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ディランとユアンとフレデリックの深夜会議~大聖女の婚約者~
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深夜の工場でその会議は静かに行われていた。
「あれは絶対、会話していたよな……」
フレデリックは空いたグラスに自ら酒を注ぎながら数時間前のことを振り返る。冒険者として五年以上活躍している彼にとって魔物との遭遇は日常だったが、グレイスのように会話する人間を見るのは初めてだったのだ。同じテーブルを囲むディラン、ユアンも神妙に頷いた。
「動物に『可愛いですね~』と一人で話しかけるのとは違った」
一方的に話しかけるのではなく、会話のやりとりを楽しんでいるという様子すら見られたことを三人は思い出していた。
「グレイスは『大聖女』的な特殊能力があるのか?」
既にディランとユアンの間では『梅肉エキス』の件以来、グレイスに特殊な能力があるのではないか……と疑惑があったが、フレデリックの『大聖女』という言葉で改めて彼女が特別な存在であることを認識させられた。
「ハッキリとは分かりませんが、グレイス様が作られた物には特殊な効能が見受けられます。今日ふりかけられた虫よけスプレーも材料は大したものではありませんでしたが、虫一匹寄りつきませんでした」
ユアンはそう言いながらも今日手にすることができたシャモンドの状態を一本一本丁寧に確認していた。
「もし……もしの話だけどよ」
ディランはつまみとして持ってきた豆の殻をつつきながら、口に出していいものか……と言葉を転がす。
「もし、グレイスが『大聖女』で、俺達の誰かと結婚したら、俺達ってまた王族に戻れるのかな」
ディランのとんでもない発言に二人は思わず彼の顔を覗き込む。誰かに聞かれたら政治的問題に発展しかねない発言だ。なぜなら『魔王』を倒した『勇者』が王に即位できるように、『大聖女』は王の伴侶となることが暗黙の了解として決まっているからだ。
「ディランは戻りたいんですか?」
ユアンの問いかけにディランは慌てた様子で否定する。
「いや、戻りたいわけじゃねぇんだよ。物心がついて少しした頃には商人としての生活があったし、今の生活に不満があるわけじゃない。たださ、『王族』ってどんなかな……って、気にならねぇか?」
「知りたくもない」
フレデリックはそう言って、先ほど満たしたばかりのグラスを一気にあおり、勢いよくそれを机に置く。
「ただ『大聖女』かどうかは別として、グレイスを嫁にはしたいと思う」
「な、なに言ってんの?!」
弟の爆弾発言に、今度はディランが耳を疑う番だった。
「魔物と会話ができる聖女が、ギルドマスターの嫁だったら冒険者も増えるだろ」
「個人的に好意があるとか、そういうわけじゃないんだな……」
「その点ならば、私もグレイス様を妻にできたら――、とは思いますね」
フレデリックの思惑に安堵するものの、今度はユアンに発言にディランは度肝を抜かれる。
「あの人と色々な植物を探して、色々な製法を試して……薬師として一緒に働けたら――」
そう言いながらウットリするユアンに、ディランは大きくため息をつきながらも、内心安堵していた。目的は違えどもグレイスに対する想いに大きな違いがないことを気づけたからだ。
「でもさ、グレイスはキースと婚約しているだろ」
自分で出しておいた仮定の話を、話が膨らむ前にディランは自ら否定する。グレイスと出会ってから、彼が何度も行ってきたことだ。
「キースは結婚する気ないだろ」
「そうですね。『婚約』していると、言っていますが、あくまでもスタンスでしょうね」
しかし二人の弟達は、その『否定』をあっさりと却下した。
「グレイスの幸せのことを考えて、結婚する気はねぇが、手放すことができねぇんだろうな~」
ディランも内心、キースの思惑は分かっていた。だから自分にも可能性がわずかでも残っているのではないか……と期待してしまうのだ。
「グレイス様が自ら診療所を去ってくれるのを待っているんでしょうね」
