悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー

文字の大きさ
53 / 62

たった一つの決して冴えないやり方

しおりを挟む
「ティアナ様が妊娠しているって噂なんです」

 この話をしたくて堪らなかったという表情でエマは語る。

「エマ……、このような所に来てまで、そのお話をなさいますの?」

 私は周囲を見回して小さくため息をつく。診療所が休みということもあり、今日はディランが新しく開いたというティーサロンを訪れていた。富裕層をターゲットにした店内の内装は重厚で、インテリアも高級品がずらりと並んでいる。店内の片隅では楽器を弾く奏者もおり、王宮のサロンを彷彿させるような落ち着いた時間が流れていた。

「だからですのよ。いち早くこの情報をお伝えしたくてお呼びしました」

 テーブルの上には紅茶、シャンパン、スコーン、ケーキ、フルーツが所狭しと並んでいる。これだけ揃えるには金貨一枚は下らないだろう……。久々に見た豪華なティータイムに免じて渋々エマの話に乗ることにした。

「でも妊娠されているようでしたら、何らかの形で婚約も進むのではございませんこと?」

 現在は王位継承権二位の第二王子。第一王子が子供を持たない場合、その子供は三位という立場になる。その生母が未婚のままというのは外聞が悪すぎるのだ。正妃という形が難しくても、側妃として迎えらえるに違いない。

「ですが、まだ婚約の話は進んでいない――と専ら噂になっています」

 私の言葉を『待っていた』と言わんばかりにエマは軽く身を乗り出す。

「ここだけの話、ティアナ様は妊娠されていない、という疑惑もあるんです」

「妊娠されていない?」

「えぇ、順調に腹部は大きくなられているんですが、日によって大きすぎたり小さくなったり……あれは妊娠しているお腹ではなく、クッションか何かを入れているんだと思います」

 エマはさらに立ち上がり

「こんな風にお腹が大きいのに簡単にしゃがんだりもされるんです。一度妊娠したことがある人間には直ぐ分かりました。普通はあんなことできませんよ」

と、いかにティアナの妊娠が不自然か力説する。

「後、公式の場所に登場する時は、絶対お腹を抱えて歩くんですよ」

 こうやってね、とお腹を両手で抱えるような仕草を見せる。

「おそらくクッションがずれ落ちることを心配して手が離せないんだと思うんですよね」

 彼女にとって『妊娠』は最大の切り札だ。クッションという可能性もあるのかもしれないが、おそらく妊娠していることをアピールしている気もする。

「でも妊娠を偽装しても実際に子供がお生まれにならなければ意味がないのに……どうなさるのかしら」

「結婚後、『流産した』ということにでも、なさるんじゃないですか?」

「浅はかですわね。偽装妊娠と発覚しましたら罪に問われ、一族にも迷惑がかかるのに……」

 エマは嬉しそうに、うんうんと頷く。彼女もおそらくティアナが最後まで偽装妊娠を隠し通せると思っていないのだろう。

「きっと偽装妊娠は発覚すると思うんです。その時こそ、グレイス様が王宮に戻られる時です」

 別に王宮に戻りたいわけではないのにな……と思いつつも、反論するのが面倒になりティーカップに口をつけた。口の中で広がる紅茶の豊潤な香りが私の心を落ち着かせてくれる。

 ふと視線をあげると店の奥から顔を出しているディランが嬉しそうに手をあげた。おそらくこの茶葉一つをとっても彼の選りすぐりなのだろう。返事をする代わりに『素敵な時間をありがとう』という意味をこめて微笑みを彼に返した瞬間

「あら、グレイス様にエマではございませんこと?」

と耳障りな声が背後から投げかけられた。噂をすれば何とやら……、振り返るとそこにはティアナとその取り巻きの姿があった。
 
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる 生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。 しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。 同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。 「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」 しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。 「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」 これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

処理中です...