62 / 73
一周忌2
しおりを挟む
その様子に気付いたラオルス公爵はルイフォードに訊ねた。
「あちらは、クリスミー前子爵夫妻だよな?」
なぜ呼ばれているのか疑問に思っていたが、二人の様子にベルアンジュを想っていることはすぐに分かった。ゆえに教会でわざわざ聞くのも失礼だと思っていたが、ようやく訪ねることにした。
「はい、亡くなった娘さんが、ベルアンジュの唯一の友人だったそうで」
「そうだったのか」
それならば、この場に私よりも相応しいだろうと、ラオルス公爵は思った。
「夫人に墓地で偶然お会いしたのです。私もベルアンジュから友人のことは聞いていたのですが、お名前を聞いていなかったもので…」
ラオルス公爵は確かに葬儀には、二人は来ていなかったことを思い出していた。
ルイフォードは今更にはなるが、ラオルス公爵にもカイリから聞いたベルアンジュの話をしておこうと思った。
「娘さんは、子どもの頃に流行り病で亡くなられたそうなのですが、ベルアンジュがお見舞いに行っていたことで、感染を疑われて、ソアリ伯爵は、ベルアンジュを半年間も物置小屋で生活させていたそうです」
「な!」
「なんですって!」
特に声を上げたのはラオルス公爵夫人であった。ランバートが母上、落ち着いてくださいと宥めている。
「おそらく、医者にも診せてもいないでしょう。クリスミー前子爵夫妻もさすがに抗議を行ったそうです。それで出られたようですが、お二人が行かなかったら、半年以上になっていたかもしれないのです」
「ふざけやがって!」
ラオルス公爵は顔を歪ませて、苦々しい気持ちになった。
「ベルアンジュはお二人に迷惑が掛かる、友人に会えなくなることを危惧して、自分の境遇を話さなかったのではないかとおっしゃっていました」
「それは、悔しいことだけど、気持ちは分かるわ」
「夫人も裁かれて良かったとおっしゃっていました」
「ああ…」
怒り狂った夫人を落ち着かせるためにも、ラオルス公爵たちが移動をして、ルイフォードはクリスミー前子爵夫妻に声を掛けた。
「是非、息子たちに会ってやってください」
「ありがとうございます」
「こんな、こんな、嬉しいことはありません」
ルイフォードは再び、まるでベルアンジュの父親と母親だと思った。
「リオードとジュリと言います。ベルアンジュが名付けました」
「いい名前ですね」
「ええ、トーリはウリちゃんに対抗して、ベルアンジュ様をアンジュちゃんと呼んでおりました」
「そうでしたか」
「二人とも、笑った顔が幼い頃のベルアンジュ様によく似てらっしゃるわ」
二人はリオードとジュリをあやしながら、微笑み合っていた。それは孫を可愛がる祖父母のようでもあった。
だが、楽しそうにしながらも、嬉し涙なのか、ベルアンジュがいない悲しい涙なのか分からないが、二人は目尻に涙を溜めていた。
実際の祖父母とは認めることはないソアリ伯爵家には勿論、一周忌を知らせることはなかった。彼らはベルアンジュのことも考えることもないのだろう。
いまだにソアリ伯爵家の考えていることが理解が出来ない。
そして、リオードとジュリも交えて、ベルアンジュを真に想う人だけの限られた人数ではあるが、茶話会は賑やかな時間となった。クリスミー前子爵夫妻は、部屋に飾られたベルアンジュの写真を、食い入るようにハンカチを片手に見つめていた。
茶話会が終わり、クリスミー前子爵夫妻には、約束通りにベルアンジュからの手紙を手渡した。
「ありがとうございます」
「ああ、ベルアンジュ様の字だわ…やっぱり、とても綺麗な字ね」
カイリはトーマスの受け取った手紙のベルアンジュ字を撫でながら、話した。
「ああ、そうだな」
宛名だけで二人は涙ぐんでおり、ルイフォードはベルアンジュにとても喜んでいるよと、語りかけていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
いつものごとく思ったより長くなってしまっておりますが、
そろそろ終わりに向かって書いております。
そして、息抜きとして書いていた作品を、
本日17時に公開するようにしております。
この作品とは全く違いギャグのような話です。
よろしければ、箸休めにでもお読みください。
「あちらは、クリスミー前子爵夫妻だよな?」
なぜ呼ばれているのか疑問に思っていたが、二人の様子にベルアンジュを想っていることはすぐに分かった。ゆえに教会でわざわざ聞くのも失礼だと思っていたが、ようやく訪ねることにした。
「はい、亡くなった娘さんが、ベルアンジュの唯一の友人だったそうで」
「そうだったのか」
それならば、この場に私よりも相応しいだろうと、ラオルス公爵は思った。
「夫人に墓地で偶然お会いしたのです。私もベルアンジュから友人のことは聞いていたのですが、お名前を聞いていなかったもので…」
ラオルス公爵は確かに葬儀には、二人は来ていなかったことを思い出していた。
ルイフォードは今更にはなるが、ラオルス公爵にもカイリから聞いたベルアンジュの話をしておこうと思った。
「娘さんは、子どもの頃に流行り病で亡くなられたそうなのですが、ベルアンジュがお見舞いに行っていたことで、感染を疑われて、ソアリ伯爵は、ベルアンジュを半年間も物置小屋で生活させていたそうです」
「な!」
「なんですって!」
特に声を上げたのはラオルス公爵夫人であった。ランバートが母上、落ち着いてくださいと宥めている。
「おそらく、医者にも診せてもいないでしょう。クリスミー前子爵夫妻もさすがに抗議を行ったそうです。それで出られたようですが、お二人が行かなかったら、半年以上になっていたかもしれないのです」
「ふざけやがって!」
ラオルス公爵は顔を歪ませて、苦々しい気持ちになった。
「ベルアンジュはお二人に迷惑が掛かる、友人に会えなくなることを危惧して、自分の境遇を話さなかったのではないかとおっしゃっていました」
「それは、悔しいことだけど、気持ちは分かるわ」
「夫人も裁かれて良かったとおっしゃっていました」
「ああ…」
怒り狂った夫人を落ち着かせるためにも、ラオルス公爵たちが移動をして、ルイフォードはクリスミー前子爵夫妻に声を掛けた。
「是非、息子たちに会ってやってください」
「ありがとうございます」
「こんな、こんな、嬉しいことはありません」
ルイフォードは再び、まるでベルアンジュの父親と母親だと思った。
「リオードとジュリと言います。ベルアンジュが名付けました」
「いい名前ですね」
「ええ、トーリはウリちゃんに対抗して、ベルアンジュ様をアンジュちゃんと呼んでおりました」
「そうでしたか」
「二人とも、笑った顔が幼い頃のベルアンジュ様によく似てらっしゃるわ」
二人はリオードとジュリをあやしながら、微笑み合っていた。それは孫を可愛がる祖父母のようでもあった。
だが、楽しそうにしながらも、嬉し涙なのか、ベルアンジュがいない悲しい涙なのか分からないが、二人は目尻に涙を溜めていた。
実際の祖父母とは認めることはないソアリ伯爵家には勿論、一周忌を知らせることはなかった。彼らはベルアンジュのことも考えることもないのだろう。
いまだにソアリ伯爵家の考えていることが理解が出来ない。
そして、リオードとジュリも交えて、ベルアンジュを真に想う人だけの限られた人数ではあるが、茶話会は賑やかな時間となった。クリスミー前子爵夫妻は、部屋に飾られたベルアンジュの写真を、食い入るようにハンカチを片手に見つめていた。
茶話会が終わり、クリスミー前子爵夫妻には、約束通りにベルアンジュからの手紙を手渡した。
「ありがとうございます」
「ああ、ベルアンジュ様の字だわ…やっぱり、とても綺麗な字ね」
カイリはトーマスの受け取った手紙のベルアンジュ字を撫でながら、話した。
「ああ、そうだな」
宛名だけで二人は涙ぐんでおり、ルイフォードはベルアンジュにとても喜んでいるよと、語りかけていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
いつものごとく思ったより長くなってしまっておりますが、
そろそろ終わりに向かって書いております。
そして、息抜きとして書いていた作品を、
本日17時に公開するようにしております。
この作品とは全く違いギャグのような話です。
よろしければ、箸休めにでもお読みください。
3,234
あなたにおすすめの小説
元婚約者は戻らない
基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。
人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。
カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。
そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。
見目は良いが気の強いナユリーナ。
彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。
二話完結+余談
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。
藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」
憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。
彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。
すごく幸せでした……あの日までは。
結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。
それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。
そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった……
もう耐える事は出来ません。
旦那様、私はあなたのせいで死にます。
だから、後悔しながら生きてください。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。
感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。
たくさんの感想ありがとうございます。
次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。
このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。
良かったら読んでください。
『紅茶の香りが消えた午後に』
柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。
けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。
誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。
花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果
藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」
結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。
アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。
※ 他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる