【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ

文字の大きさ
183 / 203
番外編2

レオ・ペルガメント3

しおりを挟む
 ペルガメント前侯爵夫妻。娘は王太子妃で、誇り高く、優遇されるような立場だっただろう。

 だが、サリーは王太子妃になってから、両親に関わらないようになった。挨拶以外は母国語であるトワイ語で話すことはない。

 二人は理解が出来ないため、憤慨する。『私の両親だというのなら、このくらい分かるでしょう?』という、サリーならではの仕返しである。

 私はその様子を笑いを堪えて見るのが楽しみになった。

 最初はサリーが結婚後の初めての夜会で、サリーが両親に話し掛けられている時のことだった。不機嫌な表情はしていないが、話し出した言葉に驚いた。

『何か用事かしら?(ノワンナ語)』
「な!母国語で話しなさい」
「そうよ!」
『あなた方が私に合わせてくれてもいいのではないですか?娘なのに、出来ないのですか?(アペラ語)』

 話すこともないという意思表示なのだろうと、理解した。なんてかっこいい妹なのだろう。両親は何を言われているのか分からず、分かる者は不仲なのだと察する。

 ジェシカもレオの隣で、堪え切れない悪い笑みを浮かべていた。

 両親が怒って去って行くと、ジェシカとサリーの側に向かった。

『妃殿下、お疲れ様でございます。笑顔を堪えるのが大変でした(カベリ語)』
『最高でした(カベリ語)』
『何を言っても無駄でしょう?出来ることは相手にしないことくらいしかないもの、邸で面倒なことになったら、ごめんなさいね(カベリ語)』
『そんなことは考えなくていい。最高だった!答えていないわけでもないのに、娘にすら何を言われているのか分からない親なんて…親なのか?(カベリ語)』

 レオも両親に行かされた留学のおかげで、ノワンナ語とカベリ語は堪能である。アペラ語も少しは出来る。ジェシカもノワンナ語とカベリ語だけは少し分かる。

『自分たちが勉強しろと言ったくせにね?(カベリ語)』
『両親のおかげでこうなっているのに、気付かないんだよな(カベリ語)』

 両親は自分たちの与えたことで、起こっているとは思っていない。

 サリーの金庫の中にあった両親の暴言は、聞いたことがあるものも多く、私がいない間も同じような言葉を発していたことがよく分かった。

「お前は勉強だけしてればいいんだ」
「黙って従いなさい」
「王太子妃になれるのは私のおかげなんだ、感謝しろ」
「頭が良いことしか取り柄がないんだから」

 両親は私たちによく出来た、偉いと言ったとしても、やっぱり私たちの子どもだからと付く。

 私たちが住まいを移して数年後、まず父が足を悪くし、母が腰を悪くした。

 戻って来いと言い出したが、戻る条件は爵位を譲って隠居すること。こちらは全く困っていないので、数年揉めたが、両陛下も口添えをしてくれて、領地に下がらせることが出来た。

 自分の思うように動くことが出来なくなって、使用人に当たるようになったが、世話してくれる者がいなくなってもいいのかと言えば、渋々黙った。いくらお金があっても、世話して貰って当たり前の二人は何も出来ない。

 サリーに命が分け与えられるなら、この二人の余命を奪ってやるのが、一番いいと思ったくらいだが、しぶとく生きている。

「久し振りですね、どうですか調子は」
「どうもこうもない、足が痛くてかなわん」
「そうよ、何て不自由な体なのかしら」

 あっさり死ぬような病気はなく、長患いは天罰じゃないかと思っている。

「無意味に生きているだけいいじゃないですか」
「何だと!」
「あなたもサリーも育てて貰った恩を忘れて!」
「はあ…変わらないんですね、本当に。サリーはあなたたちを潰そうと思えば潰せたんですよ」
「何を言っている!」
「あの子に何が出来るって言うのよ」

 両親はサリーが本気で潰そうとすれば簡単に潰せただろう。だが、私のことも、ペルガメント侯爵家のことを考えて、そこまではしなかっただけだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

処理中です...