放課後に消えた少女たち~意味が分かると怖い、学校の怪談〜

荒井竜馬@書籍発売中

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第9話 深夜に動く人体模型

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「夜中に廊下を走る人体模型?」

「おう。聞いたことないか?」

 私が休み時間に美紀ちゃんとお話をしていると、急に智君がそんなことを聞いてきた。

 美紀ちゃんは顔をフルフルと横に振って、きょとんとした顔をしている。

 夜中に廊下を走る人体模型……。

 私はしばらく考えてから、小さくあっと声を漏らす。

「もしかして、人体模型が色々悪戯されてるからそんな噂が流れたの?」

「そうそう。人体模型が動かないとあの悪戯は説明できないんだよ」

 智君はそう言うと、ニッと笑みを浮かべる。

 すると、智君の隣から眼鏡をかけた健太君がひょっこりと顔を出した。

「人体模型が、眼鏡をかけたり、絆創膏を貼ったりしてたんだぜ。人体模型が人の眼鏡を奪ったり、絆創膏を自分で貼ったりしているとしか思えないだろ?」

「えー、ただ生徒の悪戯でしょ」

 うちの学校は怖い話や七不思議などが存在する。

 夏になった今、テレビ番組や動画配信者がホラー特集などを扱うことが多くなり、このクラスも休み時間には怖い話などをして盛り上がっている。

 そして、学校の七不思議や怪談話では人体模型が廊下を走るというのは定番だ。

 だから、生徒のうちの誰かが人体模型に悪戯をしたのだろう。こうして、怪談話として盛り上がるために。

 そういえば、昨日の帰りのホームルームでも、先生が人体模型に悪戯した人を見つけようと躍起になっていた。

 結局、誰も犯人が名乗り出なかったけど。

 あの手の犯人探しって、ただ帰る時間が遅れちゃうだけなんだよね。

 私がそんなことを考えていると、智君は小さく横に首を振る。

「いや、悪戯をするのは無理なんだよ」

「どういうこと?」

 私は智君がサラッといった言葉に首を傾げる。

「準備室の鍵は職員室にしかない。職員室の鍵以外で準備室の鍵を開けるためには、内側から鍵を開けるしかないんだよ」

「え、そうなの?」

「ああ。だから、先生たちが悪戯をしているか、人体模型が自ら動いているかのどっちかなんだよ」

 初めはただの怪談話かと思って聞いていたけど、確かにそれなら智君が悪戯ではないと言っていることにも納得がいく。

 というか、先生たちだってそれは分かっているはずだ。

 それなのに、あんなに必死に人体模型にいたずらした人を探すってことは、何か意味があるのかな?

 私が考え込んでいると、智君は言葉を続ける。

「先週、隣のクラスの三輪と遠藤が突然学校に来なくなっただろ?」

「え、そうなの?」

「噂では、人体模型の秘密を知ってしまったらしい。それで消されたんだとか」

「あれ? 私は引っ越したって聞いたけど」

 私たちの会話を静かに聞いていた美紀ちゃんはきょとんと首を傾げる。

 智君と健太君は美紀ちゃんの言葉に目をぱちくりさせていた。

……どうやら、美紀ちゃんの言葉の方が信憑性が高そうだ。

私がジトっとした目を智君たちに向けると、二人は小さく咳ばらいをした。

「とにかく、俺たちはその真相を知るために今夜学校に忍び込もうと思うんだ。紗枝たちも来るか?」

「夜の学校? うーん」

 正直、噂の信憑性は薄いし、本当に人体模型が走っているのかもとは思ってはいない。

 それでも、夜の学校で肝試しというイベントには少し興味があった。

 そして、それと同じくらい気になることもある。

 仮に人体模型が夜の学校を走っているとしたら、一体何がしたいのだろうか?

 ただの運動? ストレス解消?

 私にはその人体模型の行動が意味のないことにしか思えない。

 ……もしも偶然、何かの間違いで廊下を走る人体模型を見ることができれば、この疑問は解消されるかな?

