30 / 62
虎穴に入った結果、二つの大収穫!!
しおりを挟む
そもそもアルコール除菌スプレーに精油の香りが必要なのだろうか……ということだ。おばあちゃんが精油入りの除菌スプレーを使っていたから、当然精油がいると思っていたが、冷静に考えれば1%未満の精油よりもアルコールの方が『除菌』の役割を果たしているはずだ。
しかし今更ながら、『工場見学は結構です』とは言い出せず、精油に続きフローラルウォーターの製造過程も見学することになった。
「こちらがフローラルウォーターでございます」
ラルフに案内された場所は公開されている工房の裏手に存在した。清潔感のある作業場だが、来客の目に触れることはない。
「先ほども説明しましたが、植物を水蒸気にあてて精油成分を気化させ、冷ますことで油部分を採取し『精油』を作成します」
壁からは一本の管が伸びており、そこに大量の液体が流れ込むのが見えてくる。
「その時、油ではなく水溶性の液体ができるのですが、それをフローラルウォーターと呼びます。精油ほど濃度が高くないのですが一定の効果が期待できますし、香りも豊かですので香水や化粧品などに利用しております」
大量の植物を使って、わずかな精油を作ることを考えると、非常に多くの液体が一度に生産されているのが分かる。副産物的な存在で、利用価値が高いのも理解できるが、結局精油を作らなければ意味がない。
「これを自宅で作りたい場合は、大きな鍋を使えば簡単にできます」
「鍋?」
私の難しそうな表情を察してか、ラルフは再び代替案を提案してくれる。
「大きな鍋にハーブと水を入れ、その上にザルのようなものを置き台を作ります。その上に容器を設置し、蓋をします」
「それだけでできるの?」
「一度沸騰させてから鍋を冷やし、蒸気が液体になり鍋のふたを伝って容器の中に集まればフローラルウォーターでございます。精油よりも簡単に作れるかと存じますが」
「色々教えてくださって本当にありがとうございます」
アルコール除菌スプレーに精油を使わなかったとしても、フローラルウォーターならば今後様々な商品に活用できるに違いない。
「でも、こんな企業秘密教えてしまって本当にいいんですか?」
「とても懐かしい人にグレイス様が似ていたから……つい口が滑ってしまったのですよ」
なんとも妖艶なリップサービスに、思わず苦笑いがもれてしまう。おそらく数日後、私が不在の公爵邸に情報料を回収せんとばかりに、従業員が商品を売りつけに来るにちがいない。
大収穫を得てラルフの店を出ると、そこには所在なさげにしているキースさんが待っていた。
「お待たせしてしまい大変申し訳ございません」
「今、来たところだから、大丈夫だよ。で、どうだった?」
「ええ、大収穫がございました。それでキース様はどちらへ行っていらっしゃったの?」
「骨董市があったから見て回っていたんだ」
広場には週に一度、露店が所せましと並び、週ごとに様々なものが販売されている。日によって、骨董、花、布、本と商品は変わっていく。
「何か掘り出し物でもございましたか?」
「古いもので申し訳ないんだけど、よかったら貰って」
キースさんはそう言うと、私の手のひらに何かを握らせた。不思議に思いながらゆっくりと手を開くと、そこには小さな赤い石が載った指輪があった。
「キース様、こ、これ?!」
「いや、そんな深い意味じゃなくて、その……あれだ。うん、最近、人の出入りも多いし、ここに居る間だけでも付けていた方がいいかな……って」
しどろもどろになるキースさんを前に思わず私は涙があふれてくる。長かった……本当に長かった……。
「だから、婚約指輪じゃないからな!!!!」
指輪を握りながら涙を流す私にキースさんは慌てて弁明するが、時既に遅しだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【参考文献】
HerbMagazine:お鍋で作る手作りハーブウォーター(最終閲覧日:2019年5月16日)
http://www.herb-magazine.com/archives/885
【御礼】
お気に入り登録、本当にありがとうございます。
「面白かった!」「お勧めのおばあちゃんの知恵があるよ!」という方は感想をいただけると嬉しいです。
しかし今更ながら、『工場見学は結構です』とは言い出せず、精油に続きフローラルウォーターの製造過程も見学することになった。
「こちらがフローラルウォーターでございます」
ラルフに案内された場所は公開されている工房の裏手に存在した。清潔感のある作業場だが、来客の目に触れることはない。
「先ほども説明しましたが、植物を水蒸気にあてて精油成分を気化させ、冷ますことで油部分を採取し『精油』を作成します」
壁からは一本の管が伸びており、そこに大量の液体が流れ込むのが見えてくる。
「その時、油ではなく水溶性の液体ができるのですが、それをフローラルウォーターと呼びます。精油ほど濃度が高くないのですが一定の効果が期待できますし、香りも豊かですので香水や化粧品などに利用しております」
大量の植物を使って、わずかな精油を作ることを考えると、非常に多くの液体が一度に生産されているのが分かる。副産物的な存在で、利用価値が高いのも理解できるが、結局精油を作らなければ意味がない。
「これを自宅で作りたい場合は、大きな鍋を使えば簡単にできます」
「鍋?」
私の難しそうな表情を察してか、ラルフは再び代替案を提案してくれる。
「大きな鍋にハーブと水を入れ、その上にザルのようなものを置き台を作ります。その上に容器を設置し、蓋をします」
「それだけでできるの?」
「一度沸騰させてから鍋を冷やし、蒸気が液体になり鍋のふたを伝って容器の中に集まればフローラルウォーターでございます。精油よりも簡単に作れるかと存じますが」
「色々教えてくださって本当にありがとうございます」
アルコール除菌スプレーに精油を使わなかったとしても、フローラルウォーターならば今後様々な商品に活用できるに違いない。
「でも、こんな企業秘密教えてしまって本当にいいんですか?」
「とても懐かしい人にグレイス様が似ていたから……つい口が滑ってしまったのですよ」
なんとも妖艶なリップサービスに、思わず苦笑いがもれてしまう。おそらく数日後、私が不在の公爵邸に情報料を回収せんとばかりに、従業員が商品を売りつけに来るにちがいない。
大収穫を得てラルフの店を出ると、そこには所在なさげにしているキースさんが待っていた。
「お待たせしてしまい大変申し訳ございません」
「今、来たところだから、大丈夫だよ。で、どうだった?」
「ええ、大収穫がございました。それでキース様はどちらへ行っていらっしゃったの?」
「骨董市があったから見て回っていたんだ」
