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墓参り3
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「娘が流行り病でで亡くなったものですから、感染しているかもしれないという理由だったそうです」
「それでも、半年って…」
しばらく隔離するなら分かる、それでも物置小屋はやり過ぎだ。
「はい、物置小屋からベルアンジュ様が出て来て、戦慄しました。ですので、私も夫も抗議しました。もっと早くに会いに行っていればと、でも関係を悪くすれば、私たちも会えなくなると思ってしまい…」
「講義はされたのですね」
カイリの言葉は、抗議した人がいたにも関わらず、変わることはなかったということを証明していた。
「はい、勿論です。ソアリ伯爵は念のためだ、持病のあるキャリーヌ嬢に感染したらどうする?食事も与えているし、風呂にも入れていると、もう戻すから、もう二度とここには来るなと言われてしまって…私たちも娘のせいということもあって、それが精一杯でした」
「いえ、夫人も娘さんも何も悪くはない」
感染を知る前に会っていたのは、知らなかったのだから仕方ない。その後は窓越しに会っていたなら、可能性は低く、半年も隔離する必要はどう考えてもない。
「医者にもおそらく診せてもいない…」
「えっ?」
「あそこの侍医はベルアンジュを一切診ていない」
「何てことを」
あまりに当たり前で、確認するまでもないために、医師には診せていると思っていたカイリは、ただ驚いた。
「NN病も別の医師が診ており、ベルアンジュが病院を受診していたんです。しかもおそらくソアリ伯爵家は、今でもベルアンジュがNN病で亡くなったことも、墓の場所も知らない」
「っななな…あんな可愛い子に!もう人ではないわ…」
カイリは唇をきつく噛み締めて、目を吊り上げていた。
「あの時も、行かなければ、物置小屋に入れられたままだったかもしれないと思っていたのです…」
「可能性はありますね。ベルアンジュは、どう言っていたのですか?」
「ベルアンジュ様は、トーリのことだけを考えられたから、良かったとおっしゃられていました…」
ベルアンジュなら言いそうなことではある。辛いよりも、諦めていた家族なら、静かに友人の死という悲しみと、一人で向き合い続けたのかもしれない。
「それからは手紙を貰ったりして、返事を書いていたのですが、ある日から届かなくなって」
「まさか…」
「調べたわけではありませんが…」
ソアリ伯爵家側が止めていたのか、ベルアンジュも返事が来なくなれば、迷惑だと思って、書かなくなってしまっていた可能性もある。
「あの子の代わりと言うのは、烏滸がましいですが、あの子の分も生きて欲しいと願っていました…それなのに…病気のことは恨んでも仕方ないのは分かっていますが、どうしても…」
「私も同じ気持ちです」
虐待や詐欺行為のことは、恨む相手がいるが、病気に関しては治療薬がないことで医師を恨むことは出来ない、病気を恨むしかない。
ベルアンジュはきっと自分で良かったと言うだろうが、どうしてベルアンジュだったのかと嘆くしかない。
「長々とお時間を取っていただき、申し訳ございません」
「いいえ、有意義な時間でした。前子爵の腰が良くなれば、一緒にベルアンジュの一周忌に来てもらうことは出来ませんか?」
「え、ですが」
家族でもない子爵家の前夫妻が行ってもいいものなのかと、カイリは困惑した。
「きっとベルアンジュも喜ぶと思います。その際に手紙もお渡しします」
「ありがとうございます。夫も早く腰を治させて、必ず伺います」
「では、日程は領地の方へお送りします。でも、無理はされないでくださいね」
ルイフォードは、二人にベルアンジュのことを聞きたい、聞かせたい。そして、子どもたちに会って貰いたいと思った。
「それでも、半年って…」
しばらく隔離するなら分かる、それでも物置小屋はやり過ぎだ。
「はい、物置小屋からベルアンジュ様が出て来て、戦慄しました。ですので、私も夫も抗議しました。もっと早くに会いに行っていればと、でも関係を悪くすれば、私たちも会えなくなると思ってしまい…」
「講義はされたのですね」
カイリの言葉は、抗議した人がいたにも関わらず、変わることはなかったということを証明していた。
「はい、勿論です。ソアリ伯爵は念のためだ、持病のあるキャリーヌ嬢に感染したらどうする?食事も与えているし、風呂にも入れていると、もう戻すから、もう二度とここには来るなと言われてしまって…私たちも娘のせいということもあって、それが精一杯でした」
「いえ、夫人も娘さんも何も悪くはない」
感染を知る前に会っていたのは、知らなかったのだから仕方ない。その後は窓越しに会っていたなら、可能性は低く、半年も隔離する必要はどう考えてもない。
「医者にもおそらく診せてもいない…」
「えっ?」
「あそこの侍医はベルアンジュを一切診ていない」
「何てことを」
あまりに当たり前で、確認するまでもないために、医師には診せていると思っていたカイリは、ただ驚いた。
「NN病も別の医師が診ており、ベルアンジュが病院を受診していたんです。しかもおそらくソアリ伯爵家は、今でもベルアンジュがNN病で亡くなったことも、墓の場所も知らない」
「っななな…あんな可愛い子に!もう人ではないわ…」
カイリは唇をきつく噛み締めて、目を吊り上げていた。
「あの時も、行かなければ、物置小屋に入れられたままだったかもしれないと思っていたのです…」
「可能性はありますね。ベルアンジュは、どう言っていたのですか?」
「ベルアンジュ様は、トーリのことだけを考えられたから、良かったとおっしゃられていました…」
ベルアンジュなら言いそうなことではある。辛いよりも、諦めていた家族なら、静かに友人の死という悲しみと、一人で向き合い続けたのかもしれない。
「それからは手紙を貰ったりして、返事を書いていたのですが、ある日から届かなくなって」
「まさか…」
「調べたわけではありませんが…」
ソアリ伯爵家側が止めていたのか、ベルアンジュも返事が来なくなれば、迷惑だと思って、書かなくなってしまっていた可能性もある。
「あの子の代わりと言うのは、烏滸がましいですが、あの子の分も生きて欲しいと願っていました…それなのに…病気のことは恨んでも仕方ないのは分かっていますが、どうしても…」
「私も同じ気持ちです」
虐待や詐欺行為のことは、恨む相手がいるが、病気に関しては治療薬がないことで医師を恨むことは出来ない、病気を恨むしかない。
ベルアンジュはきっと自分で良かったと言うだろうが、どうしてベルアンジュだったのかと嘆くしかない。
「長々とお時間を取っていただき、申し訳ございません」
「いいえ、有意義な時間でした。前子爵の腰が良くなれば、一緒にベルアンジュの一周忌に来てもらうことは出来ませんか?」
「え、ですが」
家族でもない子爵家の前夫妻が行ってもいいものなのかと、カイリは困惑した。
「きっとベルアンジュも喜ぶと思います。その際に手紙もお渡しします」
「ありがとうございます。夫も早く腰を治させて、必ず伺います」
「では、日程は領地の方へお送りします。でも、無理はされないでくださいね」
ルイフォードは、二人にベルアンジュのことを聞きたい、聞かせたい。そして、子どもたちに会って貰いたいと思った。
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