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一室
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気合いが入っていない店舗はすぐにわかる。掃除が行き届いていない。面倒だからとコーヒー豆もより分けていないので、粒がバラバラだ。デザートの見た目も悪い。
「マニュアルあるんだから、その通りにしてくれねぇと困るんだよ。ここの店舗だけ味が違う何か言われたら困るだろ?」
店長すら気が抜けたようなヤツだ。礼二は確かに女関係にだらしないようだが、仕事はきっちりする人でその辺は心配がない。大和は電車の中で資料を広げてみていた。他の店舗は売り上げが微増していたり落ちたりしている中、「book cafe」は売り上げが良くなっている。二人しかいない店舗にしては好成績だ。
礼二も泉も仕事には手を抜かないからだろう。それを聞かせてやりたいと思う。人事部に行って監査をしてもらうしかないか。そう思いながら、資料をしまい電車を降りた。そして「book cafe」へ向かう。
マスコミはさすがに引いているが、客は多いようだ。一階にはこの間のトークショーで来た作家の作品のポスターとともにサインがある。中には倫子のものもあった。そういえばこの本を買っていないな。そう思って二階にあがる前に、本を手にした。おそらくこのデザインをしたのは伊織だろう。伊織のものはすぐにわかる。とともに少しいらっとした。だが本に罪はない。そう思いながらカウンターへ向かう。
本を手にして二階に上がっていった。するとコーヒーの良い香りが店内中に広がっている。さっきの店とは段違いだ。
「いらっしゃいませ。あ……赤塚さん。」
そこには礼二の姿があった。しまった。泉が休憩中なのか。そう思いながらカウンターへ向かう。
「よう。調子はどうだ。」
「悪くないですね。昨年比百十です。」
「そこまで上がるところも珍しいよな。ブレンドくれよ。」
「社割りきかないですよ。」
「知ってるよ。それくらい別にグダグダいわねぇし。」
そういって礼二はオーダーを通すと、コーヒー豆の入った瓶を取り出す。
「××街の店舗に行ってきてさ。」
「あぁ。クレームですか。」
「そう。店員の態度が悪いんだと。それからコーヒーの味が落ちたって。他の店舗と明らかに味が違うって言われてさ、様子を見に行ったよ。」
「あそこは上田さんでしたかね。」
「悪いヤツじゃねぇんだけどな。こう、がんっと怒れないんだよな。バイトにすらバカにされて、悔しくねぇのかな。あいつ。」
「研修の時に一緒になりましたよ。ずいぶん勉強熱心だという印象だったのに。」
「自分に力があっても、他のヤツに伝えられなかったら意味ねぇな。ここよりも人数も多いんだから、もっと言えるヤツじゃねぇと。」
「赤塚さんは店長経験は?」
「あるよ。一号店って知ってる?」
「あぁ。温泉街の所にあった……。」
「あそこで今、開発部の部長をしているヤツが店長をしてたあとに、俺が入ったんだよ。今は誰だっけ。」
「女性ですよね。」
「あぁ。おっぱいが大きい女な。」
コーヒー豆ががりがりと音を立てる。そしてペーパーフィルターにセットした。
「赤塚さんは大きいの好きですか?」
「別に。大きさにゃこだわりはねぇな。感度だろ?」
「……泉も大きくはない。」
その言葉に大和は驚いたように礼二をみた。しかし礼二は表情を変えずに、コーヒーをいつものように淹れる。
「あいつ、言ったのか?」
「……えぇ。気の迷いで、もう二度はないと言って謝ってました。」
「あんた、それで別れないのか?」
「別に。これからないという言葉を信じますから。」
いらついたように舌打ちをした。店内にはあまり客はいない。こんな話を他に漏らしたくなかったので、都合が良いかもしれない。
「あいつ、良い女だよな。ちょっとマゾっ気があるのもそそられるし。」
「……。」
「シェアしねえ?」
「しません。比べられたくもないし。」
ドリッパーをよけてカップを用意する。そしてコーヒーを注いだ。
「ブレンドです。」
「悪いな。」
伝票を置いて、礼二はまた片づけを始める。