広場には週に一度、露店が所せましと並び、週ごとに様々なものが販売されている。日によって、骨董、花、布、本と商品は変わっていく。
「何か掘り出し物でもございましたか?」
「古いもので申し訳ないんだけど、よかったら貰って」
キースさんはそう言うと、私の手のひらに何かを握らせた。不思議に思いながらゆっくりと手を開くと、そこには小さな赤い石が載った指輪があった。
「キース様、こ、これ?!」
「いや、そんな深い意味じゃなくて、その……あれだ。うん、最近、人の出入りも多いし、ここに居る間だけでも付けていた方がいいかな……って」
しどろもどろになるキースさんを前に思わず私は涙があふれてくる。長かった……本当に長かった……。
「だから、婚約指輪じゃないからな!!!!」
指輪を握りながら涙を流す私にキースさんは慌てて弁明するが、時既に遅しだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【参考文献】
HerbMagazine:お鍋で作る手作りハーブウォーター(最終閲覧日:2019年5月16日)
http://www.herb-magazine.com/archives/885
【御礼】
お気に入り登録、本当にありがとうございます。
「面白かった!」「お勧めのおばあちゃんの知恵があるよ!」という方は感想をいただけると嬉しいです。
48
あなたにおすすめの小説
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~
鏑木カヅキ
恋愛
十年ものあいだ人々を癒し続けていた聖女シリカは、ある日、婚約者のユリアン第一王子から婚約破棄を告げられる。さらには信頼していた枢機卿バルトルトに裏切られ、伯爵令嬢ドーリスに聖女の力と王子との婚約さえ奪われてしまう。
元聖女となったシリカは、バルトルトたちの謀略により、貧困国ロンダリアの『愚醜王ヴィルヘルム』のもとへと強制的に嫁ぐことになってしまう。無知蒙昧で不遜、それだけでなく容姿も醜いと噂の王である。
そんな不幸な境遇でありながらも彼女は前向きだった。
「陛下と国家に尽くします!」
シリカの行動により国民も国も、そして王ヴィルヘルムでさえも変わっていく。
そしてある事件を機に、シリカは奪われたはずの聖女の力に再び目覚める。失われたはずの蘇生聖術『リザレクション』を使ったことで、国情は一変。ロンダリアでは新たな聖女体制が敷かれ、国家再興の兆しを見せていた。
一方、聖女ドーリスの力がシリカに遠く及ばないことが判明する中、シリカの噂を聞きつけた枢機卿バルトルトは、シリカに帰還を要請してくる。しかし、すでに何もかもが手遅れだった。
盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない
当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。
だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。
「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」
こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!!
───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。
「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」
そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。
ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。
彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。
一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。
※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。
冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!
山田 バルス
恋愛
婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!
冤罪で処刑されたら死に戻り、前世の記憶が戻った悪役令嬢は、元の世界に帰る方法を探す為に婚約破棄と追放を受け入れたら、伯爵子息様に拾われました
ゆうき
恋愛
ワガママ三昧な生活を送っていた悪役令嬢のミシェルは、自分の婚約者と、長年に渡っていじめていた聖女によって冤罪をでっちあげられ、処刑されてしまう。
その後、ミシェルは不思議な夢を見た。不思議な既視感を感じる夢の中で、とある女性の死を見せられたミシェルは、目を覚ますと自分が処刑される半年前の時間に戻っていた。
それと同時に、先程見た夢が自分の前世の記憶で、自分が異世界に転生したことを知る。
記憶が戻ったことで、前世のような優しい性格を取り戻したミシェルは、前世の世界に残してきてしまった、幼い家族の元に帰る術を探すため、ミシェルは婚約者からの婚約破棄と、父から宣告された追放も素直に受け入れ、貴族という肩書きを隠し、一人外の世界に飛び出した。
初めての外の世界で、仕事と住む場所を見つけて懸命に生きるミシェルはある日、仕事先の常連の美しい男性――とある伯爵家の令息であるアランに屋敷に招待され、自分の正体を見破られてしまったミシェルは、思わぬ提案を受ける。
それは、魔法の研究をしている自分の専属の使用人兼、研究の助手をしてほしいというものだった。
だが、その提案の真の目的は、社交界でも有名だった悪役令嬢の性格が豹変し、一人で外の世界で生きていることを不審に思い、自分の監視下におくためだった。
変に断って怪しまれ、未来で起こる処刑に繋がらないようにするために、そして優しいアランなら信用できると思ったミシェルは、その提案を受け入れた。
最初はミシェルのことを疑っていたアランだったが、徐々にミシェルの優しさや純粋さに惹かれていく。同時に、ミシェルもアランの魅力に惹かれていくことに……。
これは死に戻った元悪役令嬢が、元の世界に帰るために、伯爵子息と共に奮闘し、互いに惹かれて幸せになる物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿しています。全話予約投稿済です⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる