守るべきモノ

神崎

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嫉妬

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 春樹から連絡があった。伊織は何とか倫子が居ないことを誤魔化して、伊織は居間に戻っていった。そこには泉が膝を抱えて、いつも座っているところに座っている。
 政近に言われたのがショックだったのだろう。友達と言いながらも放置した。それは伊織にも言えることだ。伊織だって政近に何も言えなかった。
「……泉。春樹さんから連絡があったよ。」
「何て言った?」
 ぼそっと泉は聞く。すると伊織は、少し戸惑いながら言う。
「正直には言えなかった。仕事をしていて電話も取れないんじゃないのかなって。」
 倫子の携帯電話は部屋にあるようだ。携帯電話の音が倫子の部屋からひっきりなしに聞こえてくる。
「春樹さんは葬儀まで会場にいるの?」
「一度帰るって言ってた。それまでに倫子が帰ってくればいいのけど……。」
「あの人とどこに行ったの?伊織。家とかわからない?」
「あいつ寮だったんだよな。そのあとはわからないし……。」
「連絡を取っていたわけじゃないの?」
「取ってないよ。わかると思うけど……あまりいい印象じゃないから。お互いに。」
 頭をくしゃくしゃとなでて、泉の隣に座った。泉の顔色は相変わらず悪い。政近に言われたことをまだ根に持っているのだ。
「私、倫子と友達だって思ってたよ。」
「俺もそう見えた。」
「私が悩んでいるときは話を聞いてくれたし、身も蓋もないけれどアドバイスもくれた。けど……倫子のことは私、何も言えなかったの。倫子が昔のこととかを少し話をしてくれたこともあるけれど、本当に物語の中じゃないかって思うくらい強烈で、私は何も言えなかったの。無責任に「大丈夫だよ」なんて言えなかったから。」
「何もわからないのに「大丈夫、心配しないで」なんて言えないよ。相手の感情を逆撫でするだけだと思う。」
「倫子も話すだけ話したかっただけだって言ってた。アドバイスなんか求めていないからって。私……それに甘えていたのかな。」
 すると伊織は泉に言う。
「聞いてもらえるだけですっきりすることもあるよ。特に、女の人はそんな感じに見える。俺だって、昔のことを話したくて話したわけじゃない。ただ聞いて欲しかった。特に泉には。」
「私?」
 ずっと視線を逸らしていた泉が、初めて伊織の方を向いた。
「いつだったかな。ちょっと大きな依頼が来てさ、少し悩んでいたんだ。プレッシャーもあったんだと思う。俺を指名してくれたクライアントだったし、その信用も裏切れないと思ってた。だから思い詰めてて。」
「あぁ。アイデアが詰まってたって言ってたときがあったね。」
 夏頃に依頼されたお菓子屋のロゴのデザインは、評判が良かったので店のロゴをそのまま伊織のデザインになった。店の前を通る度に、そのロゴが目に映って、それが少し自信になる。
「もしこれが倫子に相談していたら、「身の丈にあった仕事をすればいい」ってばっさり切り捨てるだろうし、春樹さんなら「俺には何もわからないな」っていって突き放すと思う。泉はその辺の距離の取り方が上手だと思うよ。」
 春樹も倫子も個人主義なのだ。似たもの同士だから、惹かれ合ったのだろう。だが個人主義だからこそ、とてももろいのだ。春樹は自分のことで手一杯で、倫子は崩れそうになる精神を保とうと仕事に逃げた。それに強引に手をさしのべたのが政近だ。心が悲鳴を上げて、潰れそうだった倫子がすがりつく唯一の手だった。
「今は田島に任せた方がいいのかもしれない。不安ではあるけどね。」
「不安?」
「田島は割と面倒見が良いからね。だけど……。」
「けど?」
 その「だけど」が不安だ。何をしてくるのだろう。
「あいつも個人主義だからね。仕事がやりにくいから、倫子を連れ出したっていうんだったらかまわない。けど……倫子に感情があるなら……。」
「……何かするの?」
 これを言うと、泉は居ても立ってもいられなくなるだろうか。今はそれを言えない。
「強引にでもセックスをするかなと思って。」
「強姦?」
「あいつ、一度捕まってるし。」
「強姦で?」
「あいつはしていないよ。ただ、強姦していたのを観察してたんだ。ネタのために。」
 こんなところまで倫子に似ているのか。倫子には前科はないが、前科になりかけた。それは麻薬のことを知りたいと、バイヤーに近づいていたこともあったからだ。
「AVじゃない。リアルな強姦が見たいって。」
 それが元で描いた漫画は掲載はされたが、すぐにストップになった。リアルすぎたのだ。それが政近を出版社が嫌がる理由でもある。
「気にしなくても良いと思う。友達の形に、決まりなんかないんだから。俺らがしてたことも、田島がしていたこともどちらも正解じゃない。だけど……春樹さんが戻ってくるまでには帰ってこないと、春樹さんにまた余計な心配をさせてしまうね。」
「いつ帰ってくるかだけでもわからないかしら。伊織、誰か知り合いが居ないの?」
「誰か居たかな。」
 思い出すように伊織は少し大学の時のメンツを思い出していた。幸いにも、この間、同じ大学だった人の結婚式があったばかりだ。心当たりを思い出す。
「泉は居ないの?」
「……さすがにあんな感じの人は……。」
 言われてふと思い出した。入れ墨だらけのピアスだらけの見た目はパンクロッカー。しかも倫子よりも強烈な人。
「居た……。」
「誰?」
 入れ墨だけではなく、ピアスを開けたりしていた。舌にピアスを入れたり、体に磁石を埋め込んでいる人。
「……敬太郎。」
「古本屋の人?」
「一応本屋だし、敬太郎なら知っているかも。ちょっと連絡を取ってみるわ。」
 たてられた膝を崩して、泉は自分の部屋に戻っていく。そして机の上にある携帯電話を手にした。
「あ……。」
「どうした?」
 そのあとを伊織もやってきて、泉の手元をのぞき見た。
「敬太郎から連絡があった。」
 そのメッセージを開くと、探していた本があったというメッセージだったことに、泉はがっくりと肩を落とす。
「探してた本があるの?」
「説版になってたけどどうしても読みたいと思ってたんだけど……。」
 今はそれが目的ではない。そう思って敬太郎に電話を入れる。
「もしもし……うん。本、今度取りに行くわ。ありがとう……。あのね。聞きたいことがあるの。」
 敬太郎もまた不思議そうに泉の話を聞いていた。そして目の前にいる女性に、話を持ちかける。
「純さん。田島政近って知ってる?」
 タトゥの見本の冊子を見ながら、古着屋の店主である高柳純は少し笑った。
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