「前から思ってたことを言って良いか?」
「なんですか。」
「川村店長さ。阿川が何も知らないから自分色に染めたいと思っているだけだろ?」
「……。」
「ここに来たときもバリスタの資格を持っただけで来ただけだって言ってた。接客もコーヒーも一からあんたが教えたんだろ?だからそっちも自分色に染めたいだけだ。」
「違いますよ。」
「いいや。そうだと思う。そんなのは「好き」なんてもんじゃない。ただの独占欲だろ?」
コーヒーを口に入れる。段違いのコーヒーだ。これを同じ値段でぞんざいに入れたものが売られていると思うと、腹が立つ。
「独占はしたい。出来ればあなたに近づいて欲しくないと思っている。」
「……。」
「そして泉は俺を選んだんです。だからもう近づかないでください。」
「そっかな。」
「は?」
「あいつ、俺の名前を呼んでたし。あいつ、イク度にぎゅっと体を抱きしめるんだ。それがすげぇ可愛い……。」
ケトルを思わずシンクに激しく置いた。その音で、テーブル席の客がこちらを一瞬みる。
「すいません。ちょっと手が滑ってしまって……。」
そういうと客はまた自分たちの世界に入ってしまう。そして礼二はじろっと大和をみる。
「喧嘩を売ってるんですか?」
「売ってるよ。」
すると大和は礼二を見上げていった。
「お前、あの泉の元彼から泉を奪ったんだろ?同じことをしたら、同じことをされると思わないのか。」
「……。」
「これからも誘うから。」
そのとき階下から泉が戻ってきた。そして大和をみて少し笑う。
「赤塚さん。お疲れさまです。」
「よう。」
「さぼりですか?」
「違うよ。クレームがあったから店舗の様子を見に行ったんだよ。」
「あぁ××街ですか?」
「知ってんのか?」
「伊織から聞きました。ネットで荒れてるよって。」
「あー。そういう情報って、そっちの方が早いよなぁ。」
エプロンをつけて、泉はカウンターの中にはいる。そしてオーダーをチェックしているようだった。
「オーダーは今は入ってないんですね。」
「うん。仕込みをお願いして良いかな。俺が戻ってきたら配送も来るだろうし。」
「そうですね。何が残ってますか?」
そういって二人は裏のキッチンへ行ってしまう。それについて行きたいと思うが、今は無理だ。だがチャンスはある。そう思いながらまたコーヒーに口を付けた。
「マニュアルあるんだから、その通りにしてくれねぇと困るんだよ。ここの店舗だけ味が違う何か言われたら困るだろ?」
店長すら気が抜けたようなヤツだ。礼二は確かに女関係にだらしないようだが、仕事はきっちりする人でその辺は心配がない。大和は電車の中で資料を広げてみていた。他の店舗は売り上げが微増していたり落ちたりしている中、「book cafe」は売り上げが良くなっている。二人しかいない店舗にしては好成績だ。
礼二も泉も仕事には手を抜かないからだろう。それを聞かせてやりたいと思う。人事部に行って監査をしてもらうしかないか。そう思いながら、資料をしまい電車を降りた。そして「book cafe」へ向かう。
マスコミはさすがに引いているが、客は多いようだ。一階にはこの間のトークショーで来た作家の作品のポスターとともにサインがある。中には倫子のものもあった。そういえばこの本を買っていないな。そう思って二階にあがる前に、本を手にした。おそらくこのデザインをしたのは伊織だろう。伊織のものはすぐにわかる。とともに少しいらっとした。だが本に罪はない。そう思いながらカウンターへ向かう。
本を手にして二階に上がっていった。するとコーヒーの良い香りが店内中に広がっている。さっきの店とは段違いだ。
「いらっしゃいませ。あ……赤塚さん。」
そこには礼二の姿があった。しまった。泉が休憩中なのか。そう思いながらカウンターへ向かう。
「よう。調子はどうだ。」
「悪くないですね。昨年比百十です。」
「そこまで上がるところも珍しいよな。ブレンドくれよ。」
「社割りきかないですよ。」
「知ってるよ。それくらい別にグダグダいわねぇし。」
そういって礼二はオーダーを通すと、コーヒー豆の入った瓶を取り出す。
「××街の店舗に行ってきてさ。」
