またするのぉ?」
「夕べは一回だけだったし、今日は出来るかわからないから出来るときにしておきたいだろう?」
 女も女なら男も男だ。人の家で何をしているんだか。こっちは身を粉にして働いているのに、娘はセックスを楽しんでいるのだ。いらつきが頂点に達する。
「梅子。」
 思い切ってドアを開けた。するとベッドの上で、梅子は男に組み敷かれて、足を広げていた。もう中に入っているらしい。
「家ではしないでって言ったわよね?」
「母さん。閉めてよ!」
 男はこちらをみない。だが見覚えのある男だった。
 ドアを閉めて、母は首を傾げる。そしてバッグから煙草を取り出して、ソファに座った。
 どこで会ったんだっけ。お客さんだっけ。それともAVの時のスタッフか、男優ではないな。あんな普通の人はいない。灰皿に灰を落として、記憶を巡らせていた。そのときふと思い出した。
 一ヶ月ほど前だったか。菊子が学校を何日か休んだ。そのとき担任を名乗る男が、ここに来たのだ。
「そっか……担任……。」
 教師だったとは思わなかった。しかも自分の名前を知らないほど初な男。梅子ほど経験があればズブズブにはまるのは目に見えている。
 まぁいい。教師と生徒がくっつくことはよくあることだ。そういう教師に限って「在学中には手を出していません」と嘘をつくのだし。
 失恋したり、なんだかんだあった梅子の心にすっと入ってきたような男だなのだろう。悪い人ではなさそうだ。
 母は煙草を消すと、自分の部屋でまとめている髪をほどいた。そして浴衣を脱ぐと、下着や部屋着を手にして梅子の部屋に声をかける。
「あたしシャワー浴びてるから、その間に帰って。」
 そう声をかけると、母親はバスルームへ向かった。

 シャワーを浴びてさっぱりして母親が出てくると、そこには一人の男がいた。その隣には梅子がいる。梅子は不安そうな表情だった。対して、男の方は母親を見ると立ち上がり頭を下げる。
「よしてよ。そんな真似されたいわけじゃないんだから。」
「いいえ。悪いことをしたと、自覚があるから頭を下げてるんです。」
「……担任でしょ?一度会ったわよね。」
「はい。」
「教え子に手を出す教師って沢山いるもの。別に驚きはしないわ。コーヒーでも飲む?」
 すると母はキッチンへ向かう。
「名前なんて言ったっけ?」
 やかんに水を入れると火をつけた。そしてカップを用意した。
「吾川です。吾川啓介と言います。」
「吾川……吾川酒店の何か?」
「兄が今父親と一緒にしています。」
 その言葉で動きが止まった。母親が吾川酒店へ行ったとき、熨斗のかかった箱入りの酒に、名前が主人の名前になっていたのを思い出したのだ。
 お祝い事があるのかと聞くと、若旦那は弟に子供が産まれたのだと言っていた。まさか。母は再びその男をみる。
「あなた、既婚者でしょ?」
 その言葉に啓介はぎゅっと拳を握った。
「はい。」
「この間、子供が産まれたって若旦那から聞いたの。お盛んだこと。妻だけじゃ満足できなくて、教え子に手を出すなんてね。」
「お母さん。」
「あんたにお母さんなんて言われる筋合いはないわ。あたしと変わらない年頃のくせに、やっていいことと悪いことの区別も付かないの?バカじゃない?」
 何を言われても仕方ないのだ。悪いことをしているのは自覚があるし、関係を切れなかったのは自分の甘さからだったから。
「……母さん。」
 ずっと黙っていた梅子が、口を開いた。
「梅子。あんたもこの人の家庭を壊したいの?」
「そんなつもりはないわ。」
「だったらやめなさい。ピル飲んでるんでしょ?」
「うん……。」
「そんなつもりで紹介した訳じゃないんだけど……いいから、もう忘れなさい。吾川先生もコーヒー飲んで、この家を出たら忘れてもらえる?」
「お母さん。」
「だから、お母さんって言われる筋合いはないの。」
 お湯が沸いて、火を消した。そしてインスタントのコーヒーの粉を入れる。お湯を注いで、スプーンでかき回す。そして啓介にそのカップを渡した。
「砂糖は?」
「いりません。」
「梅子は自分でなさい。甘さくらい調整して。」
 そういってキッチンを離れると、母親はソファに腰掛けた。こんなアホな娘だったとは思ってもなかったからだ。
「あの……では高宮さん。」
「何かしら。」
「娘さんとこんな関係になったのは、俺の社会的な立場からしても、一般常識からしても人道にはずれていると思います。」
「自覚はあったんだ。」
「はい。」
「だったらどうしてこんなことになったのかしら。」
「……正直、やりきれなかった。」
 その話は梅子も初めて聞く話だった。啓介は震える手を握り、悔しさに耐えていた。
「俺……子供が二人居ます。妻は今、実家で面倒を見てもらってますけど。」
「ってことは、妻のいない隙に連れ込んだってわけね。」
「正直、そうです。」
「呆れた。妻が子供を産んでるときに、夫は教え子とセックスしてたなんてね。」
「……でも……その子供も、その上の子供も俺の子供じゃない。」
「何ですって?」
「妻にはずっと恋人が居ます。大学の時の……留学生でした。」
 自分にはセックスは興味がないふりをしていた。排卵期の時、続けてするだけ。セックスは冒険しない。意味がわからないから。
 そういっていたはずだった。
 だが実際は、隠れてその留学生と会っていた。その留学生はこの国で就職をしたし、たまにここに帰ってくれば一日中でもセックスをしているのだという。
「……たぶん、俺とは出来ない時を選んでた。」
 母は煙草に火をつけて、ため息をついた。
「証拠は?」
「え?」
「DNA鑑定とか出来るでしょ?」
「……してないです。けど、二番目の……この間産まれた子供を見て、確信しました。似てないって。それどころか、この国の子供でもなさそうだって。」
 子供を最初に見たとき、笑顔で可愛いなと口で言ったのが上っ面だった。心の中では「あぁやっぱり」と思い、そしてあとには絶望しかなかったのだ。
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