3 / 62
異世界の中心で婚約を叫ぶ
しおりを挟む
短時間に連続して怒りをぶちまけ続けた父親は遂に血圧が上がりすぎたのか、その場に卒倒してしまった。
「お医者様を呼んできて頂戴!」
私がメイドにそう言いつけると直ぐに一人の医師が現れた。定期的に往診を頼んでいる医師が邸宅内にいたという。なるほど……それで『医者の嫁』という言葉が出たわけね、などと一人で納得しているうちに、医師はテキパキと診察し素早く治癒魔法をかける。おそらく相当、腕がいいのだろう。
しかしそんなことはどうでも良かった。赤茶色の髪にブラウンの瞳。整った目鼻立ち。少し身なりはくたびれているが、かなりイケメンで私のドストライクのビジュアルをしている。
そう……彼を見た瞬間、私は恋に落ちていた。
「治癒魔法をおかけいたしましたので、安静にしていただければ、直ぐにご快復されるかと」
「ご結婚って、されてます?」
彼の説明が終わるか終わらないかのうちに堪らず私は、質問した。
「いえ、しておりませんが、それが何か?」
「私を嫁にして下さいませんか?」
突然の逆プロポーズに医師は変な生き物を見るような目で私を見る。
「何を突然……」
「父が貴方様と結婚するようにと」
「グレイスお嬢様は、第二王子とご婚約中と伺っておりますが」
ジワジワと彼は私から逃げようと後退するが、私は彼の手をパッと取り、その場に引き止める。
「あら、私の名前をご存知でしたのね。宜しければ貴方様のお名前も聞かせていただけませんか?」
「キースと申しますが、御父上が倒れられた時に、このようなお戯れはおやめ下さい」
「いえ、実は先ほど、第二王子に婚約破棄されましたの。それで父からキース様と結婚するように――と命じられたところでして……」
少し事情は異なるがあながち間違いではない。私の説明を聞いたキースさんは飽きれたように大きくため息をつく。
「私が二十一にもなって独り身なのは『結婚していない』のではなく、職業柄『結婚できない』からなんですよ。おそらく公爵様はそんな医者と結婚することになるぞ……という訓戒として私のことを挙げられたのでしょう。もう一度話し合われては?」
確かに『医者の嫁』は決して理想的な結婚というニュアンスで父が使っていなかったような気もする。でも日本では『医者の嫁』と言ったら、主婦のヒエラルキーでもトップに位置する存在だ。
一方、国王を除いた貴族社会ではトップに位置する『公爵』である父。かの有名な「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」的なニュアンスで「王子の嫁になれないならば医者の嫁になればいいじゃない」と言ったのだろう。おそらく前世の貧乏女子大生の感覚なら、十分幸せになれるに違いない。
「婚約破棄された私なぞ、嫁にしたくありませんよね……」
押してダメならば引く作戦だ。そう言って情熱的な瞳で見つめると、キースさんは「くそっ」と短く悪態をついて頭をかいた。
「分かった。じゃあ、このまま俺の診療所についてこい。忙しいし金もないから、貴族が挙げるような結婚式もできないがいいんだな?」
私を試すかのように、見据えながらそう言うキースさんの眼差しは酷くセクシーだった。おそらく結婚式に憧れている少女の夢を打ち壊し諦めさせる寸法だろう。ただ見た目は十七歳の小娘だが、前世の年齢も合わせると三十九歳の私。そんな小手先のやり方では諦めませんことよ。
「お医者様を呼んできて頂戴!」
私がメイドにそう言いつけると直ぐに一人の医師が現れた。定期的に往診を頼んでいる医師が邸宅内にいたという。なるほど……それで『医者の嫁』という言葉が出たわけね、などと一人で納得しているうちに、医師はテキパキと診察し素早く治癒魔法をかける。おそらく相当、腕がいいのだろう。
しかしそんなことはどうでも良かった。赤茶色の髪にブラウンの瞳。整った目鼻立ち。少し身なりはくたびれているが、かなりイケメンで私のドストライクのビジュアルをしている。
そう……彼を見た瞬間、私は恋に落ちていた。
「治癒魔法をおかけいたしましたので、安静にしていただければ、直ぐにご快復されるかと」
「ご結婚って、されてます?」
彼の説明が終わるか終わらないかのうちに堪らず私は、質問した。
「いえ、しておりませんが、それが何か?」
「私を嫁にして下さいませんか?」
突然の逆プロポーズに医師は変な生き物を見るような目で私を見る。
「何を突然……」
「父が貴方様と結婚するようにと」
「グレイスお嬢様は、第二王子とご婚約中と伺っておりますが」
ジワジワと彼は私から逃げようと後退するが、私は彼の手をパッと取り、その場に引き止める。
「あら、私の名前をご存知でしたのね。宜しければ貴方様のお名前も聞かせていただけませんか?」
「キースと申しますが、御父上が倒れられた時に、このようなお戯れはおやめ下さい」
「いえ、実は先ほど、第二王子に婚約破棄されましたの。それで父からキース様と結婚するように――と命じられたところでして……」
少し事情は異なるがあながち間違いではない。私の説明を聞いたキースさんは飽きれたように大きくため息をつく。
「私が二十一にもなって独り身なのは『結婚していない』のではなく、職業柄『結婚できない』からなんですよ。おそらく公爵様はそんな医者と結婚することになるぞ……という訓戒として私のことを挙げられたのでしょう。もう一度話し合われては?」
確かに『医者の嫁』は決して理想的な結婚というニュアンスで父が使っていなかったような気もする。でも日本では『医者の嫁』と言ったら、主婦のヒエラルキーでもトップに位置する存在だ。
一方、国王を除いた貴族社会ではトップに位置する『公爵』である父。かの有名な「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」的なニュアンスで「王子の嫁になれないならば医者の嫁になればいいじゃない」と言ったのだろう。おそらく前世の貧乏女子大生の感覚なら、十分幸せになれるに違いない。
「婚約破棄された私なぞ、嫁にしたくありませんよね……」
押してダメならば引く作戦だ。そう言って情熱的な瞳で見つめると、キースさんは「くそっ」と短く悪態をついて頭をかいた。
「分かった。じゃあ、このまま俺の診療所についてこい。忙しいし金もないから、貴族が挙げるような結婚式もできないがいいんだな?」
私を試すかのように、見据えながらそう言うキースさんの眼差しは酷くセクシーだった。おそらく結婚式に憧れている少女の夢を打ち壊し諦めさせる寸法だろう。ただ見た目は十七歳の小娘だが、前世の年齢も合わせると三十九歳の私。そんな小手先のやり方では諦めませんことよ。
59
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる