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梅干し作り~トラブル編~
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「グレイス!大変だ!」
休日ということもあり、久々に午後のティータイムを楽しんでいたところ、金切り声に近い声が現実に引き戻された。
「オリバー様……。どうなさったんですの? そんなに慌てられて」
梅酒を持ってきてからというもの、数日に一度はオリバーが診療所に訪れるようになっていた。診療時間、診療時間外、そんなことはお構いなしに、気が向いた時に訪れるという自由さに最初は閉口していたが、一週間もしないうちに『そんなもんだ』と思えるようになっていた。慣れとは恐ろしい。
オリバーが診療所へやってくる理由はまちまちだが、最近では梅の話ばかりしている。どうやら私に預けた梅を無駄遣いしていないか、気が気でないのだろう。『タダでくれてやる』なんて言っていたが、ちゃんと大切な作物として認識しているようだ。
「“ウメボシ”にカビが生えているぞ」
「あら……」
梅干し作りにとって、カビは大敵である。梅酒を実家で漬けていた彼もまたカビの危険性を認識しているのだろう。
「全部で十壺ほど漬けておりましたので、気が付きませんでしたわ。どちらの壺ですの?」
「こっちだ」
オリバーは喜々としながら、私を梅干し壺が並ぶ一階診療所へ案内した。普段は仏頂面なことが多い彼だが、心なしか手柄を立てたと言わんばかりの自慢げな表情を浮かべているのが分かる。
カビができる要因は大きく分けて三つ存在する。
・分量を間違えた時。
・水気をしっかりとふき取っていない時。
・梅酢に漬かり切っていない時。
分量は、薬剤を量るための計量機(ほぼ使われていないけど)で量ったので問題ないはずだ。おそらく梅が多すぎたため作業が雑になり、水気をしっかりと拭き取れていなかったに違いない。
「カビが生えて“ウメボシ”とやらは大丈夫なのか?」
「勿論でございます。状態にもよりますが……」
オリバーが指さした梅坪を持ち上げ、中を確認する。ガラス状になっているため、全部を取り出さなくても分かるのがありがたい。
「梅の一部がカビていて、梅酢が濁っていない場合は、カビている梅を……こうして、取り出してやれば大丈夫でございますわ」
カビが生えている梅を静かに持ち上げ、梅酢から取り出す。
「そうなのか?」
「ええ。もし梅酢にカビが発生した場合は、梅酢を布でこして鍋で沸騰させます。粗熱が取れたらもう一度、ろ過して壺に戻し、温度が下がってから梅を戻して漬け直せば大丈夫ですわ」
「それは面倒だな」
梅干しを毎年漬けていたが、実はカビはかなりの確率で発生する。何がいけないのか悩んだこともあったが、祖母の友人で梅干し農家の人によると無菌状態で制作しないかぎり、カビが生えるのは「当たり前」なのだという。結局、毎日壺の状態を観察し、カビを早期に発見するしかないのだとか。
「オリバー様が見つけてくださったおかげです。早期に発見できましたから、大事には至りませんでした。ありがとうございます」
上品な笑顔を浮かべてお礼を言うと、オリバーは顔を少し赤くして何か言いたそうにモゴモゴと口ごもっている。おそらくカビを発見し、自慢げにしていたのが恥ずかしかったに違いない。
「よろしければ、今朝焼きましたお菓子もありますので、お茶にしませんこと?」
「いただこう」
何事もなかったように二階へ戻ろうと階段へ向かうと、ちょうどキースさんがそこにいた。
「あら、キース様も梅干しを気にかけてくださったんですか?」
「オリバーの声がしたのに、二人がいなかったから……」
珍しくキースさんもモゴモゴと何かを言いたそうに口ごもっている。やはり母親が違うとはいえ、兄弟なのだろうか。
「ふふふ、お二人共ありがとうございます。ぜひケーキを召し上がってくださいませね」
『梅干し』を大切にしてもらっていることが、まるで自分のことのように嬉しくなり私は上機嫌で二階へ続く階段を駆け上がった。その後ろで二人が静かな兄弟喧嘩を繰り広げていたこととも知らず。