「愛だな」
「愛だね~」
「愛ですね」
三人三様、深く頷きながら目の前にあるグラスをあおった。
「あれは絶対、会話していたよな……」
フレデリックは空いたグラスに自ら酒を注ぎながら数時間前のことを振り返る。冒険者として五年以上活躍している彼にとって魔物との遭遇は日常だったが、グレイスのように会話する人間を見るのは初めてだったのだ。同じテーブルを囲むディラン、ユアンも神妙に頷いた。
「動物に『可愛いですね~』と一人で話しかけるのとは違った」
一方的に話しかけるのではなく、会話のやりとりを楽しんでいるという様子すら見られたことを三人は思い出していた。
「グレイスは『大聖女』的な特殊能力があるのか?」
既にディランとユアンの間では『梅肉エキス』の件以来、グレイスに特殊な能力があるのではないか……と疑惑があったが、フレデリックの『大聖女』という言葉で改めて彼女が特別な存在であることを認識させられた。
「ハッキリとは分かりませんが、グレイス様が作られた物には特殊な効能が見受けられます。今日ふりかけられた虫よけスプレーも材料は大したものではありませんでしたが、虫一匹寄りつきませんでした」
ユアンはそう言いながらも今日手にすることができたシャモンドの状態を一本一本丁寧に確認していた。
「もし……もしの話だけどよ」
ディランはつまみとして持ってきた豆の殻をつつきながら、口に出していいものか……と言葉を転がす。
「もし、グレイスが『大聖女』で、俺達の誰かと結婚したら、俺達ってまた王族に戻れるのかな」
ディランのとんでもない発言に二人は思わず彼の顔を覗き込む。誰かに聞かれたら政治的問題に発展しかねない発言だ。なぜなら『魔王』を倒した『勇者』が王に即位できるように、『大聖女』は王の伴侶となることが暗黙の了解として決まっているからだ。
「ディランは戻りたいんですか?」
ユアンの問いかけにディランは慌てた様子で否定する。
「いや、戻りたいわけじゃねぇんだよ。物心がついて少しした頃には商人としての生活があったし、今の生活に不満があるわけじゃない。たださ、『王族』ってどんなかな……って、気にならねぇか?」
「知りたくもない」
フレデリックはそう言って、先ほど満たしたばかりのグラスを一気にあおり、勢いよくそれを机に置く。
「ただ『大聖女』かどうかは別として、グレイスを嫁にはしたいと思う」
「な、なに言ってんの?!」
弟の爆弾発言に、今度はディランが耳を疑う番だった。
「魔物と会話ができる聖女が、ギルドマスターの嫁だったら冒険者も増えるだろ」
「個人的に好意があるとか、そういうわけじゃないんだな……」
「その点ならば、私もグレイス様を妻にできたら――、とは思いますね」
フレデリックの思惑に安堵するものの、今度はユアンに発言にディランは度肝を抜かれる。
「あの人と色々な植物を探して、色々な製法を試して……薬師として一緒に働けたら――」
そう言いながらウットリするユアンに、ディランは大きくため息をつきながらも、内心安堵していた。目的は違えどもグレイスに対する想いに大きな違いがないことを気づけたからだ。
「でもさ、グレイスはキースと婚約しているだろ」
自分で出しておいた仮定の話を、話が膨らむ前にディランは自ら否定する。グレイスと出会ってから、彼が何度も行ってきたことだ。
「キースは結婚する気ないだろ」
「そうですね。『婚約』していると、言っていますが、あくまでもスタンスでしょうね」
しかし二人の弟達は、その『否定』をあっさりと却下した。
「グレイスの幸せのことを考えて、結婚する気はねぇが、手放すことができねぇんだろうな~」
ディランも内心、キースの思惑は分かっていた。だから自分にも可能性がわずかでも残っているのではないか……と期待してしまうのだ。
「グレイス様が自ら診療所を去ってくれるのを待っているんでしょうね」
「愛だな」
「愛だね~」
「愛ですね」
三人三様、深く頷きながら目の前にあるグラスをあおった。
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