「あぁ。クレームですか。」
「そう。店員の態度が悪いんだと。それからコーヒーの味が落ちたって。他の店舗と明らかに味が違うって言われてさ、様子を見に行ったよ。」
「あそこは上田さんでしたかね。」
「悪いヤツじゃねぇんだけどな。こう、がんっと怒れないんだよな。バイトにすらバカにされて、悔しくねぇのかな。あいつ。」
「研修の時に一緒になりましたよ。ずいぶん勉強熱心だという印象だったのに。」
「自分に力があっても、他のヤツに伝えられなかったら意味ねぇな。ここよりも人数も多いんだから、もっと言えるヤツじゃねぇと。」
「赤塚さんは店長経験は?」
「あるよ。一号店って知ってる?」
「あぁ。温泉街の所にあった……。」
「あそこで今、開発部の部長をしているヤツが店長をしてたあとに、俺が入ったんだよ。今は誰だっけ。」
「女性ですよね。」
「あぁ。おっぱいが大きい女な。」
コーヒー豆ががりがりと音を立てる。そしてペーパーフィルターにセットした。
「赤塚さんは大きいの好きですか?」
「別に。大きさにゃこだわりはねぇな。感度だろ?」
「……泉も大きくはない。」
その言葉に大和は驚いたように礼二をみた。しかし礼二は表情を変えずに、コーヒーをいつものように淹れる。
「あいつ、言ったのか?」
「……えぇ。気の迷いで、もう二度はないと言って謝ってました。」
「あんた、それで別れないのか?」
「別に。これからないという言葉を信じますから。」
いらついたように舌打ちをした。店内にはあまり客はいない。こんな話を他に漏らしたくなかったので、都合が良いかもしれない。
「あいつ、良い女だよな。ちょっとマゾっ気があるのもそそられるし。」
「……。」
「シェアしねえ?」
「しません。比べられたくもないし。」
ドリッパーをよけてカップを用意する。そしてコーヒーを注いだ。
「ブレンドです。」
「悪いな。」
伝票を置いて、礼二はまた片づけを始める。
「前から思ってたことを言って良いか?」
「なんですか。」
「川村店長さ。阿川が何も知らないから自分色に染めたいと思っているだけだろ?」
「……。」
「ここに来たときもバリスタの資格を持っただけで来ただけだって言ってた。接客もコーヒーも一からあんたが教えたんだろ?だからそっちも自分色に染めたいだけだ。」
「違いますよ。」
「いいや。そうだと思う。そんなのは「好き」なんてもんじゃない。ただの独占欲だろ?」
コーヒーを口に入れる。段違いのコーヒーだ。これを同じ値段でぞんざいに入れたものが売られていると思うと、腹が立つ。
「独占はしたい。出来ればあなたに近づいて欲しくないと思っている。」
「……。」
「そして泉は俺を選んだんです。だからもう近づかないでください。」
「そっかな。」
「は?」
「あいつ、俺の名前を呼んでたし。あいつ、イク度にぎゅっと体を抱きしめるんだ。それがすげぇ可愛い……。」
ケトルを思わずシンクに激しく置いた。その音で、テーブル席の客がこちらを一瞬みる。
「すいません。ちょっと手が滑ってしまって……。」
そういうと客はまた自分たちの世界に入ってしまう。そして礼二はじろっと大和をみる。
「喧嘩を売ってるんですか?」
「売ってるよ。」
すると大和は礼二を見上げていった。
「お前、あの泉の元彼から泉を奪ったんだろ?同じことをしたら、同じことをされると思わないのか。」
「……。」
「これからも誘うから。」
そのとき階下から泉が戻ってきた。そして大和をみて少し笑う。
「赤塚さん。お疲れさまです。」
「よう。」
「さぼりですか?」
「違うよ。クレームがあったから店舗の様子を見に行ったんだよ。」
「あぁ××街ですか?」
「知ってんのか?」
「伊織から聞きました。ネットで荒れてるよって。」
「あー。そういう情報って、そっちの方が早いよなぁ。」
エプロンをつけて、泉はカウンターの中にはいる。そしてオーダーをチェックしているようだった。
「オーダーは今は入ってないんですね。」
「うん。仕込みをお願いして良いかな。俺が戻ってきたら配送も来るだろうし。」
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