休日ということもあり、久々に午後のティータイムを楽しんでいたところ、金切り声に近い声が現実に引き戻された。
「オリバー様……。どうなさったんですの? そんなに慌てられて」
梅酒を持ってきてからというもの、数日に一度はオリバーが診療所に訪れるようになっていた。診療時間、診療時間外、そんなことはお構いなしに、気が向いた時に訪れるという自由さに最初は閉口していたが、一週間もしないうちに『そんなもんだ』と思えるようになっていた。慣れとは恐ろしい。
オリバーが診療所へやってくる理由はまちまちだが、最近では梅の話ばかりしている。どうやら私に預けた梅を無駄遣いしていないか、気が気でないのだろう。『タダでくれてやる』なんて言っていたが、ちゃんと大切な作物として認識しているようだ。
「“ウメボシ”にカビが生えているぞ」
「あら……」
梅干し作りにとって、カビは大敵である。梅酒を実家で漬けていた彼もまたカビの危険性を認識しているのだろう。
「全部で十壺ほど漬けておりましたので、気が付きませんでしたわ。どちらの壺ですの?」
「こっちだ」
オリバーは喜々としながら、私を梅干し壺が並ぶ一階診療所へ案内した。普段は仏頂面なことが多い彼だが、心なしか手柄を立てたと言わんばかりの自慢げな表情を浮かべているのが分かる。
カビができる要因は大きく分けて三つ存在する。
・分量を間違えた時。
・水気をしっかりとふき取っていない時。
・梅酢に漬かり切っていない時。
分量は、薬剤を量るための計量機(ほぼ使われていないけど)で量ったので問題ないはずだ。おそらく梅が多すぎたため作業が雑になり、水気をしっかりと拭き取れていなかったに違いない。
「カビが生えて“ウメボシ”とやらは大丈夫なのか?」
「勿論でございます。状態にもよりますが……」
オリバーが指さした梅坪を持ち上げ、中を確認する。ガラス状になっているため、全部を取り出さなくても分かるのがありがたい。
「梅の一部がカビていて、梅酢が濁っていない場合は、カビている梅を……こうして、取り出してやれば大丈夫でございますわ」
カビが生えている梅を静かに持ち上げ、梅酢から取り出す。
「そうなのか?」
「ええ。もし梅酢にカビが発生した場合は、梅酢を布でこして鍋で沸騰させます。粗熱が取れたらもう一度、ろ過して壺に戻し、温度が下がってから梅を戻して漬け直せば大丈夫ですわ」
「それは面倒だな」
梅干しを毎年漬けていたが、実はカビはかなりの確率で発生する。何がいけないのか悩んだこともあったが、祖母の友人で梅干し農家の人によると無菌状態で制作しないかぎり、カビが生えるのは「当たり前」なのだという。結局、毎日壺の状態を観察し、カビを早期に発見するしかないのだとか。
「オリバー様が見つけてくださったおかげです。早期に発見できましたから、大事には至りませんでした。ありがとうございます」
上品な笑顔を浮かべてお礼を言うと、オリバーは顔を少し赤くして何か言いたそうにモゴモゴと口ごもっている。おそらくカビを発見し、自慢げにしていたのが恥ずかしかったに違いない。
「よろしければ、今朝焼きましたお菓子もありますので、お茶にしませんこと?」
「いただこう」
何事もなかったように二階へ戻ろうと階段へ向かうと、ちょうどキースさんがそこにいた。
「あら、キース様も梅干しを気にかけてくださったんですか?」
「オリバーの声がしたのに、二人がいなかったから……」
珍しくキースさんもモゴモゴと何かを言いたそうに口ごもっている。やはり母親が違うとはいえ、兄弟なのだろうか。
「ふふふ、お二人共ありがとうございます。ぜひケーキを召し上がってくださいませね」
『梅干し』を大切にしてもらっていることが、まるで自分のことのように嬉しくなり私は上機嫌で二階へ続く階段を駆け上がった。その後ろで二人が静かな兄弟喧嘩を繰り広げていたこととも知らず。
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