149 / 203
番外編1
エマ・ネイリー15
しおりを挟む
「セイル?」
「トアスト!久しぶりだな」
セイルとトアストは同級生の友人で、騎士団の同期でもある。
「戻ったのか、こっちに」
「いや、研修でこちらに滞在しているんだ」
「そうだったのか、まあ研修に呼ばれるってことは、そろそろ王都勤務じゃないか」
「そうだといいんだがな」
王都の騎士団に研修に呼ばれるということは名誉なことである。優秀な者を呼び、いずれは責任ある立場で、地方勤務になるかもしれないが、それまでは王都勤務になる可能性は高い。
「今、どこにいるんだったっけ?」
「今は東騎士団だよ」
「ということは、東の修道院の近くか?」
「ああ、そうだが」
「近付くなよ、あそこに変なのが入れられているからな」
「変なの?だが、東の修道院は、傷付けられた者が多いはずだが?」
「まあ、そうだな。その思惑もあったのかもしれない。傷付けられた者の中に、無意識に何度も傷付けた者がいるとすれば?」
「悪意を持っていないから入れられているのか?」
「ああ、気持ちの悪い女が入れられている。俺が言っているんだから、相手が誰か分かるだろう?」
「まさか…」
トアスト・ミックは伯爵家の同じ次男だが、妃殿下の護衛騎士である。言動は陽気であるため、チャラチャラしているように見えるが、妃殿下に忠誠を誓い、聞きたくなくとも、色々王太子夫妻のことを知ることになってしまった人物。
あと二人の護衛騎士はマッカスとグレーナは、生真面目であるため、トアストが緩衝材となっている。
妃殿下に一度だけ闇討ちしてきましょうかと、三人で本気で言ったことがあるが、亡くなった後のことは分からないが、死ればそこで終わりになるんでしょう?と言われて、そうですねと皆で深く頷いた。
妃殿下が関わっているので、王太子殿下のことも漏らすことはないが、愚か者たちのことは口を噤む気はない。
妃殿下は尊敬するなという方が難しい存在だ。
言語のことは勿論だが、公務もしっかりこなされている。侍女や護衛騎士とは、あまりべったりな関係ではないのに、誕生日にはさらっとプレゼントを贈られて、グレーナは毎日、その髪留めで髪を結んでいる。翻訳だって、いくら賢くとも時間は掛かるのに、寝る間も惜しんでやっておられるのだ。
「そのまさかだよ、内容までは言えないけどな。関わるなよ、名前はエマ・ネイリー。絶対に戻って来れなくなる」
「えっ」
セイルは何度か会っていたので、エマ・ネイリーの名前は本人から自己紹介されて、聞いていた。
「知っているのか?」
「親しいわけじゃないが、話したことは何度かある」
偶然、会えば話し掛けて来るようになり、立ち話を何度かしたことがある。これからは不幸な目に遭って欲しくないと思うのは悪いことではなかったはずだ。
「嘘だろう…今日は十八時までなんだが、家に来ないか、そこで話そう。今日は泊ればいい」
「ああ…ありがとう」
「迎えに行く、待っていてくれ」
セイルは腕は自身と同等で、人望も自分よりもあるのに、男爵家ということで地方勤務になってしまった。本人は不満を持ってはいなかったが、王都勤務に憧れるのは騎士として当たり前だろう。だからこそ愚かな者に関わって欲しくないのに、会っていたとは…関わらせないようにしなくてはいけない。
確かに外出できる東の修道院となれば、可能性はある。なぜもっと厳しい修道院に送らなかったのかと思ったが、傷付けられた者の中に反対側の者が混ざっていたら、反省するのではないかというのが、護衛騎士たちの見解だった。
エマ・ネイリーは無自覚、無意識なのだ。だから人の振り見て我が振り直せということだろうと思った。
勤務が終わり、迎えに行くと、セイルは考え込んでいるような表情を浮かべていた。まさか、何かあるのか?惚れたということはないだろう?