 私はそんな少しの好奇心に押されて、智君たちの誘いを受けることにしたのだった。



 そして、私たちは一度帰宅してから夜の学校に集まった。

 無事校舎の中に侵入した私たちは、懐中電灯で廊下を照らしながら静かに歩く。

「おお、夜学校って結構怖いな」

「ね、昼間と違うところみたいに感じる」

 私は智君の言葉に頷いてから、懐中電灯で辺りを照らす。

 普段は怖いと思ったことなんてないのに、私たちの声以外に何も聞こえてこない学校は不気味な感じがした。

 不意に姿見に映る自分と目が合って、私は慌てるように視線を逸らした。

 なんだか、自分じゃないようなモノを見た気がした。

 気のせいなんだろうけれど、夜の学校ということもあってか、緊張感を抱かずにはいられなかった。

 どうしよう、想像よりも怖いかも。

「せっかく中に入れたんだし、色々探索してみるか?」

「夜の学校……花子さんとか?」

 智君がふざけていった言葉に、意外と美紀ちゃんはノリノリだった。

 そんな美紀ちゃんの提案もあって、私たちは少しだけ夜の学校を見て回ることになったのだった。

 本気で怖いと思っているのは私だけなのかな?

 そんなことを考えながら、私はみんなの後ろをついていった。



「色々見たけど特に変わったことはなかったな」

 健太君は残念そうにため息を漏らして、眼鏡をくいっと上げる。

「まぁ、こんなもんだよね」

 私はそう言いながら、バレないように胸をなでおろす。

でも、みんなが残念がる気持ちも少しは分かる気がする。

怖い話を本気で信じていたわけではないけれど、ここまで何もないとさすがに少し肩透かし感がある。

「せっかく、智君たちが学校に入れるように準備してくれていたのにね」

 私が何気なくそんなことを呟くと、智君たちはきょとんとした顔を私に向けてきた。

「準備?」

「別に、俺たち何もしてないけど。なぁ、健太」

 顔を見合わせて頷き合う二人を見て、私はピタッと足を止める。

「……昇降口から入れるように、昇降口の鍵を開けといてくれたんでしょ?」

「いいや、そんなことしても先生に閉められるだろ。さすがに、先生たちも戸締りはちゃんとするって」

 智君に当たり前のように言われて、私は自分の鼓動が嫌な速さになるのを感じた。

「窓の鍵開けといたから、本当はそっちから入ろうとしたんだよ。でも、なぜか昇降口がちょっと開いてたんだよ。いや、ラッキーだったぜ」

「ま、待って、健太君。それっておかしくない?」

 昇降口の戸締りなんて一番気にするところだ。

 それに、鍵だけじゃなくて昇降口の扉まで開けているなんて普通じゃない。

 そんなの、誰かが入ってくるのを誘っているようにしか見えない。

「え? なにが?」

 ガラッ。

 健太君が首を傾げて私の方を振り向いた瞬間、どこかから扉を開く音が聞こえてきた。

 私は生唾を呑み込んでから、恐る恐る廊下の一番端にある理科準備室の方を懐中電灯で照らした。

 すると、そこには人影があった。

「あ、あの、もしかして、先生か誰かですか?」

 私は上擦りそうになる声を押さえながら、何とかそう口にした。

 すると、それからしばらくして、その人影は勢いよく私たちの方を振り向いた。

 私たちの方に振り向いたのは人などでなく、プラスチックでできた臓器を丸見えにしている人体模型だった。

「え、じ、人体模型?」

 美紀ちゃんが震え声でそう言った瞬間、人体模型は私たちの方にダッシュで向かってきた。

表情を一切変えずに勢いよく迫ってくる人体模型は恐怖でしかない。

「「「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

私たちは声を揃えて悲鳴を上げると、一目散に逃げだした。

ヤバいヤバい、ヤバい!!

