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梅干し湿布~頭痛にはコレで決まり!~
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「ティアナ様……」
先ほどまでの興奮ぶりとは打って変わり、エマの顔は若干蒼白になっている。私は立ち上がらず目線でティアナに軽く挨拶をする。
「ちょっと失礼じゃありませんこと?」
「ティアナ様に座ったまま挨拶するなんて」
取り巻き達が鼻息を荒くし、エマはビクビクとする。
「お久しぶりでございますわ。グレイス様」
勝ち誇ったようにそう言ったティアナは、エマが言っていたように大事なものが入っているかのように自身のお腹を抱えている。さほど大きくない腹部だが、お腹を抱えることでゆったりとした服の上からでも、その存在がはっきりと分かるようになる。
「ティアナ男爵令嬢、ごきげんよう」
私がそう言うと、ティアナの取り巻きらは「ひぃっ」と声にならない悲鳴を上げる。ティアナ本人も形の良い眉をピクリと動かした。悪役令嬢時代の悪い癖が顔をのぞかせてしまう。
ただ彼女が第二王子であるアルフレッドと結婚したならば話は別だが、現段階ではあくまでも私は『公爵令嬢』で彼女は『男爵令嬢』でしかない。学園の同級生ならいざしらず卒業した以上、本来ならば気軽に声をかけられる関係性ではない。
「卒業パーティー以降、社交界でお姿が見えなくなりましたので、殿下と共に心配しておりました」
しかしティアナは、臆した風もなくさらに言葉を続ける。私が彼女の存在に苛立ちを見せないからだろう。
「ふぅ、もしよろしければご一緒させていただけませんでしょうか」
ティアナはわざとらしくお腹を抱えてため息をつくと、私達の座る四人掛けのテーブルに視線を向けた。私は無言で手を挙げ、店員を呼ぶと、何故か店員の代わりにディランが飛んできた。ニヤニヤと笑いを堪えるので精いっぱいといった不気味な表情を浮かべている。
「何か問題でもございましたでしょうか?」
「こちらのご令嬢にテーブルをご用意して差し上げて」
「いえ、ご一緒させていただければ――」
そう言って座ろうとするティアナを手で制止して私は再びゆっくりとディランに向けて
「テーブルをご用意して差し上げて」
と一緒に座りたくない意志を伝える。ティアナの取り巻き立ちは今にも私に飛びかかりそうな勢いだが、私は顔色一つ変えずに紅茶をすする。学園時代『悪役令嬢』といわれてきたが、私からすれば彼女達に立場を教えてあげていただけにしかすぎない。
今回の一件もおそらくアルフレッドには『ティーサロンで何時間も立ちっぱなしにさせられた』と歪曲して伝えられるのだろう。キースさんもいるし、本当にどうでもいいのだが……。
「私頭痛がしてまいりましたわ……」
案の定、ティアナはディランに椅子を引かれると、フラフラとわざとらしく座った。
「ティアナ様、王宮の薬師が用意した薬がございます!!」
取り巻きの一人が大声で叫びながらバッグから薬を取り出す。薬へ私が視線を静かに移すと、聞かれてもいないのにその女は勝ち誇ったように薬について語りだした。
「ティアナ様が頭痛持ちでいらっしゃることを気にかけられたアルフレッド様が、王宮の薬師に直々に命じられて用意させたものです!!」
水戸黄門の印籠を出すように高々と薬を見せられる。吹き出しそうになるのを堪えながら、ふとあることに気付いた。
「そちらのお薬、以前からお飲みになられていたの?」
「ええ、『学園』にいた時からずっと……」
頭痛に悩まされているはずのティアナだが、何故か『学園』という言葉に力を込めてニヤリと微笑む。学園時代からアルフレッドと懇意にしていたことをアピールしたいのだろう。
「その薬は妊娠中も飲んでいいと指示がございました?」
嫌味の応酬をしようと思ったが、彼女が本当に妊娠していた場合のことを考えると非常に心配になってきた。
「え……そ、それは……」
「ティアナ様の体調は、ご実家から遣わされた医者が担当しております!」
言いよどんだティアナに代わり、取り巻きの一人が声高に説明する。回答になっていない回答だが、つまり薬を処方した人間と体調を管理する人間が異なると言いたいのだろう。
「ティアナ様、妊娠中は摂取されるお薬は医者に一つ一つ確認されるべきでしてよ。今すぐに確認できないなら……あ、そうそうコレがありましたわ」
私はエマのために持ってきた梅干しの存在を思い出した。
「これをつぶして――こめかみに貼ると頭痛が緩和しましてよ」
潰した梅干しをティアナのこめかみに貼ろうとすると、その手を勢いよくはたかれてしまった。
「そんな梅干しで治るわけないでしょ!!!!」
ティアナは顔を真っ赤にして反論する。この人は本当に頭が痛かったのだろうか……と気になったが、妊娠中ということもありホルモンのバランスが悪いのだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【注意】
作中で紹介している『おばあちゃんの知恵』はあくまでも民間療法です。経験に基づいた知識であるため体質に合わない場合があります。体調に異変を感じた場合は、直ぐに使用を中止してください。
登場人物が一定の効果を感じていると表現しておりますが、個人の感想です。
【参考文献】
