ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問2 全てを注ぎ込む方法を示せ

問2-4

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 崩れ落ちた先で待ち受けていたのは、予想通り大小様々なトラップと、姿が見えぬ攻撃の数々だった。
 足元に気を配っていると上から降ってくる剣の束。注意しながら通路を曲がろうとすると背後から数発の攻撃。慌てて振り返るとすでにそこに彼の姿は無く、なんとかやり返そうと大雑把に攻撃しようとするが、今度はまた更に後ろから転がって来た大質量の丸い岩に轢き殺されそうになる。
 少しパニックになりながら罠を避け、ときに当たり、攻撃を弾き、ときに食らう。つかず離れず私のそばにいるであろう彼に対して、私はデタラメに攻撃カードを切り続けていた。
 そこから十数分。ようやく罠が散発的になり、私にも冷静さが戻ってきた。

「なんなんですか、これ……」

 このビルの中には、全ての行動を見られているかのように、私に対してあらゆる角度から攻撃が来る。
 しかもそれらは大きなダメージを与えられるようには出来ておらず、あざ笑うかのように小さなダメージを積み重ねただけだ。費用対効果が圧倒的に低い。
 普通、罠といえば相手にかけるのがそもそも難しく、かかったときには大きなリターンがあるものだ。そうでなければわざわざ手間がかかることをしようとは思わない。
 それがどうだ。このビルの中では、私はいとも容易く罠にかかる。普通ならそんなことが起これば試合にはならない。罠にハマり続けたプレイヤーの末路など目も当てられない大敗でしかあり得ない。
 だがそうなってはいない。それはすなわち――

「遊ばれてる、ってことでしょうか」

 

 はじめの私の感情は、あくまで調査。冷静だった。
 次の私の感情は、小さな恐怖。彼の策略に足を踏み入れ、心に恐れを抱いた。
 そして今の私の感情は……悔しさ。
 なめられた。あなどられた。
 この程度で死ぬようじゃつまらない、そう彼に思われた。
 その悔しさがどんどん膨れ上がると、それは変化し、真っ赤な怒りに自分が支配されていくのを感じた。

「もう、絶対に、勝たせたくなくなりましたよ……?」

 目的? 調査? もうそんなことはどうでもいい。
 たぎる感情に身を任せる。思うがままに体を動かそう。私は意識的にリミッターを外し、全力での戦闘モードに切り替えた。

 私が得意とするのは、アバターの操作でも、作戦を練る頭でも、ましてやデッキを構築する能力でもない。
 誰にも負けない特技、それは「感情のコントロール」。
 一般的な「怒らないようにする」「緊張しないようにする」「自然体で挑む」などといったレベルではない。怒ろうと思えばすぐに肉親が殺されたかのように怒ることが出来るし、冷静になろうと思えば全ての感情を排して状況の分析だけに特化させることも出来る。
 それだけでもあらゆる物事はスムーズに動くだろうが、私はそれに加えて「最大の怒りを抱えながら、完全な冷静さを保てる」のだ。
 どういうことかと言うと、体はその憤怒によって150%の力が溢れ出るのに、頭は平時の落ち着きで状況判断ができ、まるでプレッシャーのない練習のように無駄がなくスムーズに動くことができるという事。
 結果、私は誰よりも自分自身のポテンシャルを最大限に引き出す事が可能となり、それは普通に感情によって揺れ動く人々よりも大きく優位に立つという事に他ならない。
 そう、育てられたのだ。

 こうなった私に勝った相手は、未だかつて1人しかいない。
 そして、それは彼ではない。

 無邪気に飛び回り、突然のトラップにおののき、冷静さを失った私はもうそこにはいない。
 後は勝利を得るために動くだけ。私を阻むものは、全てなぎ倒しながら。

「さあ、どこですか、シトラスさん」

 ひりつくような気配を感じる。彼からのプレッシャーが変わったのが分かる。ようやく本気を出してくれる気になったのだろう。そうでなくっちゃ。

 私は【龍鱗の加護】を再びアクティブ化すると、【猪突爆進】で眼前の扉をぶち抜きながら室内に飛び込んだ。すぐに部屋の中をぐるっと見渡すと、慌てて反対側の扉から部屋を飛び出した彼の後ろ姿がちらりと見えた。

「逃さないですよ。ジャンプ!」

 既にアクティブ化していた【視界跳躍】で部屋の端まで飛び、そのまま次のカードを切る。

業突く張りごうつくばりの夢】
 領域を指定し、その範囲内にいるプレイヤーを「時間停止」させるステータスカードだ。
 時間停止はほんの一瞬。その一瞬でも自身に反動のダメージが入るデメリットが設定されているほど強力なカードだ。だがそのデメリットは【龍鱗の加護】で打ち消す。
 カードを2枚切ってようやく追いついた。その一瞬の足止めが追いつくためには必要だった。

 私は既に次の攻撃カードを準備していたので、それを彼に向かって放つべくアクションを行おうとし、――ぎりぎりで留まった。

 彼の姿が無い。

 私の視界の中、崩れ落ちた壁に塞がれた10mほどの通路には少量の瓦礫と剥がれた壁紙だけしか存在しなかった。
 【業突く張りの夢】での足止めは、一切のカウンターを受け付けない。デメリットもある代わりに、最上級の優先度を持つステータスカードだ。そのカードが届かないということは、「既にそのカードが切られることを読み切ってもう1手早く移動カードを打っていた」としか考えられない。
 コントロールされた感情は動かない。だが、感銘は受ける。それがただの逃げの1手だとしても、このタイミングで確実にその手を選んだ彼の読みに私は心底敬意を抱いた。
 だが、それもそこまで。
 移動カードには必ず条件がある。無条件に移動出来てしまうと、ゲームの根幹が揺るがされてしまうからだ。
 その条件の一つに、「内側から外側に即座に移動出来るカードは存在しない」という物がある。
 これがあると、機能しなくなるトラップ系カードがあったり、あまりにも簡単に戦線の離脱が出来てしまうという問題が発生する。
 なので、その条件を満たしながら移動するとなると、まだごくごく近い範囲に彼はいる。ただそれが見えていないだけなのだ。

 見えないならば、そのままで構わない。この攻撃が当たる範囲にいてくれれば上々。

 【あなたの辿る結末】を、4閃。前後左右に大きく引っ張ったそれを放つと、ついでとばかりに【豪腕ごうわん:三日月】を階上と階下にそれぞれ振るう。
 赤い死のラインが周囲の壁を切り抜きながら飛んでいき、大きな仮想の筋肉質な腕が削り取った跡が、上下の階層をつなぐ穴としてその場に残った。

 画面を確認すると、彼のライフゲージは大きく削れていた。
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