【完結】誠意を見せることのなかった彼

野村にれ

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中編

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 婚約が白紙になって、一年半が経ち、やっと愛するローズリと婚約をした。

 そのことでサリーヌはどうなったのかという噂は再び起き、ローズリは友人だと言っていたのに、やっぱりそういうことだったのかとも言われたが、白紙になってから親しくなったのだと、友人たちが口添えをしてくれ、婚約が白紙になった後でクリストファーは違う愛を育んだのだという筋書きが通るようになったのだ。

 ようやく待ち望んでいた時代の訪れだった。

 ローズリはそそっかしいところがあるが、色んなことに興味を持つ子爵令嬢だった。一緒にいる時間はあまり長くは取れなかったが、守るためにも時間が必要だということに彼女も根気強く待ってくれた。

 結婚を三ヶ月後に控える頃、ある舞台が話題になった。チケットがなかなか取れず、立見席も出るほどの御賑わいだ。

 男には自分を想ってくれる婚約者がいたが、どうしても婚約者との将来を考えられず、自分が全て悪いと認めた上で婚約を白紙にした。そしてそれから、一年半が経つ頃、男には愛する人が出来た。愛する人の顔には事故で額から鼻に大きな傷があり、私では相応しくないと言ったが、男の熱意に二人は想い合うようになり、周りも祝福をしたというものであった。

 しかし舞台は後半から一変する。実は男はずる賢く、愛する人とは婚約を白紙にする前から、密かに逢瀬を重ね、醜聞を避けるために、すぐに婚約をせず、一年半を待って婚約をし、白紙にした婚約者は留学したと言っていたが、婚約を解消されたショックで既に自殺していた。しかし、そんなことが公になれば愛する人と婚約が出来なくなるために、元婚約者の家族を脅して嘘を付かせ、新しい婚約者も私たちの愛のためだから仕方ないと、全て知っていての演技だったというものだった。

 まるでどこかで聞いたことのある内容、さらに配役の名前も問題であった。男はクリスファー、女はローズ。まさに結婚を控えた二人に酷似していたのだ。

 原作は小説でこちらも女性たちの間では話題にはなっていたが、舞台で一気に火が付き、流行に敏感な貴族も平民も熱狂した。何の落ち度もない女性の死の上で成り立っているのに、悪びれることもない後味の悪さ、二人を最低だと非難するまでがセットとなり、話題はどんどん膨らんでいく。

 そして元婚約者の名前は一切出ていないが、クリストファーとローズリのことだと貴族は思った。

 ルブール侯爵家はサリーヌは生きていると周り話しており、表立って事実かと聞く人はいない。ランド伯爵家は知らぬ存ぜぬを通したが、多くの女性は元婚約者に同情し、クリスファーとローズを非難した。あくまで物語の感想なので、何も罪に問うことはできない。

 恥を忍んで、元婚約者の兄に事実ではないと言って貰えないかと打診するも、事実じゃないかと、どこで手に入れたのか分からないが、クリストファーとローズリとの手紙や、逢瀬の目撃情報を投げつけられ、恨んでいいといった口で、許して欲しいなどと言えるはずもなかった。

 おかげでルブール侯爵側は白紙になる前から逢瀬を重ねていたことは事実だと、周りに伝えたのだろう。友人たちも嘘だったのかと、二度と話し掛けないで欲しいと言われて離れて行ってしまった。

 ついに両親にも知られることとなった。母親はサリーヌを気に入っていたため、ローズリをあまり好意的には思っていなかったが、父親は色々あったが、良かったではないかと婚約を喜んでくれていたのに、こちらも一変した。母親はショックで倒れて、寝込んでしまったらしい。

「なぜあんな嘘を付いた?」
「交流を深めたのは白紙に戻してからです」
「以前から手紙のやり取り、二人でベンチに座ったりしていたそうじゃないか」
「それは友人としてです」
「どうやって証明できる!!私たちはお前が別に好きな人が出来たわけではない、どうしても結婚は出来ないというから、頭を下げたんだ!お前の小賢しい思惑に加担したわけじゃない!アベリーも離縁すると言っていたが、あちらがそんなことはしなくていいと言ってくれたおかげで何とかなったんだぞ」

 アベリーはクリストファーの姉で、伯爵家に嫁いでいたが、クリストファーのやったことが許せず、離縁を申し出たそうだ。

「姉さんが…でも、不貞行為をしたわけではありません。節度を持った関係だったんです。本当なんです」
「それも証明できない、我々は不貞を隠して白紙に戻して、慰謝料も払わなかった最低の家だ」

 慰謝料は結局あれから受け取って貰えていない。

「家ぐるみで行ったと思われても仕方ない。我々はサリーヌ嬢に謝罪しながら、慎ましく生きていく」
「サリーヌは生きています」
「だからなんだ?貴族社会で生きて居れなくさせたのはお前だろう!!」
「彼女ならすぐに婚約者が、もしかしたら既に結婚して幸せにしているかもしれないじゃないですか」
「どこで?誰とだ?どこにもいないじゃないか!」

 そうだ、サリーヌ・ルブールは消えたのだ。
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