守るべきモノ

神崎

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柑橘

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 ハンバーガーショップから倫子は政近の引きずられるように連れて行かれた。春から始まる二人の合作の漫画の打ち合わせをするためという名目だが、おそらくそれだけではない。そんなことは伊織でもわかる。出来れば、話をすべて聞いていたのだから自分にも倫子の心の穴を埋めてやりたい。なのに政近の強引さでそれをすることは出来なかった。
 残された伊織と真矢は、駅へ向かう。最寄り駅が一緒らしい。もう周りは暗くなって夜といってもいいくらいだ。今日の食事は何にしよう。買い物に行けば時間がとられる。冷蔵庫にあるものでぱっと作ればいい。それに倫子は帰ってくるのかわからないと言っていた。
「……私、そこにちょっと寄っていきます。」
 ずっと黙っていた真矢が立ち止まる。それは酒屋だった。
「酒屋?」
「そこの繁華街に卸すための酒屋みたいで、普通に置いていないお酒もあるんです。」
「俺も寄って良いですか。」
「えぇ。」
 飲まないとやってられないのだろう。それは伊織も同じだ。店内は普通のお店のように暖房はきつくない。先ほどのハンバーガーショップに比べると、ややひんやりしている。店員もエプロンや前掛けをかけているが、その上はダウンのジャンパーを着ている。おそらく酒の品質を考えてだろう。
「どんな酒が好きですか。」
 日本酒を見ていた真矢に声をかけると、真矢は酒を見ながら答えた。
「特にこだわりはないんです。ビールも良いし、焼酎も良いですね。ワインをボトル一本一人であけるようなことはしませんけど。」
 酔うと言うより、酒で腹が満たされていく感じがする。体に水分が溜まる感じがするのだ。
「これがあるんだ……。これにしよう。」
 そういって真矢は一本の日本酒を手にした。そしてレジへ向かう。五合瓶のモノは、一人で飲みきれるサイズだろう。すると伊織も瓶を手にしてレジへ向かう。それはいつか春樹が泉のために買ってきたブドウジュースだった。
「あら。飲めないんですか?」
「普通に飲めます。だけど、家の者に飲めない人がいるから。」
 これなら泉だって好きなのだ。あまり高くもないが、普通のジュースのようにぐびぐび飲めない。味が濃いからだ。
「小泉先生のところの同居されている方は、みんなお互いに気を使ってるんですね。」
「他人ばかりですから……なんか、もう友達とかという枠が無くなった気がします。」
 本当の家族でもこんなに気を使わない。泉と付き合って、別れたのにそのまままだ同居しているのだから。
 店を出ると、また駅へ向かった。
「藤枝さんもその中の一人なんですね。」
「……家の中でそれぞれ役割があります。たぶん、倫子一人ででもやっていけることだろうと思うけど、その役割をすることで倫子は仕事に集中できるし、俺らも助かってます。」
「仕事のためには手段を選ばないんですね。作家ってそういうモノなんですか。」
「田島もそうだったでしょう?」
「え?」
「あいつ、逮捕歴があるんですよ。」
 大学をでてすぐのことだった。反グレのような男たちに近づいて、女を○イプしていたのを見ていたのだ。すぐに男たちは捕まったが、男たちは政近の名前をも出し、政近も共犯であるということになったのだ。
「あいつ、少し歪んでいるところがあるから。なんて言うか……それを何で傍観していたのかって聞けば「エロ漫画で描くから」って言ってました。リアルすぎて没になったみたいですけど。」
「そこまでするモノなんですか。」
「だから少し歪んでいると思うんです。倫子も歪んでいるところがあって、事実を曲げられたから。」
「もしかして……それって……。」
 ネタだと言っていたレ○プされて、放火魔にされた話。それは倫子の実体験だったのだ。だが事実は曲げられたという。どんなに悔しかっただろう。
「田島もずっと誤解をさせたままだったんでしょう?あなたに。」
 双子の姉である真優の子供、真美がずっと政近の子供かもしれないと思っていた。だからそれを放置した政近が無責任だとずっと思っていたのだ。だが今日一言だけ言った政近の言葉が頭の中を駆けめぐっている。
「俺の子供なんてありえねぇ。入れてねぇのに。」
 入れてなければ子供であることはない。それは確かだ。真優は昔から小さい子供が好きだった。だから短大も保育士になるための学校へ行ったのだから。
 しかし、何度か大学の姉のところへ行ったとき、中学生くらいの男の子が部屋にいることがあった。姉は恋人でホストの厚志の弟分を預かっているだけだと言っていたが、真実は絶対違うと思っていた。ベッドの上がいつも乱れていたからだ。
 そんな姉だから政近に何をしようとしていたのかわかる。
「姉はおそらく政近を○イプしようとしたんでしょう。でもそれはしなかった。というか出来なかったんでしょう。私が来たから。」
 真優から「タイミングも間も悪い使えない妹」と言われたのを覚えているから。
「男と女の関係で、あまり幸せな体験をしたことがなかった。それは田島も一緒だ。だから二人はそういったことに少し歪んでいるんです。」
「……。」
「俺もレイ○されたから、田島の気持ちは分からないでもないけど。」
「あなたも?」
「外国にいたんです。親の都合で。そこで友達の母親からレ○プされたのが最初です。」
 忘れかけていたのは、倫子の影響だろうか。少なくとも倫子を抱いたとき、そのことを完全に忘れていた。思い出せば立たなかっただろう。
「あの……富岡さん。」
「どうしました?」
「飲みませんか。今日。」
 自然に真矢はそういった。すると伊織は少し笑って、うなづく。
「今日、みんなには食事を用意できないって言います。知ってました?あの駅前の居酒屋、美味いんですよ。」
「えぇ。外で飲みたいときは、私もそこへ行くこともあるんです。ほら……焼き鳥が、特につくねが美味しくて。」
 帰宅ラッシュのため騒然としているそのホームで、伊織は真矢を守るように電車に乗り込んだ。
 壁を背にして、伊織を見上げる。色黒で、少し髪が茶色い。軽そうな男に見えた。だがその中身はとても繊細で、傷ついている。
 政近も倫子もそしてこの男も恋愛が何なのかわからないまま、性の体験をしたのだ。特に政近には顔向けが出来ない。自分の姉がしたことをずっと政近のせいにしていたのだから。
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