守るべきモノ

神崎

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 駅のそばにある小さな古着屋のようだった。ロリータファッションと言うよりも、ビンテージのスカジャンやアロハシャツがショーウィンドウに並んでいる。テイストが違うとような気がすると思いながら、倫子は入っていく政近の後を追った。
 店内のスピーカーからもやはり外国のオールディーズの古い曲が流れ、布特有のかび臭いような臭いが充満していた。
「いらっしゃい。政近。」
「純さん。悪いね。無理言って。」
「いつもの事じゃない。ん?そっちが言っていた作家先生?」
 倫子は店を入ってすぐの所にあったジッポーやシルバーのブレスレットを見ていたようだが、声をかけられるとすっと頭を下げた。
「小泉です。」
「店長の高柳です。どうも。」
 高柳という名前に、倫子は少し違和感を感じた。あまりあるような名字ではない。鈴音の親族だろうか。
 名刺を受け取ると、また倫子は周りを見ていた。人よりも洋服が気になるようだった。
「純さん。言ってたヤツだけど。」
「ゴシックロリータでしょ?うちはあまり扱わないんだけどね。ほら、うちはどっちかって言うとオールディーズだし。」
「無いことはないんだろ?」
「まぁね。あっちの方もこういうファッションが流行っているし。でも、彼女には似合わないと思うわ。」
 彼女と言われて、倫子の方をみる。チェックのスカートと白いセーター、革のジャンパーとマフラーを巻いている。手の甲には入れ墨も見えるその姿は、ゴシックロリータよりもパンクロッカーだ。
「あいつに着て貰おうとは思わないよ。あぁいうのは細いヤツの方が似合うとは思うけどな……。今度のキャラクターはトランスジャンだーなんだよ。」
「ってことは男の人って事?」
「あぁ。」
「だったら大きい人がモデルになった方が良いわね。だったら彼女はちょうどいい。小泉先生。」
 純は倫子に声をかける。倫子は相変わらず洋服をふらふらと見ているようだった。
「何ですか?」
 マンガ雑誌には使えないが、こういうモノを着たキャラクターを作りたいと思う。だからアロハシャツを見ていたのに急に声をかけられて、倫子はそのシャツを手放す。
「良いのがあった?」
「アロハシャツって色とりどりで良いですね。ジーパンとかを合わせたりするんですか。」
「そう。膝丈のパンツとかね。で、あなた、コスプレをするんでしょう?」
「は?」
 倫子は思わず聞き返してしまった。衣装を見せて欲しいとはいったが、自分で着るとは思っていなかったからだ。
「お前、着ろよ。」
「何の拷問?私が着てどうするのよ。ロリータなんて、二十五を過ぎたらただの痛い人じゃない。」
「あら。過ぎてるの?」
「この間二十六になって。」
「もっと若いと思ったわ。」
「そうですか?よく老けてるといわれますが。」
「二十六でそのファッションなら、若く見えて当然じゃない?その革ジャンはずっと着ているの?」
「祖父のモノです。」
 あまり体に合っていないと思ったのは、男物だからなのだ。そしてよく手入れをされている。革は手入れが難しく、すぐにカビがいったりするのだ。
「お前のじいさん、小さかったのか?」
「昔の人だからこんなモノじゃないかしら。私は背は高い方だし。」
「そうね。」
 確かに倫子がゴシックロリータ・ファッションを着れば、男性が着ているように見えるかもしれない。それが政近の狙いだろう。
「ちょっと待ってくれる?妹に連絡を取りたいの。今日は休みだから大丈夫だと思うんだけど。」
「妹?」
 そう言って純は携帯電話を取り出した。
「あぁ。明日菜?今暇かしら。お店に来れる?うん……。ゴシック・ロリータなの。あなた詳しいでしょう?」
 明日菜の名前に、倫子は少し気が引けた。どうも敵視している節があるからだ。

 すぐに明日菜がやってきて、倫子をみる。そして首を横に振った。
「大きいわよ。ゴシックロリータってもう少し小さい子がするのよ。」
 明日菜も口に蓋は出来ないタイプだ。ずばずばと言ってしまう。
「狙いはそっちなんだよ。明日菜。」
「あんたに呼び捨てにされる覚えはない。姉さん、何なのよ。この人。」
「あたしの古い知り合いよ。常連だし。何とかしてあげなさいよ。明日菜の見立てはいつも完璧じゃない。」
 いわれて悪い気はしない。だが小泉倫子というのがさらに気が進まないのだ。
 伊織が惚れていたであろう女。アンニュイな雰囲気のする美人だ。それなのにゴシックロリータにすると言うのに少し違和感を感じた。
「姉さん。ジャンスカどれ?」
「コレよ。」
「黒はないの?」
「あるけど、何で?」
「ゴシックロリータは黒がベースだから。ピンクとか白は甘ロリになるの。それからもっとレースのあるヤツ。ヘッドセットはリボン付き。コルセットは必須よ。それから……。」
 気が進まないのによくやるな。そう思いながら、選んで貰った服を手にして、倫子に手渡す。
「靴のサイズは?」
「二十四。」
「ロッキンホース・バレリーナがいい。コレ。それから着たら、ウィッグもかぶってくれる?」
「ウィッグも?」
「まさか染めるわけにはいかないでしょう?しかも白髪に。」
 そこまでするのか。そう思いながら倫子は、奥にある試着室へ向かった。その後ろ姿を見て、政近は少し笑う。
「あいつも作品のためなら手段を選ばないって言ってたけど、こういうことは慣れてねぇな。」
「……あの子、容姿はあんな感じだけど、本当は真面目なのね。」
 純はそう言って少し笑う。
「何で?」
「あの革ジャン、とても柔らかだった。とても手入れをされているみたい。大事にしているのよ。」
 すると明日菜もうなづいた。
「革ってすぐカビがいくから。」
「そうなんだな。」
「あんたはもう少し手入れしなさいよ。いつもカビたって言ってきて。」
 今度は政近も笑う。その様子に明日菜が声をかけた。
「あなたは小泉さんの彼氏なの?」
「違うね。今んところは、原作者と作画担当。」
 その言葉に明日菜は少し目を丸くした。
「え?作画?」
「マンガ描いてんだよ。今月の雑誌に載った。」
「もしかして……田島政近?」
「そうだよ。」
 昨日聞いたばかりだった。小泉倫子の新作がマンガ雑誌に掲載されている。そしてその作画をしているのが、伊織の大学の時の同期だと。
「富岡の?」
「何だよ。富岡とも知り合いか。」
「同じ会社の同僚なのよ。」
「ふーん。富岡と同じ業種なんだ。意外だな。」
「何で?」
「お前ならスタイリストとかでもいけそうなのになって思っただけ。」
 その言葉に明日菜は口を尖らせた。
「明日菜はなりたかったのよね。」
 純はそう言って少し笑った。
「……就職氷河期で、どこも落ちたのよ。」
「今はそうでもないんじゃないの?チャンスじゃん。自分のやりたいことをやれないで、我慢するのが自分の生きる道なのか?お前。」
 心に響いた。だが素直になれない。
「偉そうなことを言わないで。人の気も知らないで。」
 そのとき試着室から倫子が現れた。その様子に、三人は言葉を失う。
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