【完結】愛とは呼ばせない

番外編１

エマ・ネイリー２６

　エマ・ネイリーが放った、たった一言。

　いや、その後も図々しい考えを持っていたが、傷付けたことを、私は理解させなければならない。反省をして生きて貰わなくてはならない。そう強く思った。

「そして、あなたがいた修道院は家族、婚約者、夫、愛人、友人などに傷付けられた方ばかりでした。知っていましたか？」
「皆が？」
「はい、愛人にあなたは愛されていないのだから、私に従いなさいと、下女のように扱われていた者もいます。皆、人に傷付けられた女性でした」
「そうだったのですか…」

　皆、ここは幸せな場所だと言っていた、怯えたりする人はいたけど、不満を漏らしているような人は見る限りいなかった。

「逆の立場のあなたが入ることで、自分のしたことを反省することが出来るのではないかと思っていたのです」
「…逆」
「ソフィア・ファンダー。親しくしていましたね？」
「…はい」
「あなたのしたことは、彼女の元夫の愛人と同じことなんですよ」

　ソフィア・ハシーの離縁の話は有名であった。情報をもたらしたソフィアの兄・ノイス・ファンダーからも、ソフィアがエマに自身の話をしたことを聞き、自覚があるかないかで、似ていると思った。

「そんな…それは違います」
「同じです。彼女の元夫はすぐに子どもが出来なかったことで、何度か関係を持っていた、平民を愛人にしました。そして、愛人とばかり子作りをして、子どもが出来て、その子をソフィア様の子としました。愛人をメイドとして邸で雇い、お前が産まないから愛人が産んでくれたと言い、愛人も調子に乗り、ソフィアを蔑むようになったそうです。あなたも妃殿下に同じことを思いましたね？レベッカ様が側妃になった際に、妃殿下は子が産めないのかと言いましたものね」
「エマっ！なんてことを！」
「お母様、落ち着いてください」
「申し訳ございません、どうしても許せなくて、失礼しました」

　母は今までで一番と言っていいほど、顔を真っ赤にして、唇を噛みしめ、フーフーという声が漏れている。

　控えているトアストとグレーナも初めて聞く話で、既に怒りで握っていた拳をさらに力を込めて、何とか耐えていた。

「離縁したソフィア様は子は自分の子ではないと証明し、修道院に入られました。その後、その愛人はどうなったと思いますか」
「…捨て、られたのでしょうか」
「元夫共々、ですけどね。二人は平民となって、貧乏暮らし。愛人は愛人で良かったのに、どうしてこんなことになったのかと嘆いているそうです。自業自得だと思いませんか？」
「はい、思います」
「ですが、あなたも思いませんでしたか？どうしてこんなことになったのかと」
「…」
「あなたは妃殿下がいる前で殿下に言いましたね、"普段は側近としてお側に、そして夜は愛妾として側におります"と。側近をメイドに変えて、愛妾を愛人に変えれば、同じでしょう？どうして気付かないのですか？ソフィア様は苦しんでいたでしょう？」
「…は、い」
「ならば、傷付けていないなどと、どうして思えるのでしょうか！」
「申し訳、ありませんでした」

　エマは頭を下げ、そのまま顔が上げられなかった。

　ソフィアはそれでも好きだったから、死のうと思ったこともあると言っていた、今笑えているのが不思議なくらいだと、泣きそうな笑顔で言っていた。もしかしたら、妃殿下もそうだったのかもしれない。

　私は妃殿下の前で、愛妾になると言った、妻の前で言ったのだ。

　殿下に愛されている、既に側妃がいたのだからと、妃殿下の気持ちなど考えず、ずっと傷付けていたのだ。私は傷付けられた側ではなく、傷付けた側だったのだ。

　私は間違っていた。

「あなたは無自覚に努力を踏み付け、傷付けたのです。修道院で反省して過ごしなさい。それがあなたが出来ることです」
「エマ、顔を上げて、返事をしなさい！」
「…は、い。修道院に入ります。申し訳ございませんでした」