【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ

文字の大きさ
157 / 203
番外編1

エマ・ネイリー23

しおりを挟む
「…クリコット様」
「エマ・ネイリー、いい加減にしなさいと言ったはずです。セイル・サノー、下がっていただいて結構です」
「は!」

 引き続きトアストとグレーナは残るため、セイルは一礼して、部屋から退出した。

「あっ、待」
「彼は既婚者です」

 立ち上がろうとしたエマだったが、黙って下を向いた。

「あなたは修道院にいたはずですが、何をしているのですか!」

 クリコットは怒鳴りつけるも、エマは下を向いたまま黙っている。

「さすがに言葉にするのは恥ずかしいですか?好意を持たれていると勘違いして、修道院を勝手に抜け出して、ここまでやって来た。そうですね?」

 それでもまだエマは顔を上げず、黙り込んでいる。

「彼が付き纏われては困ると思い、特別に入れましたが、あなたは本来は王宮には入れないことになっています」
「な、なぜですか」

 ようやく顔を上げたが、先程よりも近くで見るその顔にクリコットはギョッとした。ドレスも似合っていないが、今日は化粧も濃い。ドレスに合わせたのか、ピンク色の口紅が協調されており、テカテカと輝いていた。

「ご両親から聞いたはずです。もう忘れたのですか」
「…あ」

 母が王家の招待から外されたと言っていたことをようやく思い出した。殺される可能性があるとも言っていたが、あっさり通され、殺されることはなく、やっぱり嘘だったと考えていた。

「ノワンナ語の検定にも落ちたそうですね、過去最低点だったそうです。最低点というのもおかしいですね、一問も正解していないのですから」
「そんなはずありません」
「いいえ、事実です」
「確かに難しかったですが、答えをきちんと書きました」
「学園の試験ではないのですよ?既に極めた者が受けるのが検定です。挨拶や御礼などなかったでしょう?」

 簡単な挨拶などの問題はない。そんなもの出来て当たり前の検定であり、省かれているため、一問も正解を出せなかったと思われる。

「はい、でも答えました」
「ええ、その全てが間違いだったそうです。ノワンナ語ではなく、トワイ語で書かれた部分もあったそうです。実技も全て間違っており、共に零点だったそうですよ」
「でも、頷いて聞かれていました」
「聞くのが仕事ですから、当たり前でしょう。出来ないということを証明出来ただけです。それで、あなたは東の修道院に戻れなくなりました。トアスト、ご両親を呼んで来てもらえますか」
「は!」
「両親…また修道院に戻るのですか」

 すぐさま鋭い顔をした両親が足早にやって来て、エマを見付けて叫んだ。

「「エマっ!!」」

 母親は今にも殴り付けそうなほどの憎しみに満ちた表情をしていたが、クリコットはまずは座ってくださいと促した。

「怒りは後で十分にどうぞ。手続きをしてしまいましょう」
「はい、申し訳ございません」
「エマ、お前はネイリー家から除籍する。これが書類だ」

 父は抱えていた紙に、さらさらとサインをした。

「え…どうして。ちょっと勘違いした、いいえ、騙されたの!」
「隣の部屋で全て聞いていた、サノー殿に申し訳ないことをしたというのに!何が騙されただ!」

 エマが待たされている間に、ネイリー夫妻は王宮に呼ばれて、隣の部屋で恥ずかしい思いで、全てを聞いていた。

 ネイリー夫妻はエマが修道院からいなくなり、母は修道院へ、父は捜索をし、その後にソフィアの兄・ファンダー伯爵令息から、騎士に勝手に懸想して、騎士団に会いに来るかもしれないと聞き、ずっと邸で待機していたのだ。

 そして、退出した際にセイルにご迷惑をお掛けしましたと謝罪をし、大変ですねと声を掛けられていた。

「西の修道院に行ってもらいます。もう二度と会うことはないでしょう」
「西…嫌よ、絶対」
「さすがにあなたでも西の修道院は知っていましたか」
「監獄だって…」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

処理中です...