おばあちゃんの生活の知恵研究会(2011年)『一生使えるおばあちゃんの知恵』Sasaeru文庫
先ほどまでの興奮ぶりとは打って変わり、エマの顔は若干蒼白になっている。私は立ち上がらず目線でティアナに軽く挨拶をする。
「ちょっと失礼じゃありませんこと?」
「ティアナ様に座ったまま挨拶するなんて」
取り巻き達が鼻息を荒くし、エマはビクビクとする。
「お久しぶりでございますわ。グレイス様」
勝ち誇ったようにそう言ったティアナは、エマが言っていたように大事なものが入っているかのように自身のお腹を抱えている。さほど大きくない腹部だが、お腹を抱えることでゆったりとした服の上からでも、その存在がはっきりと分かるようになる。
「ティアナ男爵令嬢、ごきげんよう」
私がそう言うと、ティアナの取り巻きらは「ひぃっ」と声にならない悲鳴を上げる。ティアナ本人も形の良い眉をピクリと動かした。悪役令嬢時代の悪い癖が顔をのぞかせてしまう。
ただ彼女が第二王子であるアルフレッドと結婚したならば話は別だが、現段階ではあくまでも私は『公爵令嬢』で彼女は『男爵令嬢』でしかない。学園の同級生ならいざしらず卒業した以上、本来ならば気軽に声をかけられる関係性ではない。
「卒業パーティー以降、社交界でお姿が見えなくなりましたので、殿下と共に心配しておりました」
しかしティアナは、臆した風もなくさらに言葉を続ける。私が彼女の存在に苛立ちを見せないからだろう。
「ふぅ、もしよろしければご一緒させていただけませんでしょうか」
ティアナはわざとらしくお腹を抱えてため息をつくと、私達の座る四人掛けのテーブルに視線を向けた。私は無言で手を挙げ、店員を呼ぶと、何故か店員の代わりにディランが飛んできた。ニヤニヤと笑いを堪えるので精いっぱいといった不気味な表情を浮かべている。
「何か問題でもございましたでしょうか?」
「こちらのご令嬢にテーブルをご用意して差し上げて」
「いえ、ご一緒させていただければ――」
そう言って座ろうとするティアナを手で制止して私は再びゆっくりとディランに向けて
「テーブルをご用意して差し上げて」
と一緒に座りたくない意志を伝える。ティアナの取り巻き立ちは今にも私に飛びかかりそうな勢いだが、私は顔色一つ変えずに紅茶をすする。学園時代『悪役令嬢』といわれてきたが、私からすれば彼女達に立場を教えてあげていただけにしかすぎない。
今回の一件もおそらくアルフレッドには『ティーサロンで何時間も立ちっぱなしにさせられた』と歪曲して伝えられるのだろう。キースさんもいるし、本当にどうでもいいのだが……。
「私頭痛がしてまいりましたわ……」
案の定、ティアナはディランに椅子を引かれると、フラフラとわざとらしく座った。
「ティアナ様、王宮の薬師が用意した薬がございます!!」
取り巻きの一人が大声で叫びながらバッグから薬を取り出す。薬へ私が視線を静かに移すと、聞かれてもいないのにその女は勝ち誇ったように薬について語りだした。
「ティアナ様が頭痛持ちでいらっしゃることを気にかけられたアルフレッド様が、王宮の薬師に直々に命じられて用意させたものです!!」
水戸黄門の印籠を出すように高々と薬を見せられる。吹き出しそうになるのを堪えながら、ふとあることに気付いた。
「そちらのお薬、以前からお飲みになられていたの?」
「ええ、『学園』にいた時からずっと……」
頭痛に悩まされているはずのティアナだが、何故か『学園』という言葉に力を込めてニヤリと微笑む。学園時代からアルフレッドと懇意にしていたことをアピールしたいのだろう。
「その薬は妊娠中も飲んでいいと指示がございました?」
嫌味の応酬をしようと思ったが、彼女が本当に妊娠していた場合のことを考えると非常に心配になってきた。
「え……そ、それは……」
「ティアナ様の体調は、ご実家から遣わされた医者が担当しております!」
言いよどんだティアナに代わり、取り巻きの一人が声高に説明する。回答になっていない回答だが、つまり薬を処方した人間と体調を管理する人間が異なると言いたいのだろう。
「ティアナ様、妊娠中は摂取されるお薬は医者に一つ一つ確認されるべきでしてよ。今すぐに確認できないなら……あ、そうそうコレがありましたわ」
私はエマのために持ってきた梅干しの存在を思い出した。
「これをつぶして――こめかみに貼ると頭痛が緩和しましてよ」
潰した梅干しをティアナのこめかみに貼ろうとすると、その手を勢いよくはたかれてしまった。
「そんな梅干しで治るわけないでしょ!!!!」
ティアナは顔を真っ赤にして反論する。この人は本当に頭が痛かったのだろうか……と気になったが、妊娠中ということもありホルモンのバランスが悪いのだろう。
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【注意】
作中で紹介している『おばあちゃんの知恵』はあくまでも民間療法です。経験に基づいた知識であるため体質に合わない場合があります。体調に異変を感じた場合は、直ぐに使用を中止してください。
登場人物が一定の効果を感じていると表現しておりますが、個人の感想です。
【参考文献】
おばあちゃんの生活の知恵研究会(2011年)『一生使えるおばあちゃんの知恵』Sasaeru文庫
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