【完結】あの子の代わり

まだお花畑に住む家族

「まだ帰って来ないの？」
「先触れを出しても、こちらで治療するとしか返事がないんだ」

　マリクワン侯爵からも、そちらに任せることは出来ないと手紙を貰い、何も言うことは出来なくなっていた。

「マリクワン侯爵家に楯突くことは出来ない」
「はあ…まだ検査が出来ていないって言うの？もうどうなっているのよ！そんなに時間が掛かるなんて聞いていないわ」

　キャリーヌはまだ妊娠が出来るのかを、調べていると思い込んでいる。

「余り興奮するな、発作が出たらどうするんだ」
「既成事実でも作られたら、どうするのよ！」
「結婚するのだから、それはそれでいいじゃないか」
「初めては私でしょう？お姉様はお古なの！」

　まだ子どもを産ませて、キャリーヌが結婚が出来ると思っており、まさかベルーナが代わりに産もうとしているなどと知る由もない。

「マリクワン侯爵家にも行ったけど、入れて貰えなかったのよ」

　キャリーヌが大人しくしているはずもなく、ベルアンジュには知らされていないが、押し掛けようとして、追い返されている。

　大騒ぎしても、意味の分からないことも言っても、牢に入れられれていないのは、ベルアンジュの妹だからに他ならない。

　警告が届かなかったのも、それどころではなかったからである。そして、マリクワン侯爵から手紙が届いてしまった。

「行ったのか？」
「だっていずれ私の邸になるのよ？早い内に使用人には、私を敬う様にしなくてはいけないでしょう？」
「それはそうだが、会えなかったのか？いつもどうやって会っていたんだ？」

　気に入られていることは信じているが、会えていないキャリーヌは、父にどう答えるべきか悩んだ。

「いつもは外で会っているから」
「じゃあ、そうすればいいだろう」
「そうだけど、お姉様を連れ戻しに行ったのよ！だから、邸に行ったの！きっとお姉様が邪魔しているんだわ」
「何だと！？何て言われたんだ？」
「侯爵の命令で入れられないって言われたわ」
「は？マリクワン侯爵に目を付けられたら、どうするんだ！」

　マリクワン侯爵は、合理的で、慈悲など与えてくれる人ではない。

　それなのに、キャリーヌの要望が通ると思っているのは、キャリーヌの言葉を、ルイフォードにも言われたのにも関わらず、信じ続けているからである。

「大丈夫よ、侯爵だって私に合えば納得してくれるわ」
「侯爵はそんな甘い方ではない。もう邸に行ってはいけないよ、いいね？」
「でも、お姉様はどうするのよ！」

　キャリーヌの考えによると、自分の嫁ぎ先に、ベルアンジュが居座っているという感覚である。

「どうせ結婚するのだから、その頃には連絡があるだろう」
「結婚式なんてしなくていいって、ちゃんと言ってくれた？」
「私は会えていない」
「もう！ちゃんと言って置いてよ、お姉様のドレスなんて無駄なんだから、そうよ！私のドレスを作って貰いましょうよ」
「ルイフォード様には外で会っているんだろう？その時に、キャリーヌが直接言った方がいいんじゃないか…私たちはあまり好かれていないんだ」

　ルイフォードに、帰れと怒鳴られたことが尾を引いている。

「で、でもお父様にも伝えて置いて欲しいの」
「分かったよ、手紙を書いておこう」
「やった！ありがとう！よろしくね！私、明日はパーティーだから、ルイフォード様も来るかもしれないわ」

　キャリーヌは会えていないが、明日のパーティーに来るかもしれないから、その時に話して置こうと思った。

「そうか、ベルーナもラオルス公爵令息と婚約したそうだからな。安泰だな」
「え？ラオルス公爵令息？」
「ああ、自慢されてしまったが、うちだって負けてはいない」
「へえ…」

　バスチャン伯爵家に援助をして貰っているのは知っているが、面白くなかった。