悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー

文字の大きさ
13 / 62

梅干し作り~後編~

しおりを挟む
 手洗いで体力の半分以上を消費したリタとレオだが、人手が増えたこともあり、診療時間前には十壺分の梅干しを干し終わることができた。おそらく『豪華な昼食』を用意する約束が効果的だったに違いない。

「明日も来たらいい?」

 具だくさんのサンドイッチを頬張りながら、レオは嬉しそうにそう聞くが私は首を横に振る。

「二日後にお願いできるかしら?」

「え?なんで?俺、この昼飯が食えるなら毎日でも来てもいいよ?」

  レオは残念そうに食い下がる。一日一食ということも多いという彼らにバランスのとれた食事は何よりの魅力なのかもしれない。

「二日目と三日目は夕方には取り込まず、そのまま夜も干したままにするから作業らしい作業がないの。夜露にあてるのがコツなの。四日目に…つまり明後日ね。その夜には完成して壺に戻すから、その時にまた来てくれるかしら?今度は夕飯をごちそうするわ」

「やった~~!」

 二人は嬉しそうに頷く。

「保存する時は梅酢に戻すのか?」

 メモを片手にそう聞くキースさんに私は首を横に振った。

「保存する時は別の密閉できる容器などに入れます」

「どんな味がするのか楽しみだな。梅酒みたいな味なんだろ?」

 梅干しを食べたことがない人間からすると、ごく自然な予想に私は思わずニヤリと微笑む。

「できてからのお楽しみですわ」

 不思議なもので転生後は一度も梅干しを食べていないが、今でも梅干しのことを考えると、ジワリと口の中に唾液が溢れ出す。あの味をキースさんが食べたら……と思うと、やはり意地の悪い笑みが浮かんでしまう。



「ねぇ、グレイスさんって、キース先生のお嫁さんなのよね?」

 二日後の夜、市場で買ってきた壺に梅干しを詰めながら、リタがそう聞いた。

「正式にはまだ結婚していないけどね」

「ってことは、キース先生の『心に決めた人』なの?」

 思わぬ質問に私は、小さく首を傾げる。そんな話、初耳だ。

「キース先生ってね、みんなを助けてくれるでしょ?だからみんなが先生のこと大好きなの。うちのお姉ちゃんだけじゃなくて、レオのお姉ちゃんや隣の隣のお姉ちゃん達もキース先生のお嫁さんになりたいって言ってたの」

 決してリッチではないが、多くの女性にとってイケメンで医者のキースさんは憧れの存在に違いない。

「キース先生が、この診療所に来てくれた時、レオのお姉ちゃん……すっごい美人なんだけどね、そのお姉ちゃんがキース先生に『結婚して』ってお願いしたの。でもキース先生が『心に決めた人がいるから』って、お断りしたってうちのお姉ちゃんが言っていた」

 私は平静を装いながら「へぇ~」と感心してみせるが、深い池に投げ込まれた石のように静かに絶望に飲み込まれていた。


『心に決めた人』がいるから、キースさんは私と結婚しようとしないのだ。


  近所に住む女性にならばハッキリとそう言えたのだろうが、父がキースさんに援助している都合上、私に対してはハッキリとそう言えなかったに違いない。

「なるほどね……」

 思わず心の声が漏れて、リタとレオは不思議そうな表情を浮かべる。

「でも、キース先生が嫌になったら、俺がグレイスさんを嫁にもらってやるぜ!」

 励まそうと必死でそう言ったレオをリタが手に持っていた壺で殴りつける。

「あんたとなんか、グレイスさんが結婚するわけないでしょ!」

 少し半泣きになりそうなリタを見て、私は思わず微笑んだ。先ほどまで絶望に沈みそうになっていたが、彼らの初恋が私の気持ちを軽くする。

「大丈夫よ。今、忙しいだけなの。落ち着いたら私、キース先生と絶対結婚するから」

 私は二人を安心させるための小さな嘘をついた。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました

志熊みゅう
恋愛
 十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。  卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。  マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。  その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。  ――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。  彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。  断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!

あざとさを捨てた令嬢は、若き公爵に溺愛される

古紫汐桜
恋愛
婚約者の裏切りを目撃し、命を落とした“私”が目を覚ましたのは、 見知らぬ貴族令嬢の身体の中だった。 そこは、誰かの悪意によって評判を地に落とした世界。 かつて“あざとさ”で生きていた彼女の代わりに、 私はその人生を引き受けることになる。 もう、首を揺らして媚びる生き方はしない。 そう決めた瞬間から、運命は静かに歪み始めた。 冷酷と噂される若公爵ユリエル。 彼もまた、自らの運命に抗い続けてきた男だった。 そんな彼が、私にだけ見せた執着と溺愛。 選び直した生き方の先で待っていたのは、 溺れるほどの愛だった。 あざとさを捨てた令嬢と、運命に翻弄される若公爵。 これは、“やり直し”では終わらない、致命的な恋の物語。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

処理中です...