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墓参り2
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「トーリ、娘のことは聞いていますか?」
「流行り病で、お亡くなりになられたと伺っています」
「はい、最初はただの風邪だと言われていたのですが、感染症でした」
何年か置きに、変異型というべきか、悪化する感染症が流行ることがある。その際に、運悪く命を落とす者もいる。ルイフォードが子どもの頃にもあったので、その時かもしれないと思った。
「医者から覚悟するように言われてはいましたが、ベルアンジュ様は娘の側にいてくれました。おかげで寂しい思いをすることなく、亡くなりました」
「そうでしたか…」
ベルアンジュならそうするだろうことは、容易に想像が出来る。
「トーリが流行り病だと分かる前は、直接会っていましたが、その後は窓越しに話をしにやって来て、娘の希望だったのです」
そう言いながら、あの日々を思い出して、カイリはまた涙を零した。
「こんなことを聞くのは失礼ですが、ベルアンジュ様は、お寂しくなく、亡くなられたのでしょうか」
「そう、思います。我が邸で皆に、可愛がっていた猫にも見守られて、彼女らしく穏やかに亡くなりました」
「そう、そうですか…それは、ようございました、本当に…そうですか」
今日、一番の涙の量を流して、噛み締めながら微笑んだ。
「実のご両親は、いらしたのですか?」
含みのある聞き方に、おそらく知っているのか、何か察しているのだろうとルイフォードは思った。
「いいえ」
「そうですか…ご両親が裁かれて本当によかったと思っています」
「ご存知でしたか」
「はい」
カイリは頷いて、強く真剣なまなざしであった。
「ベルアンジュが話したことはありましたか?」
「いいえ、ベルアンジュ様には何度聞いても、話してはくれませんでした」
「ということは、何か、おかしいとは感じてはらしたのですね?」
訊ねるということは、それなりの理由がある。
「はい、幼い頃から自分のことは自分でやっており、世話をされている感じもなく、そういう教育方針ならいいのです。でも、お兄さんや妹さんは服一つも全く違いますし、出掛ける際も一緒には行っていないようでしたから。でもベルアンジュ様は、諦めているようでした…」
ルイフォードも、諦めているベルアンジュを見続けて来た。ずっとそうだったのだから、そう簡単には拭えなかっただろう。
「目に見えるような怪我でもしていたら、いくら子爵家でも、訴えていました。ですが、暴力は受けていないようでしたので」
「それでも…」
「はい、私もそう思っていました。でもベルアンジュ様は、私たちの立場が悪くなったら嫌だからと」
クリスミー家は子爵家ではあるが、名前だけ伯爵家のソアリ伯爵家よりも、資産も人望もある。高いのは爵位だけだろう。
「ですが、一番の理由は、トーリに会えなくなる方が辛いからと…」
「…あ」
問題は子爵家が盾突くことではない、ソアリ伯爵家の異常さの方である。
「おそらく、私たちが口を出すのは簡単ですが、もう付き合うなと言われる可能性が高いことを、ベルアンジュ様は分かっていたのだと思います。おそらく、誰よりも家族のことを分かっていたでしょうから」
「確かに、ベルアンジュならそう思いそうですね」
ベルアンジュが自分の境遇の改善と、友人との縁のどちらかしか選べないなら、トーリを選ぶだろう。
「それでも何か出来たのではないかと、ずっと気になっておりました。トーリが亡くなって、関わりがなくなってしまい、でも今なら何か出来るのではないかと、半年くらいして会いに伺ったのです。そうしたら…」
話しながら、カイリは涙を拭っていたハンカチをきつく握りしめた。
「ベルアンジュ様は、半年間も物置小屋で生活させられていたのです」
「は?」
ルイフォードは初めて聞く話だった。
「流行り病で、お亡くなりになられたと伺っています」
「はい、最初はただの風邪だと言われていたのですが、感染症でした」
何年か置きに、変異型というべきか、悪化する感染症が流行ることがある。その際に、運悪く命を落とす者もいる。ルイフォードが子どもの頃にもあったので、その時かもしれないと思った。
「医者から覚悟するように言われてはいましたが、ベルアンジュ様は娘の側にいてくれました。おかげで寂しい思いをすることなく、亡くなりました」
「そうでしたか…」
ベルアンジュならそうするだろうことは、容易に想像が出来る。
「トーリが流行り病だと分かる前は、直接会っていましたが、その後は窓越しに話をしにやって来て、娘の希望だったのです」
そう言いながら、あの日々を思い出して、カイリはまた涙を零した。
「こんなことを聞くのは失礼ですが、ベルアンジュ様は、お寂しくなく、亡くなられたのでしょうか」
「そう、思います。我が邸で皆に、可愛がっていた猫にも見守られて、彼女らしく穏やかに亡くなりました」
「そう、そうですか…それは、ようございました、本当に…そうですか」
今日、一番の涙の量を流して、噛み締めながら微笑んだ。
「実のご両親は、いらしたのですか?」
含みのある聞き方に、おそらく知っているのか、何か察しているのだろうとルイフォードは思った。
「いいえ」
「そうですか…ご両親が裁かれて本当によかったと思っています」
「ご存知でしたか」
「はい」
カイリは頷いて、強く真剣なまなざしであった。
「ベルアンジュが話したことはありましたか?」
「いいえ、ベルアンジュ様には何度聞いても、話してはくれませんでした」
「ということは、何か、おかしいとは感じてはらしたのですね?」
訊ねるということは、それなりの理由がある。
「はい、幼い頃から自分のことは自分でやっており、世話をされている感じもなく、そういう教育方針ならいいのです。でも、お兄さんや妹さんは服一つも全く違いますし、出掛ける際も一緒には行っていないようでしたから。でもベルアンジュ様は、諦めているようでした…」
ルイフォードも、諦めているベルアンジュを見続けて来た。ずっとそうだったのだから、そう簡単には拭えなかっただろう。
「目に見えるような怪我でもしていたら、いくら子爵家でも、訴えていました。ですが、暴力は受けていないようでしたので」
「それでも…」
「はい、私もそう思っていました。でもベルアンジュ様は、私たちの立場が悪くなったら嫌だからと」
クリスミー家は子爵家ではあるが、名前だけ伯爵家のソアリ伯爵家よりも、資産も人望もある。高いのは爵位だけだろう。
「ですが、一番の理由は、トーリに会えなくなる方が辛いからと…」
「…あ」
問題は子爵家が盾突くことではない、ソアリ伯爵家の異常さの方である。
「おそらく、私たちが口を出すのは簡単ですが、もう付き合うなと言われる可能性が高いことを、ベルアンジュ様は分かっていたのだと思います。おそらく、誰よりも家族のことを分かっていたでしょうから」
「確かに、ベルアンジュならそう思いそうですね」
ベルアンジュが自分の境遇の改善と、友人との縁のどちらかしか選べないなら、トーリを選ぶだろう。
「それでも何か出来たのではないかと、ずっと気になっておりました。トーリが亡くなって、関わりがなくなってしまい、でも今なら何か出来るのではないかと、半年くらいして会いに伺ったのです。そうしたら…」
話しながら、カイリは涙を拭っていたハンカチをきつく握りしめた。
「ベルアンジュ様は、半年間も物置小屋で生活させられていたのです」
「は?」
ルイフォードは初めて聞く話だった。
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