「トアスト!久しぶりだな」
セイルとトアストは同級生の友人で、騎士団の同期でもある。
「戻ったのか、こっちに」
「いや、研修でこちらに滞在しているんだ」
「そうだったのか、まあ研修に呼ばれるってことは、そろそろ王都勤務じゃないか」
「そうだといいんだがな」
王都の騎士団に研修に呼ばれるということは名誉なことである。優秀な者を呼び、いずれは責任ある立場で、地方勤務になるかもしれないが、それまでは王都勤務になる可能性は高い。
「今、どこにいるんだったっけ?」
「今は東騎士団だよ」
「ということは、東の修道院の近くか?」
「ああ、そうだが」
「近付くなよ、あそこに変なのが入れられているからな」
「変なの?だが、東の修道院は、傷付けられた者が多いはずだが?」
「まあ、そうだな。その思惑もあったのかもしれない。傷付けられた者の中に、無意識に何度も傷付けた者がいるとすれば?」
「悪意を持っていないから入れられているのか?」
「ああ、気持ちの悪い女が入れられている。俺が言っているんだから、相手が誰か分かるだろう?」
「まさか…」
トアスト・ミックは伯爵家の同じ次男だが、妃殿下の護衛騎士である。言動は陽気であるため、チャラチャラしているように見えるが、妃殿下に忠誠を誓い、聞きたくなくとも、色々王太子夫妻のことを知ることになってしまった人物。
あと二人の護衛騎士はマッカスとグレーナは、生真面目であるため、トアストが緩衝材となっている。
妃殿下に一度だけ闇討ちしてきましょうかと、三人で本気で言ったことがあるが、亡くなった後のことは分からないが、死ればそこで終わりになるんでしょう?と言われて、そうですねと皆で深く頷いた。
妃殿下が関わっているので、王太子殿下のことも漏らすことはないが、愚か者たちのことは口を噤む気はない。
妃殿下は尊敬するなという方が難しい存在だ。
言語のことは勿論だが、公務もしっかりこなされている。侍女や護衛騎士とは、あまりべったりな関係ではないのに、誕生日にはさらっとプレゼントを贈られて、グレーナは毎日、その髪留めで髪を結んでいる。翻訳だって、いくら賢くとも時間は掛かるのに、寝る間も惜しんでやっておられるのだ。
「そのまさかだよ、内容までは言えないけどな。関わるなよ、名前はエマ・ネイリー。絶対に戻って来れなくなる」
「えっ」
セイルは何度か会っていたので、エマ・ネイリーの名前は本人から自己紹介されて、聞いていた。
「知っているのか?」
「親しいわけじゃないが、話したことは何度かある」
偶然、会えば話し掛けて来るようになり、立ち話を何度かしたことがある。これからは不幸な目に遭って欲しくないと思うのは悪いことではなかったはずだ。
「嘘だろう…今日は十八時までなんだが、家に来ないか、そこで話そう。今日は泊ればいい」
「ああ…ありがとう」
「迎えに行く、待っていてくれ」
セイルは腕は自身と同等で、人望も自分よりもあるのに、男爵家ということで地方勤務になってしまった。本人は不満を持ってはいなかったが、王都勤務に憧れるのは騎士として当たり前だろう。だからこそ愚かな者に関わって欲しくないのに、会っていたとは…関わらせないようにしなくてはいけない。
確かに外出できる東の修道院となれば、可能性はある。なぜもっと厳しい修道院に送らなかったのかと思ったが、傷付けられた者の中に反対側の者が混ざっていたら、反省するのではないかというのが、護衛騎士たちの見解だった。
エマ・ネイリーは無自覚、無意識なのだ。だから人の振り見て我が振り直せということだろうと思った。
勤務が終わり、迎えに行くと、セイルは考え込んでいるような表情を浮かべていた。まさか、何かあるのか?惚れたということはないだろう?
514
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
私が生きていたことは秘密にしてください
月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。
見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。
「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる