【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ

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番外編2

クオン・パトラー9

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「はい、ご挨拶に伺いたいとおっしゃっておりますので、また改めて参ります」
『似ていないんだったか?前にサリー様が私に似たかったと、姪がぶちぶち言って来るのだが、どう答えたらいいか分からないと文に書いてあった(ビアロ語)』
「はい、サリー様に似ていないことが、唯一の欠点と自分でおっしゃっていますね」

 サネリは母・ジュリアに似ており、美人なのだが、サリーに似たかったと常々言っており、ジュリアも私だってサリー様に似せれるものなら似せたかったわよと言い合っている。おかげでミーラ王子、セリー王女に会う度に羨ましいと零している。

 兄であるサクトはレオとレベッカどちらにも似ているが、ミーラ王子を見てからは偽物感が強いとサネリに言われている。

『ははは!会うのが楽しみだな(ビアロ語)』
「聡明で、愉快な方です」

 真顔になったベルア氏はそっと辞書の方を見詰めながら言った。あの辞書は形見分けとして貰ったと言っていた、サリー様のビアロ語の辞書だろう。

『身の引き方としては最高なのかもしれないが、あの笑顔をもう見れないと思うと、苦しい気持ちになる(ビアロ語)』
「はい、私もあの顔を覚えている内に死にたいとまで思ってしまいました」

 今、クオンとルアースの思い出してるのは、慈愛に満ちた妃殿下ではなく、いつもの飾らないサリー様の笑顔だろう。

 そして、『ミミとビビ』の発売日には各国で売り切れが続出した。

 サリー王太子妃の最初で最後の小説、前代未聞の作者自身の翻訳というよりは、全ての言語の原作者となり、サリー様の最期の偉業だと話題になった。

 我が国の言語はないのかと、問い合わせも殺到し、王太子殿下もルアース・ベルア氏の口添えも必要ないほどに、着々と発売が決まっていった。

 故人であるがゆえの売れ行きだろうと思っている者もいたが、それでは理由にならないほど売れた。フィラビ・ロエンに依頼をしたいという者もいたが、素性は分からないとすれば、詮索する者もいたようだが、見付けることは出来ていない。

 しかも発売日当日、フィラビ・ロエンから、ミーラ王子殿下、レオ・ペルガメント、サリー財団、ルアース・ベルア宛てに、サリーの肖像画が届けられた。

 四者は驚き、ミーラ王子は子どものように泣き、レオはサリーが帰って来たとむせび泣き、レベッカはいつものお喋りは鳴りを潜め、静かに膝をついて泣き、ルアース・ベルアは肖像画をぎゅっと抱きしめたそうだ。

 小説の絵とは違い、まるで生きているような細い線で、繊細に描かれた、瑞々しいサリーの肖像画は皆を励まし続けた。

 そして、クオンは二十四ヶ国語全ての発売は数年で達成することが出来た。

 その最後の発売日当日、出版社のクオン・パトラー宛てにフィラビ・ロエンから、五枚目のサリー様の肖像画が届き、そこにはありがとうと書かれており、あの日の悲しさしかない涙ではなく、嬉しい涙がただただ流れた。

 その絵は出版社の入り口に飾られることになり、生きていたら絶対にサリー様に怒られるであろう場所だったが、誰よりも何よりも相応しい絵だと思った。

 クオンは空にこう問いかけた。

「サリー様、あなたはここまで見越していたのでしょうか」

 クオン・パトラーはその後も、編集を続け、『コルボリット』の完結を見届けてから、退職をし、晩年を過ごした。亡くなる際、いい人生だったとしみじみ思い、薄っすら微笑みながら亡くなった。


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お読みいただきありがとうございます。

これにてクオン編、終了です。
次は手紙を受け取った側を書いていきたいと思っています。

よろしくお願いいたします。
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