【完結】あの子の代わり

野村にれ

文字の大きさ
15 / 73

両親への提案1

しおりを挟む
「子どもなんて、あの時の不快感が甦って、考えるだけでも嫌だった。でもベルアンジュとなら、嬉しい気持ちになれた」
「本当に後継者を降りるのですか?」
「ああ、そのつもりだよ。私は他の誰かと結婚して、子どもを作るなんて…もう考えられない。親戚に譲るつもりだよ」

 ベルアンジュもマリクワン侯爵家には、子どもがルイフォードしかいないことを知っている。

「あなたの本当に未来になるのですか?」
「ああ…だが、君が嫌ならそれでいい」
「でも、ご両親は?ベルーナはどうなるのです?」
「それについては説得する」
「誰も傷付かず、皆が納得するのならば、私は了承します」

 感傷的になっているとしても、誰も傷付かず、皆が納得するなんてことが、出来るはずはないという意味を込めて伝えた。

「分かった」

 ルイフォードは、両親に先触れを出して、話をしに向かい、ベルーナはそのままホテルに滞在することになった。

 人として間違っているのも、分かっている。

 ベルアンジュとの子どもが欲しいという気持ちも勿論あるが、ベルアンジュの希望になって、一日でも長く生きたい、生きていたいと思って欲しかった。

 そのためなら何でもしたい。

 私は上手くいってもいかなくても、両親に全てを話そうと決めた。ルイフォードとは、別の邸に住む両親。

「何かあったのか?」
「どうしたの?」

 当たり前の様に別のソファに座る、両親であるマリックスとオリーラ。隣にいるのはパーティーの時だけだろう。

「お二人は後継者が必要だと思っているのですよね?」
「ああ、勿論だ。血を繋ぐことが貴族の義務だからな」
「ベルアンジュはNN病です」
「っな」
「本当なの?」

 ルイフォードに興味もなければ、ベルアンジュにも興味のなさそうだった両親も驚きを隠せなかった。

「私は最期まで婚約者でいようと思っています」
「それはいいが…その後は新しい人を迎えなければならないぞ」
「それは出来ません」
「それは通らない。後継者が必要だとお前も言っただろう?」
「私は13歳の時、従姉のシュリーに襲われそうになりました」
「何ですって!」

 シュリーは母の妹の娘である。当時、17歳であった。

「使用人が気付いてくれたことで、助かりましたが…女性が苦手になりました。パーソナルスペースに入るだけで、体が構えてしまう。当時は怖いという感情でしたが、成長してからは嫌悪に変わりました」
「どうして言わなかったの…」
「二人に話して、蔑まれたら、お前にも隙があったなどと言われたら、耐えられないと思ったからです」

 用事がある時にしか関わりのない、両親に13歳だったこともあり、恥ずかしい気持ちもあったが、寄り添ってくれるとも思えなかった。

「そんなこと言うわけないじゃない!シュリーは許さないわ」

 シュリーは一度嫁いだが、不貞で出戻っている。

「私にとって、二人は信用の置ける相手ではなかった。使用人に事情を話して、黙っていてもらいました。お金で手引きをした使用人は追い出しましたが」
「それはトラウマになったかもしれないが、後継者とは話が別だ」
「同じです。私は後継者は降ります。養子でも迎えてください」
「っな」
「ただ、一つ提案があります」
「言ってみなさい」

 ルイフォードは馬鹿ではない、何か意味があるのだろうと思った。

「元婚約者、ベルーナが体外受精で、ベルアンジュと私の子どもを産みたいと言ってくれています」
「はあ?」
「体外受精ですって?」

 マリックスは流石に予想すら出来なかった。てっきり、結婚だけはさせて欲しいとでも言うのかと思った。

「そんなこと許可できない」
「ベルアンジュは死ぬことを待っているだけの状態です。したいことも、会いたい人も、欲しい物も、食べたい物もない。何もないのです。私は…彼女に生きていて良かったと思って欲しいのです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵家に不要な者を追い出した後のこと

mios
恋愛
「さあ、侯爵家に関係のない方は出て行ってくださる?」 父の死後、すぐに私は後妻とその娘を追い出した。

元婚約者は戻らない

基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。 人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。 カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。 そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。 見目は良いが気の強いナユリーナ。 彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。 二話完結+余談

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

『紅茶の香りが消えた午後に』

柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。 けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。 誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。

花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果

藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」 結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。 アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

処理中です...