何がヤバいのかも分からないけど、捕まったらヤバいことだけは本能で分かった。

「な、なにあれ! なんなの?!」

 泣き出しながら走る美紀ちゃんの声を聞きながら、私たちはただ必死で追ってくる人体模型から逃げる。

「わ、分かんないけど――うわっ!!」

 階段を転げ落ちるように下っていくと、智君が足を踏み外して、階段から転げ落ちた。

「いっつ」

「智! 大丈夫か?!」

 すぐに健太君ととともに智君のもとに掛けよって、智君の足元を照らしてみる。

「え、智君、血が出てるよ!」

「だ、大丈夫。擦りむいただけだから」

 智君は階段にあった何かを踏んでしまったのか、足に深い切り傷を負ってしまった。

 擦りむいただけにしては血の量が多すぎる。

「うわっ、凄い量の血じゃんかよ。傷も大きいぞ、これ」

 健太君も私と同じことを考えたようで、智君の足を見て驚く声を漏らしていた。

「どうしよう! このままじゃ追いつかれるよ!」

 しかし、美紀ちゃんの叫ぶ声を聞いて、智君の足の具合を心配している場合ではないことに気がつく。

 このまま人体模型に追いつかれたらどうなるのか。

 想像をしただけでも震えが止まらなくなる。

「よっし、一旦、分かれよう! 俺たちが分散すれば、人体模型も動揺するかもしれないしな!」

 智君はそう言うと、ぐっと力を入れて立ち上がった。

 階段から落ちて足から血を流しているのに、逃げることなんてできるのだろうか?

 智君は意気込むように私たちにそう言ったけど、その肩は小さく震えていた。

「じゃ、じゃあ、後で校門前に待ち合わせにしよう! 絶対に、人体模型なんかに捕まるなよ!」

 健太君はそう言うと、慌てるように廊下を走り去っていった。

 智君のことが心配ではあるけど、このままだとみんな人体模型に捕まってしまう。

「じゃあ、また校門でね!」

 この場から一目散にいなくなった健太君の後に続くように、美紀ちゃんも健太君とは違う方向に逃げていった。

 智君のことをも心配だけど、このままだと私も捕まってしまう。

「そ、それじゃあ、また校門で」

「……ああ」

 私はそう考えると、智君をその場に残して走り去った。

 私は智君の顔を見ることもできずに、文字通り逃げ出したのだ。

 ごめん、智君。

 そんなふうに心の中で謝りながら、私は必死に校門目指して走った。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! や、やめてくれぇ!!」

 それから少しして、深夜の校舎に智君の悲鳴が響くのだった。



「「「……」」」

 智君の悲鳴を聞いて少しして、私たち三人は校門の前に集まっていた。

 もちろん、校門の前には智君の姿はなかった。

「「「……」」」

 私たちは誰も言葉を発することができなかった。

 智君を見捨ててしまったことに対する罪悪感で、ただ泣きじゃくることしかできない。

「うっ、ぐすっ」

「ううっ……」

 私と美紀ちゃんが涙と鼻水で顔をグシャグシャにして泣いていると、健太君がえっと信じられないものを見たような声を漏らした。

「さ、智!?」

 健太君の声を聞いて、私と美紀ちゃんは勢いよく顔を上げる。

 すると、そこには気まずそうに頭を掻いている智君の姿があった。

「いやー、ビビったぜ。なんとか逃げ切れたわ」

 いつものような笑みを浮かべている智君を見て、私は気が抜けたようにぺたんとその場に座り込んでしまった。

「よかったぁ、本当によかったよぉ」

 そんなふうに泣きじゃくる美紀ちゃんを見ながら、私は力なく笑みを浮かべる。

 ……ひどい悪夢を見せられてるみたいだ。

いつもと変わらない、足に傷一つ残っていない智君を見て、私はそんなことを思うのだった。



 翌日、また先生は人体模型に悪戯した生徒がいると犯人捜しをした。

 今度の悪戯は、人体模型の足に傷をつけたというものらしい。

 それは、大量の血が垂れてきそうなくらい深い切り傷だった。

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