悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー

文字の大きさ
60 / 62

死が二人を分かつまで

しおりを挟む
 アルフレッドによって振り上げられた剣を受けたのは私の身体ではなく、背丈ほどある大剣だった。

「あっぶねぇ」

 大剣の持ち主であるフレデリックは、まるで小さな虫を追い払うようにアルフレッドの剣をそのまま薙ぎ払う。

「今はこれしかないが飲ませろ」

 そう言うと腰のバッグから小さな回復薬を私に投げる。初級回復薬だが、ないよりはましだ。おそらく火竜を捕獲するため、高級回復薬などは既に消費してしまっているのだろう。

「ありがとう!」

 私は短くお礼を言い、受け取った回復薬をキースさんに飲ませた。先ほどまでは息も絶え絶えという様子だったが、回復薬のおかげで呼吸が少し楽になったようだ。

「グレイス……泣きすぎ……」

 キースさんはそう言いながら血まみれの手で私の頬に触れる。

「だって……」

「笑って。俺は笑ったグレイスの顔が好きだ」

 笑えるはずがない。このまま回復してくれる誰かがいなければきっと彼は息絶えてしまう。

「大丈夫……。本当はもっと早くこうしたかったから……」

「どういうことですの?」

 頬に添えられたキースさんの手を思わず強く握ってしまう。

「誰かのものになる君なんて見たくなかった」

「ずっと一緒ですわ。もうすぐお医者様がいらっしゃいますもの。そしたら直ぐに治りますわ」

 それは願望でしかなかったが、現実を伝えてしまうと私自身が泣き崩れてしまいそうだった。火竜がいなくなったこともあり、周囲にはワラワラと人が集まり始めている気配は感じられた。だが医者が登場する気配などない。

「俺では君を幸せになんてできないから。これでいいんだよ」

「なんで勝手に決めるの!!」

 私は思わず叫んでいた。

「確かに私は何も持っていないし無力だけど――」

 公爵邸を出てからそのことを痛感させられる毎日だった。『公爵令嬢』という立場に甘んじ何者にもなろうとしなかった。そんな私が『第二王子の妻』『医者の嫁』になりたかったのは、何者でもない自分を隠すためだった。それを診療所での生活が教えてくれた。

「それでも私は……誰かに幸せにしてもらわなくたって幸せになれる!! キースさんは居てくれるだけで幸せになれるのに。どうして勝手に決めるの」

 激高した私を初めて見たのか、キースさんはやや驚いたような表情を浮かべる。

「絶対死なせない」

 キースさんを握る手に力を込めて、顔を上げた。

「フレデリック様、冒険者のヒーラーはおりませんの?!」

 アルフレッドを警戒しながら大剣を構えるフレデリックの背中に呼びかける。彼がここにいるならば、おそらくその仲間も一緒にいるに違いない。

「ここの住人を救助している!お前がやれ」

「でも私――」

「傷に手を当てて願え。娼婦の女を治しただろ!あれと同じだ」

 娼婦の女……レオ姉のことだろうか、あれは最初から怪我などしていなかったはずだが……。

「いいから願え!このまんまじゃ、キースは死ぬぞ!!」

 回復薬のおかげで会話もできていたが、キースさんの唇は紫になり顔面も蒼白だ。迷っている暇はないのかもしれない。

 キースさんの傷に両手を当てるとヌルリとした血の感触が伝わり、全身に鳥肌が立つ。レオ姉の時とは比べ物にならない程、出血しているのだろう。

 止まって!!!

 目を閉じながら心の中でそう強く願うと、自分の手のひらが温かくなるのを感じた。キースさんの体温かと思ったが、それにしては高すぎる。ふと目を開くと私の手のひらを中心に薄い緑色の光が広がっている。回復魔法が使えている――そんな自信と共に

 治って。
 
と再び強く願うと、その光はより濃厚になり傷口がふさがっていく。手を傷口に沿って動かすと、それだけで傷口は綺麗に回復していった。

「凄いな……」

 自分の身体を確認しながら、キースさんは感動の言葉を口にする。

「内臓までいったと思ったんだけど……全然痛くない」

 医者が大丈夫というのだから、おそらく大丈夫なのだろう。私は嬉しくなりキースさんに抱きついた。

「さすが大聖女だな。一瞬で治しやがった」

 フレデリックは感心したように私達の方を見て笑う。

「大聖女……グレイスが大聖女なのか?」

 その不穏な声に再び、その場に緊張感が張り詰める。アルフレッドはフラフラと私とキースさんの元へ歩み寄ってきた。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

恋愛は見ているだけで十分です

みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。 そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。 色んな意味で、“じゃない方”なお話です。 “恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?” 今世のナディアは、一体どうなる?? 第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。 ❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。 ❋主人公以外の視点もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。 ❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...